5




「お前……妹が目ぇかけてるからって贔屓なんじゃねえの」
「贔屓って、酷いなあ」

俺はそんなつもりないよ、と続けるネフリーは"妹が目をかけてる"の部分を否定することは無かった。
ネフリーのことだ、そこに気づいているのなら多少は意識するだろうし、そもそも今回の件に限らずネフリーが新人に甘すぎる事自体ユージンは良しとしてはいなかった。そして今回は流石に目に余る、釘を刺すにはうってつけの機会だったのだ

「まあでもハッシュのこと気にかけてるのはあるけどさ、別にイオナがどうとかじゃないんだ

……なんか、昔の俺を思い出すんだよね。似てるっていうか」
「…お前のどこが似てんだよ」
「見た目の話じゃないし性格……うん似てないよね」

性格ならと言いかけて考えたネフリーがやっぱり似てないなと力なく笑う。じゃあどこが、とユージンが眉を顰めると額にできたしわを見たネフリーは自分の額を指しながら"老けるぞー?"と冗談めかしながら笑って続ける

「生き方って言ったら伝わる?生き急いでるっていうかさ、お前に殴られた時の俺みたいだなって…覚えてる?」
「…当たり前だろ、忘れるかよあんなこと」
「ハハ…そうだよね俺も忘れらんないよ」


昔、まだ鉄華団がCGSだった頃、彼らがまだ参番組だった時代ー
ネフリーとユージンの仲は今程よくはなく、というかユージンの方が一方的にネフリーに対して嫌悪感を持っていたのだがその頃に1度だけ直接掴みかかって喧嘩……という単語は適切でないのかもしれないが、揉めたことがあった。

内容は簡単に言ってしまえば生死感の違いだったのだが、ネフリーは他人が自分の生死感に違和感を抱くことも手を出すほど怒ってしまうくらい関心があるのだということも衝撃で、人生を変えられたとすら思っているくらいには大切な人生のターニングポイントだった

「今のハッシュには俺にとってのお前みたいな存在が必要だと思うんだ」
「な、なんだよ急に」
「あの時俺を殴ってくれたのがお前だったみたいにさ、ハッシュにも手網握って引き戻してやる誰かがいないとなって見てて思うわけだよ

まあきっとそれは俺じゃない方がいいんだろうけど、俺も見守ってやりたいなってね」

転ばないように見ててやるのも大人の仕事だろ、なんて言うネフリーに"こいつもただ甘やかしている訳では無い"のだと感心していたが、丸めこまれそうになっていたユージンはハッとした。

「それとモビルスーツに乗る話は別だろ」
「そうかも、じゃあやっぱり贔屓かな?」
「認めんのかよ…」
「ユージンが言ったんでしょ、お前は俺の事よく見てるからさあユージンが言うならそうかもってたまに思うんだよね」
「なんだそれハッキリしねえな」
「信頼してるってことさ、なあ副団長サマ?」
「茶化すなよ!」
「ははっ」


ちょっと嬉しく思っていたユージンの気持ちを最後の最後で台無しにした笑いながら背を向けて歩き出したネフリーの姿にユージンはため息をついた。ネフリーはいつもこうだ、人前にいる時は明るく優しく人当たりがよく誰とも分け隔てなく接する。しかしそんなネフリーの姿にどこか誰とも等しく親しくしているようで自分について深くは見せない、距離を置いて接するようなネフリーの態度が昔からユージンは気に食わなかった。

全員に良い顔をしながら、自分は見せず本当のところ内心全員どうでもいいんだろうとそんなふうに見えていたネフリーの事が嫌いだったし未だに時折自分の内に踏み込ませないネフリーの態度が気に食わない。

"お前に打たれてハッとしてさ"なんて体のいいことを言いながら何かを隠して、そのくせどうしてあんな顔で"信頼してる"なんて言えるのか。まるで嘘のない澄んだ瞳で自分を見るのか、知っているようで何も掴ませてくれない


「……お前のそういうとこ、昔から大っ嫌いだ」




prev
next

人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -