diary

アニメ、漫画、小説、日常、等々

▽ハイキュー、また続き
夏休みが開けても、私は登校しなかった。夏休みの宿題も碌に手がつかず、学校に馬鹿正直に行っても怒られるのは目に見えてる。それだけで学校と言う場所が億劫になった。いつもギリギリでもどうにか終わらせていた夏休みの宿題は簡単に解ける数学のプリントさえ半分も終わってなかった。私はサボリ魔で誰かしらに発破をかけてもらわないとやるべき事を進められない。そして、学校に行きたくないと駄々をこね、お母さんは勿論怒り、お父さんまでどうしたんだと難色を示していたが、そんな中で味方になってくれたのがおばさんだった。そんな時もあるから心配なさんなといきり立つお母さんを宥め、人生一度は反骨精神出さんと碌な大人にならない云々と御高説を最もらしく講釈した。正に流石の手管、口達者。
心の休息の時期よ、とおばさんは私のモラトリアムを称して、私の好きな様にさせた。
突き放され、自分の判断に委ねられたら、学校とか、勉強とか、友達とか。全部がどうでもよくなった。私にとって其れらはあんまり価値の有るものではなかった見たい。今まではギリギリのバランスで公道を走ってた。例えば綱渡りが何かでプルプル震えながら均衡を保ちながら思いバーを持って足を出して、渡っているのだけれども、何かの拍子にそこから真っ逆さまに落ちた。はずが、綱の下は以外と高さは無くって。でも、そこは何もなくって。ぽっかり空いた穴に私は落ちてしまった。不登校一週間目に変なリズムが着き、昼は罪悪感と、人の目が有るので大人しく部屋にこもっているが、夜は、ジャージに着替え、こっそり抜け出して見る。お母さんも其れを承知で何も言わない。
外は残暑は続いている。勘違いした蝉が夏の残滓を、ジリジリと撒き散らしている。と言っても、気候はカラッとしていて風の肌触りが良く、過ごしやすい。置いてけぼりの私が、私だけが其処にいて、闇夜と同化して、幽鬼の様に夜道を徘徊する。頭で整理を付けるのを、ぶらぶらと腕を振り回しながら昼間と様相が違う通学路や公園、コンビニなどを見て回る。私の足は最終的に少し離れた公園のブランコへと落ち着き、ブランコに乗って、ぶらぶら足を振り乱して前へと漕ぎ出す。天を仰ぎ、月と遠くの星と、雲と黒い背景。ゆらゆら揺れる。
人生落伍者という言葉がチラつく。私は物事にそれ程執着心が人より欠落している。人より勉強が出来るとか、人より友達が多いとか、可愛いとか、人よりの概念が無いような、興味がない。だから、こんな所でぶらぶらのんびりして、これからどうしようかなぁと考えてる。
キイキイと鉄錆が擦れる音。何故か物悲しい。全部、全部私の前から消えてしまえばいい、放っておいてくれれば。
ああ、静かー。


