出会いと別れ 2



「意外だったよ」
「…何が?」

煌帝国の皇女と、その家臣二人が帰ったあとまだ少し村が騒がしい中でアラジンはリシュリに声をかけた

「リシュリちゃん怒って殴りかかるかと思ったよ」

アラジンが言っているのは先刻、煌帝国の皇女が村を訪れた時の話。呂斎とかいう皇女の家臣の男が黄牙一族の事を侮辱した時の事だ
正直腸が煮えくり返る思いだったしドルジが飛び出していなかったらアラジンの言う通りリシュリが殴りかかっていたかもしれない。
だけど、それもきっと耐えかねた末の決断になったと思う。

「…やったら、ババ様が悲しむ。戦争になったら村の皆もっと辛いしもっと悲しい

だからしない」
「…そっか」
「リシュリは好き、村の皆。皆の悲しむことはしたくない。だから我慢するときはちゃんと我慢」
「…偉いね」
「…できなくてら怒られることもあるけど」


そう言ってリシュリが眉尻を下げて笑うと「リシュリちゃんらしいなあ」とアラジンからも笑顔が溢れた。

リシュリにとって、この村が全てだった。何にも知らない赤ん坊と同じ右も左もわからない、そんなリシュリを受け入れてくれた村の皆が全てでこの村の中だけがリシュリの世界だった。

けれど、アラジンが来てからは違う。
初めて出会った自分と同じ力を持ったアラジンを見て、もっとアラジンの事を知りたいと思った。そして話を聞いていくうちに、もっと外の世界が知りたくなった。自分の目で、耳で、足で見てみたい聞いてみたい歩いてみたい。そう思うようになった

顔も名前も覚えていない家族が、友達が外の世界にはいるかもしれないしもしかした会えるかもしれない。自分が誰なのか何なのかわかるかもしれない。
そんな幾つもの"可能性"を想像して好奇心に胸を躍らせる反面どこかでそれは叶わないのだろうという諦めもはらんでいた。

外の世界に飛び出すということは村の皆とはお別れすること。リシュリは村の皆から色んな事や、気持ちを教えてもらって沢山の大切なものに出会った。その恩返しがまだできていないのにお世話になった村の人たちと離れて外の世界に行くのは気が引けるのだ。


(こんなこと思うようになるなんて考えてもみなかった……リシュリは、どうしたらいいんだろう)
「……リシュリちゃん?どうかした?」
「……ううん大丈夫」
「そう。行こうおばあちゃんが呼んでる」
「そうだね」


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