家族 1



「リシュリ…………!」


暗闇の中で、誰かが、自分に何かを叫んでいる。そんな奇妙な感覚に不安が煽られる


(貴方は……誰?

なんて言ってるの…?わからないよ…ねえ、行かないで……行かないで…)


「―――――!!!」

手を伸ばし、目を開くとそこはベッドの上。家具が置かれその周りを囲む分厚い壁、その間にある布の隙間からは光が差し込んでいる。多分、此処は家の中なのだろう


「……」


しかし、此処がどこなのかもわからなければなぜ自分が此処にいるのかもわからず、戸惑っていると外から人が入ってきた

「あ、おばあちゃん!あの子!起きたよ!!」
「おお、そうかい…どれどれ…?」

若い少女と、一緒に入ってきた老婆は、ベッドの上で何もわからずじっとしている少女の前に来ると、頬に手を当て、静かに笑った


「元気になったようだねえ」
「……」
「本当に元気になったの?何も話さないよ?」
「まだ目が覚めたばかりで混乱しているんだよ」
「ババ様!あの子、起きたって本当か??おっ…!」


また人が入ってきた。自分の事について何やら話しているけれどこの人たちは何なの?自分はどうしてここにいるの?何もわからない


「なんか元気ねーな、大丈夫か?」
「そうなの、ババ様は起きたばかりでまだ混乱してるんじゃないかって言ってるけどちょっと心配で……

あんなところに倒れてたんだしもしかしたら何処か悪いのかもしれないし…」
「…お主名前は?」
「なま、え……?

…リシュリ」

名前を思いだそうとすると記憶の中で誰かがそうよんでいる声が聞こえた。誰なのかはわからない、でもその声はひどく懐かしくて思い出すと胸が締め付けられるような気分になる。多分忘れちゃいけない声なんだとそう感じる


「リシュリか、お主は何処から来たんじゃ?」
「……わからない」
「ここに来るまでのことは?」
「……わからない」
「何にもわかんねーんだなお前……」
「来る途中で頭でも打ったのかもしれないわ」
「そうかもしれんのう……身体が熱かったり、ダルかったり何か痛いところは?」
「ない」
「そうかいそうかい。それならいい」


そう言うと老婆はニカッと歯を見せて笑った。どうしてかこの人の笑顔を見ると少し安心する。安心すると気が緩んだせいかリシュリのお腹が「ぐぅ」と大きな音を鳴らした


「ずっと寝てたんだもんお腹すいてるよね、ごめんね気づけなくてすぐにご飯持ってくるからちょっと待っててね」
「トーヤ、俺も手伝うよ」
「ありがとうドルジ」

若い二人が出ていくと老婆とその場に二人取り残されたリシュリ

「この村の人はねえ、みーんな家族なんだよ」
「家族?」
「そう家族。リシュリは家族の事は覚えていないのかい?」
「……うん。わからない」
「そうかい。じゃが、リシュリももうこの村の子、この村の家族」
「リシュリが?でも、リシュリこの村の子じゃないんでしょ?」
「そんなことは関係ないんだよ。血が繋がっていなくても、何処から来たんだとしてもリシュリはこの村の、ババの子としてこれからゆっくりでも忘れた自分を見つければいいんだよ

知らない事だらけで不安じゃろう?そんな子を独りにはしておけんよ」
「……うん

ありがとうお婆ちゃん」


ババの言葉一つ一つが空っぽのリシュリの胸にしみ込んだ


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