「何、やってるの」
「……うぁ?」
眼光をかっぴらいて、慌てて姿勢を正す。視界が空からグルンと地面へと。柵の向こうには三連の鉄棒が見える。その手前には、Tシャツハーフパンツの健康優良児がじいっと佇んでいる。自分に入り込み過ぎた所為で人の気配に気がつかなかった。夜の公園なんて誰も来ない。それをいい事に青向いて唸って足をバタバタさせて、其れを見られてた訳だ。
暗くても、立ち雰囲気と声で大地だと分かる。流石にどんな表情をしているか分からないけど、私はかあっと頭に血流が登って、ガタンとブランコから立ち上がった。膝裏に角が当たって痛かった。大地がん?と一変して俊敏に立ち上がった私の様子を伺っている隙に。
「おい?!」
正面でなくて真直線にずらりと並ぶブランコを突っ切って、砂場を跨ぎ、公園の入り口へと全力失踪した。自分でも、わけがわからず混乱してて、逃げたしたいと思った瞬間に足が大地の居ない所を目指していた。足は早い方じゃないけど、私が先手を打って大地が出遅れた分、もし追ってきても捕まるとは思えない。電灯は疎らで足元は暗く視界は危うい。
はあーはあー、と足を緩めると大量の汗が吹き出して来た。何やってんだろう、私は…。逃げて来ちゃった。何も次に言われるのか、それが怖くて仕方なかったんだ。息をつき、大人しく家への道順を辿った。がむしゃらに逃げて来たが私の体力はたかがしれていて、無意識の内に学校の前まで来ていた。皮肉なものだ。馬鹿らしい。一人鬱蒼とした夜半学校を見て鼻でわかった。空元気も大概だった。息が苦しい。学校に別に行ったって行かなくたって私はどっちだっていい。絶対と言われたら仕方なく勉強と人間関係と競争と何かが詰まった所の生活に私は甘んじる。だけど、何で、其れが看過出来ない。
カツンガツンとと内階段に足音が響く。エスカレーターに乗るためにラウンジに入れば、誰かに会いそうだったので、階段から家まで上がる事にした。しかし、真逆、と思っていたが、二三階上がったあたりの踊り場で、大地が腕を組んで此方を睨んで待っていた。私の事などお見通しと言うことで先回りをして、ここで待ち構えていたのだろう。また逃げた所で結局最終的に家で捕まって仕舞う。今度は少し冷静になって、私はやや視線を下降させて、なるべく視線が合わないように段を一つ一つ上がった。横頬にひりつく視線が投げ掛けられる。見過ごされる筈なくて、結局腕を取られて階上にひっぱり込まれてしまった。道角で、私を追い詰め、自分の体で行く手を阻むというズルい手に出た。これじゃあ、近い、顔が見える距離。どんな顔していいかわからない。スニーカー辺りを凝視して、絶対顔は見るもんかと思った。体が固まって動きがぎこちなくなる。白色の光が床に影を作る。クリーム色の塗装が真っ黒に塗り潰されている。
ゆっくりと大地の右手が私の拳をつかんで、
「なんで、逃げるの」
「逃げてない……」
ぎゅうと力が篭った。言い逃れはゆるされない見たいだ。
「どうして学校も来ないの」
「行きたくないもの」
「行きたくないってね。学校は、行くべき所なの。誰だっていきたくないよ、オレだって。母さんが変なこと言ったみたいだけど、違うからな?真に受けるなよ」
黙った私にちゃんと学校行けよ、と大地が行った。
「なんか、気にしてんの?」
答えあぐねて唇を噛む。
「オレの所為?」
大地は、いい感じに草臥れたジーンズ生地の緩いハーフパンツを履いていて、その下には固そうな膝小僧が覗いている。履き潰したスニーカー。すらっと伸びるゴボウの足。其れを確かめると、何だかもうしょうがない気がして、やっと大地と口を聞かなければ仕様がない。何も変わらないと思って、今度は私が大地をゆっくりと見上げる体制になった。大地は、真摯に何時もののっそりした何処か泰然とした印象で私の眼差しを受け入れた。食い違いばかりで、今多分、互いに考えてることは全く違う筈なのに、この時は昔の、互いに背中を任せあって手を繋いで遊びまわったあの時のふわふわした感覚がふと蘇ったきがした。だから、私は、「大ちゃん」これきりだ。そう思えばこその行動。突き飛ばされるか。良くてやんわり拒否されるかどちらか。大地の優しさに少し掛けた。小6にもなって幼馴染もクソも無くて、ご近所だからと言うのは免罪符に成らない。この時より強く、大地を意識した。好意として無自覚に身体を寄せる事とは訳が違う。私が嫌悪する生物学上の牝として、生々しく好意を示し、媚びて雄を誑かす女になる。その準備を密かに私の身体は進めている。それは大地の所為でも周りの所為でもなくて、自然の流れで、私の所為だ。
私の腕の中で身じろぎ一つしないのが意外だった。お母さんから私の様子が変だと聞いたのか、刺激しないようにと配慮してるのかもと思うと、大地はやはり私よりも二歩三歩先の事を考えていて凄く死にたい気分になった。大地の汗の匂い、呼吸。私の腕の中にある。優しい、優しい、大地。
「気持ち悪い…」
「何が?」
「私、気持ち悪いもん…大ちゃんだってそう思ったから、そっけなくなったし、遊んでくれなくなったし、嫌いになったんだ私の事…」
私は言ってる内に、うわんとしゃくりあげる。究極的に最悪な想像が広がって胸を圧迫する。ちっちゃい幼稚園児に戻った気分だ。
「…何で、そんな風に思っちゃうかな…。」
大地は息を詰まらせ、大きく嘆息した。

