上へ行くエスカレーターの中、今にも吹き出しそうなギンを乱菊が睨みつけ、葵が間に入ってなだめていた。
「しょうがないでしょ!
重たいって私の辞書には『胸が重たい』と『その思いは重たい』の2つしか載ってないのよ!」
「けどすごい自然に聞けてましたよ乱菊。」
「せやせや。
発音も流れるように自然やったわ。」
「黙らっしゃい!」
真っ赤になっている乱菊を扇いでやりながら、とりあえずパソコンの知識は少し手に入れられたことを報告する。
相当多機能だというくらいを知るのが精一杯だったが。
「そんでさっき葵と話しとったんやけど、誰が一番長く店員に話聞けるか比べてみるかーってなってな。
乱菊の記録は今のな。」
「え!?
そういうのは話聞く前に知らせるもんでしょ!」
「せやかてお前絶体店員に色仕掛けして時間稼ぐやん。」
「まあね!」
それでもそこそこ長く話を聞けた方だと思ったのか、もう一度聞く気力がないのか、しぶしぶ了承した。
ギンは最後が良いというので、次は葵が行くことに。
「ええと私の階は2階なので…生活用品コーナーですね。」
「あら、やりやすそうね。
何を選ぶかは自由なの?」
「階に着いて一番最初に目に入ったもの、にしたわ。」
「へえ、ここの階は何がメイン……」
と言いかけた時、ちょうど2階に到着した。
全員揃ってふと顔を上げた先にあったのは、『ごパンメーカーフェア開催中』の派手な広告。
その下に妙な大きさの四角い箱。
「ごパン…とは何でしょうね。」
「ぱそこんと同レベルでわっかんないわね…」
「葵、女の店員選びや。」
「あ、そうよね。
気をつけるのよ葵。」
「はい。」
物怖じせずスタスタと展示場へ歩いていき、慎重に当たりを見渡した。
そしてどうやら手が空いているらしい女性の販売員を見つけると、向こうも葵の存在に気づいたのか歩み寄ってくる。
先程の乱菊が聞いたパソコンよりも大々的に宣伝されていないことから、正直に一から聞いてみようと心構えをした。
「いらっしゃいませ、気になったものはございましたか?」
「はい、あの………これはどういった機械なんですか?」
「こちらはごパンメーカーと言いまして…」
「お、先に向こうに発音させたわ。
学んどるな。」
「ご↑ぱ↓ん↓ね…。」
「これでえっと…パンを作れるんですか?」
「それは一般的なホームベーカリーですね。
こちらは何とご飯からパンを作れる魔法のような機械なんですよ!」
「えっ」
その時背後からガタガタッと何かがなし崩しに倒れる音が聞こえ、店員が一瞬不振そうにそちらを見やる。
多分今の説明を聞いた約二名がカルチャーショックを受けたせいであろうことを葵だけが知っていた。
「ご飯からパンを…?」
「はい、パンを作る粉と一緒に洗った白米をいれていただくと作り出せるんです。」
「それはすごいですね、ではパンからご飯は?」
「えっ」
「あ、原理的に出来るかなと思ったんですが…」
「えーっとどうでしょう、すみません他の者に聞いてみます。
主任ー!」
「!」
「あ、あれあかんな。」
「主任って今振り返った奴?
男じゃない。」
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