―電気店―



「…ここ来たかったん?」

「そうよ!」



目の前にあるのは巨大な家電量販店。
この大きさならば恐らく名の知れたチェーン店なのだろうと予想がつく。



「どうせなら瀞霊廷から一番かけ離れた所に来たかったのよね、私。」

「確かにかけ離れてますね。」

「僕らまず『電気』からして無縁やからね。」

「レッツゴー♪」



鼻歌を歌う乱菊に押されながら、やたらと明るい店内に足を踏み入れた。
ここが4階まであることは入り口の見取り図で確認したので、とりあえず下から責めていくことにする。



「地下は飲食店ばかりみたいだから1階からでいいわよね。
ここにあるのはえーとぱそ…こん?」

「ぱそこんコーナーって何や。
店員に聞いてみよか。」

「…この発言はギリギリどうなのでしょうね。」



ぱそこんが現世でどれだけ重要かは知らないが、1階のフロアをまるまる埋め尽くすのだから相当有名な物に違いない。
そこへ一応外見的にはうら若き男と女が「ぱそこんって何ですか?」と聞くのは果たしてよくある光景なんだろうか。



「…よし、私聞いてくるわ。」

「うわ、勇者やでこいつ。」

「じゃあ会話が聞き取れるくらいのところにいますね。」



そろりと乱菊の隣の通路に移り、商品越しに向こうを観察する。
乱菊当人も売り出されている中の一つへ適当に目星をつけると、その辺りを嫌と言うほど選んでいる店員へ声をかけた。



「ちょっといい?このぱそこんについて聞きたいんだけど。」

「はい、こちらのパソコンでございますね?」



「…ああ、ぱそこんの発音ってパ↓ソ↑コ↑ン↓なんやね。」

「乱菊の発音、ぱ↑そ↓こ↓ん↓でしたからね。」

「真っ赤になっとんであいつ。」

「ファイトです乱菊。」



「そ、そうそうパソコン!
それでえーと…これは何が充実してるの?」

「はい、こちらは最近新しく出た○○の前シリーズですのでお求めやすい価格でBlu-rayや高速インターネットがお楽しみいただけます。」

「(ぶるーれい?)
それはいいわね〜、あーそれ以外は?」

「あとはこちらのメモリが○○でCPUも××で、容量も小型ながら8Gございますので動画サイトも重たくなりません。」

「え?重たくなるの?」

「はい、やはり体感的にどうしても…」

「ど、どのくらい?
1kgくらい?」

「いっ…!」

「(ッアウトーーー!!)」



店員が笑顔のまま声を詰まらせたのを見た瞬間、気づいたら頭を下げてその場から走り出していた。
後ろから小さく笑い声が耳に届いてしまった。



 

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