「あーもうっ、やめっ、やめっ!」
大地が突然がなる。乱暴に突き放され、しかし、両肩を捉えた両腕の重みが伝わり、重い。黒々とした印象の強い瞳を微かに眇め、私から視線を逸らす。
もう分かった、お前には何にも聞かない、聞く気もない、とそのような事を行って腕を取り歩き出した。起こってるような有無を言わさない力強さがあり、ひっくと止まった。一緒に部屋に戻って夏休みの宿題がまだ勉強卓に積み上げられてるのを見た大地は凄い剣幕で怒った。泣く泣く続きを夜なべしてやるハメになった。久方ぶりに一緒に眠って、朝早く一緒に学校に行った。登校途中、手を繋いでる私達を見咎めて、クラスの男子が挙って囃し立てたが、「煩い」と一掃して、手を引っ張ってくことは辞めなかった。結局全部元通り。開けっけないほどの幕引き。ただ、また大地の感心が自分に戻って今のところ十分に満足だった。


2014/08/18 03:12


▽ハイキュー、変なもの続き
思考がドロドロに溶けていく。何も考えたくない。お母さんには具合が悪いと言った。其れも仕様がないのよね、二三日経ったら収まるから、辛抱しなさいと言われた。何時もより、心なしか優しい。便利なもんだと思った。身体の不調は全てそれに起因するらしい。痛み止めを飲んで、コンコンと眠りに付いた。
目を開けると、汗をびっしょりかいていて、不快感からベッドを起き出して、居間にパジャマの換えを取りに行く。日はとっぷり落ちていて、蛍光灯がこうこうとてり、目をこすりこすり、お母さんを呼ぶ。リビングには、おばさんが項垂れるように肘を着いて椅子の背中にもたれかかっていて、私に気が付いて、胡乱げな目がこちらをむく。テーブルにはビールの缶が二つ。酔いが回っているようだ。仕事帰りにこっちによって、またお母さんと一緒に晩酌へと洒落込むつもりだろうが、お母さんは仕事が長引いているのか姿が見えない。時計は夜半を指していた。
「あらー、起こしちゃったー?具合悪いんだって?大丈夫?」
「大丈夫、ずっと寝てたし。それより、おばさん、ビール二缶は飲み過ぎじゃない、そんなにお酒、強くないのに」
「だあってー!お母さん早く帰ってくるって行ったくせにー!全然帰ってきやしない。だから、こやって待ってんの。先に始めて、悪い??」
「別に……」
あんまり絡まない方が良さそうだ。私はいそいそ、洗面所に行って下着を変え、パジャマを着替えて序でに顔も洗う。
おばさんとお母さんは本当に仲がいい。私たちが生まれる前から、ずっと仲良しで一緒にいて、大人になった今でも自分ちと相手の家を行ったり来たり。物心ついた頃から、おばさんは私の家にいて、悪さをしたら差別なく平等に大地と私を怒った。リビングに戻ったらおばさんの、指が三本目のプルトップにかかって居た。ぷしゅう、と軽快な音で、泡が飛ぶ。私に向かい側に座るように促す。酒の話のお供になれと、そう言う意味だ。
はいはい、とお茶を持ってきて腰を下ろすが、にやにやとおばさんの笑いは絶えない。おばさんはアクティブで、サバサバしてて、友達もいっぱい居そうなのに、優先はいつも、私のお母さん、お母さん、お母さんだ。キャリアウーマン然としてて、仕事もバリバリ出来そうだ。大地の要領よく卒なく熟す感じは多分おばさんに似たのだと思う。私はコップを持って酔っ払いにお母さんが、帰ってくるまで相手をしなければならない不満を、タラタラに文句を言って見た。
「別に、お母さん待たなくたって、そんなに飲みたいなら、おじさんまってたら良いのに」
「嫌よ。何が楽しくて亭主の顔見て酒飲まなきゃなんないの」
「同僚とかさ、他の友達とか」
おばさんは、ふふん、とさもおかしそうに鼻を鳴らした。
「じゃあ、聞くけど、百合ちゃんは何で大地以外の友達と遊ばないの?」
「それは…、一人の方がきらくだし」
「面倒臭い?」
「苦手かなあって…」
「もっといっぱい友達が欲しいとは思わない?」
「だって…」
言葉に急する。友達が多い方じゃないとは思う。その中で、緊張しないで奥目もなく自分で居られるのは大地だけ。大地はちっちゃい時から一緒だったから。今はちょっと微妙になっちゃったけど。友達欲しい?と聞かれたら、答えは別に、どっちでも。今に不便を感じてる訳ではない。唯、今目下私の心を揺らすのは、大地の探る目だ。落ち着かない。側に居ないと落ち着かない。
「アッハッハッ!!」
黙った私におばさんは抜ける笑い声を立てる。
「百合ちゃんは、本当に○○そっくり!!」
○○はお母さんの名前。おばさんはそう呼んでいる。
「私にも似てる!もちろん、人間観に置いてだけど。私はあの子はもうちょっと自分に興味を持ちなさいって思うけど、それは百合ちゃんにも思うトコ!
多分、おばさんと百合ちゃん、凄く上手くやれるわ!あーこんな娘、私も欲しかったぁー!!」
「今だって、すぐこっちくるんだから、娘見たいなもんじゃない。
それに、大ちゃんいるでしょ」
「んー、大地はねぇ、あれは、旦那…おじさん似なのよ。器用だし、上手い、息子ながらこにたらくしいほどだわ」
「大ちゃんと、おばさんは違うの?」
なんでこんな事を聞いたのか。おばさんはよくわからない事を言った。
「おばさんとね、お母さんの中には、怖い怖い蛇が居るの。捕まえたら絞め殺すまで離さない怖い怖い蛇がね。多分百合ちゃんの中にも」
「そんなの、私にはないよ。おばさん何のこといってるの?」
「例え噺よー。だから、おばさんとお母さんは仲がいいの」
「似てるから?」
「そう」
じゃあ、おばさんと似てない大地と私は仲良くなれるはずない、そう言うことなんだろうか。自分の息子なのに、一歩引いた言い方をおばさんはする。
「百合ちゃんと、大地は……どうなるんだろうねー?」
「な、何が?!」
「百合ちゃんは大地のこと、大好きだもんねーー?」
「お、おばさん?!」
「そういえば、大地、凄く百合ちゃんのこと心配してたわよ」
そこで、思い出した様にその話を出すか普通。
「体調悪いって聞いて、家に行ったらしいけど、会ってくれないって」
「それは、だって、大地が…」
「私はよくわからないケド、めずらーしく落ち込んでる見たいだから、気が向いたらでいいからあってあげて?」
「うん…」
曖昧な顔で頷くしかなかった。


2014/08/18 00:02


▽うへへへ…
嬉しいコメント貰っちゃいましたー!浮かれ具合が自分でもぱないですー!!見よ、ページを覗いた時のうぶこのアホな顔を!思わず奇声を発しながら携帯叩き割る所でした。取り敢えず、保存してロック掛けました。晒しているので、読んで下すってる方はいるのでしょうけど、その実感が、今正に、ぎゃああああうわああああああ恥ずかしいいいいい!!!嬉しいいいい!!!

ほそぼそと何故か十個以上好き勝手書きなぐっているハイキューのスガさんのお話し…ノラガミより全然書きやすいと言う。いっそのことmainに置いてしまうか…どうしようか…。


2014/08/16 13:38


▽ハイキュー、またまた変なもの
茹だる暑さ。サンサンと照り付ける太陽。ニイニイゼミがみんみんみんみん大合唱。カンカン帽をふかくかぶり、張り付いた前髪から汗が伝う。
早々用を済ませて、逃げ込んだ屋内。篭った怠い空気を一掃すべく、クーラーのスイッチを着けてガンガン設定温度を下げた。お母さんは近所の佐々木の奥さんと映画に出掛けてる。スーパーの袋から買ってきた豆腐と牛乳を冷蔵庫に仕舞うと、冷凍庫を明後日アイスバーのパッケージをつまみ出してリビングに戻った。適当にチャンネルを回しながらソファを横切ると、気配を消していた大地がそこにいて、チラッと頭上に掲げた単行本から視線をこっちにやった。
「大ちゃん、居たんなら返事してよびっくりした」
「母さんに掃除の邪魔だって追い出されたんだよ。だからこっちに避難」
「ふうん、暑くなかったの?クーラーぐらい付ければ良いのに」
「扇風機は付けさせてもらったし、それで十分。電気代も馬鹿にならないから少しは控えなさいよ、体にも悪い」
「私は労働してきたばっかりだからいーのー。めちゃくちゃ暑いよー死んじゃうー」
Tシャツをバタバタ煽って空気を取り込んだら少し汗で皮膚が冷える。カーペットに座り込むとアイスをパリッと開ける。
ガチャガチャとチャンネルを回すが、夏休み特番と昼ドラばかりで、おもしろい番組が見つからない。仕方ないので、ニュースにチャンネルを合わせて猛暑を告げるお天気お姉さんを眺めることにした。今年はここ数年一番の猛暑らしい。去年もそんなこと言ってた様な気がする。
「お母さんに会った?」
「ああ、出掛ける時丁度入れ違いで。今日は晩御飯二人で作って食べってって言われた」
「じゃあ、今日、お父さんもおじさんも遅いんだ。おばさんの分は?」
「余分に作って持ってく」
「そっか」
今日は二人でお留守番か。小さいころから二人でどっちかの家でお留守番、は慣れっこ。大学の家は私の第二のお家。私の家はていのよい避難場所。でも、大体大地が私の家に来ることが多いから最近は大地の家にはいってない。約束して無くてもいっつも私の家に居座ってるから、相当居心地いいんだろう。
「何読んでるの」
「読書感想文の本」
「え、まだ八月頭だよ」
「ホントはコツコツやるのが一番いいの。オレは溜め込まないでゆっくり過ごすシュギだから」
「今から宿題の心配したくないよぉ…私はもっとしてからやる」
「結局去年も一昨年も追い込まれてたの誰だっけ?」
「いいの、今年はちゃんとやるもん。けーかくてきに。」
「はいはい」
「何の本にしたの」
「坂口安吾『青春論』」
「…面白いの、ソレ」
「まあそれなりに」
大地は何時も難しい本ばかり読んでる。どえとなんたらふすきーの毒虫、ヘッセーの車輪?とかヘンテコな名前のどっちが題名なのかわからないものとか、私にはちょっと難しい。因みになんとかふすきーは主人公が虫になっちゃう話らしい。アイスの棒を断念にしゃぶって木を噛み締めたあと、台所に其れを捨てに行く。
「アイス、いるー?」
「いるー」
「グレープとイチゴとオレンジどれがいー?」
「グレープ」
「りょーかい」
リクエスト通り冷凍庫の箱から紫のアイスキャンディーを探り出して、脚で冷凍庫を占めた。居間に戻ると大地は本から目を離さずに手だけ探る様に此方に突き出した。その手を少し眺めたあと、少し意地悪な気持ちになって、日に焼けた二の腕にアイスのえの部分を当てる。
「わっ」
クーラーを最大稼働していても、部屋はまだぬるい。冷やっこさに跳ね起きた大地は文庫本を取り落として、ソファから転げ落ちた。うわ、すごい痛そうな音!強かに両肘を打ったらしい。仰向けになってもんどりうってる。
拍子にめくれて見えた腹に馬乗りになった。
「お、わっ、ちょっ、まて!」
最近身長が伸びてきた大地には散々見下ろされて来たので逆に見下ろしてやるのは圧巻だった。とっても気分がいい。
大地は最高学年になってから特に、私がベタベタするのが鬱陶しくなった見たいで、触れると困った顔で逃げる。お母さん曰く、大地くんは男の子だから女の子といると恥ずかしいのよ、と言っていたけど、今まで平気で取っ組み合いの喧嘩して、一緒の布団でお昼寝してずっと一緒に育ってきたのに、急に恥ずかしいなんて変だ。男の子でも大地は大地だし、私は私。そう思っててもクラスの皆の感覚は少し違った。自由時間は私達は教室で気になる男の子の噂話とか、ゲームでもトランプとかで、男の子達は固まってサッカーをしてる。私たちは、皆と同じ様に、自分の仲間と好きな遊びをする。もう一緒に追いかけっこで遊んだりしない。他の男の子はよくわからないけど、大地の事は誰よりもおばさんよりよく知ってる自信があったから、前みたいに遊んでくれなくなったのは私には凄くショックだった。なのに、大地は当たり前の顔して私を嗜める。
大切な半身が遠くへ言ってしまった気がした悔しさから、一生懸命私の下から抜け出そうともがいてる大地に嗜虐心が唆られる。子どもとはいえ、自分の同んなじ重量の人間が体重を掛けたら早々抜けだすことは出来ない。大地の頭上に溶けかかったアイスキャンディーが袋の中でブヨブヨになってる。ぐちゃぐちゃのぶよぶよ、丸で私の心みたいだ。その間も大地はむずかるみたいに体をよじっている。
「やめっ、ろって、言ってんだろ!!」
優勢だと思ってたのに、あっさりあらん限りの大地の腕の力に押されて、後方に突き飛ばされる。油断もあったかもしれない。そのまま、ソファの肘掛に背中を打つ。
「あ、わ、悪い、大丈夫か?」
痛い、今までにない押し出される様な体に響いてくる疼痛が、ぶつけた背中、ではなく、
「い、いたい……」
「ど、どうした?変なとこ打ったの?」
「おなか……痛いよう……」

そういえば朝から体がなんだか怠かった。この生煮えに近い気候で体が参ってしまってるのかと思っていたのだけれど、ふっと身体の力が抜けてストンと落ちてその場に蹲った。大地が脇でなんか、一生懸命に話し掛けていたけど、ずとんと来たお腹の疼痛でそれどころじゃなくて、生返信しか返せていない。大丈夫、大丈夫だから、と仕切りに連呼してたけど、何が大丈夫なのか自分でもよくわかってなかった。大地がとても焦った、心配そうな鬼気迫る形相で私の名前を呼んでたから、申し訳なくなってしまって適当に安心させたくて出た言葉だと思う。久しぶりに感情の乗った、呆れ顔ではない切迫詰まったような表情が新鮮で痛みに耐える混じりに、何時もより近い大地の顔を油汗を流しながら横目で決死に見ようとしてた。そうすることで、少し痛みが収まった気がした。距離が昔に戻ったような、二人っきりで完結してた世界の時期に戻れたような気がして、何だがふわふわして、それを思うのがまた申し訳なくて、大ちゃん、大ちゃんと大地のおっきな手を握りしめた。大地はいつから私よりおっきな手としっかりした体を手に入れたの。私だけ、心と体も置いてきぼりだよ。大地の、ばか。



お母さんとおばさんが何か話してる。
寝室に毛布に包まって丸くなって、もう、何もかもわかんない。ただ、しずか。涼しい、冷たくて、暗い寝室に私一人で、お父さんはまだ帰っていなくって、大地も多分お母さんたちが話し込んでるから、先に家に帰った。
キャラキャラと笑い声が煩い。リビングからこぼれる一筋の光。お父さん、早く帰って来て。私は、年来の姉妹みたいに私達を肴にして盛り上がるお母さんとおばさんが少し苦手だ。仲がすごく良くって私達がちっちゃい頃は、大地と私を結婚させようと良く盛り上がってて、私もその気になって、よくわからなかった大地も同様、満更でもなさそうに、一緒に手を繋いでけっこんするーなんて馬鹿な宣言したっけ。それでおばさんたちを喜ばせていたけど、年が立って見ると凄くそれら自体が照れ臭くなって、話すのが少しぎこちなくなって。余計な事をいって、勝手に盛り上がって、大地との関係を壊すのは何時もお母さん達だった。私と大地をくっ付けようくっつけようとする魂胆見え見えに逆に心は反発して、離れてく。今でも私はこのままでいたいのに。友達の目とか。全部が私たちをダメにする。そして遂に私の身体が私を裏切った。
「女の子の身体になったのよ、これは病気じゃないの。自然な事なんだから、大地くんも安心してね」
顔から火が出るかとおもった。恥ずかしくて、恥ずかしくて、大地に知られてしまったのが、ものすっごく恥ずかしくて。自分が得体の知れない、卑しい何かに変わってしまったみたいで、私の体が私じゃないみたい。せめて、大地の前で言う事ないじゃない、とお母さんに食ってかかりたかった。何で目の前でそんな事言っちゃうの。
大地はどう思ったんだろう。もう、話してくれないかもしれない。クラスの男子は女子なんて、て鼻に掛けてアクセサリーや恋愛話に興味を持つ女の子を嫌ってる。その女の子に私もなっちゃう。私は、女子の集団理念とか、徒党を組んで同調し合う強制的にしたがわされる何か見えない狭っ苦しい力が苦手で、中間とを行ったり来たりしてたけど、私の知らない所で、私は同んなじ違う生き物になる。気持ち悪い、こんなの嫌だ。これがわかってたから、大地は私を避ける様になったんだろうか。私はずっと大地と一緒にいたい、そう思ってちゃダメだったんだろうか。微妙な変化が私を壊してく。女になんか、なりたくない!誰も頼んでない!
明日、かな、いつ、大地に会うかな。大地は優しいから、無視はしないと思うけど、多分、優しい瞳の奥の私に違う自分を見るのだろう。私が変わってしまった事に、否応なしに。会いたくないーーーー。
私は次の日も、ベッドにこもった。


2014/08/11 02:34


▽ノラガミひより成り代わり
私は「壱岐ひより」。
ある日『神様』と名乗る人が道端で話しかけてきて、
『貴女の人生交換しますよ』
可愛らしい少女がにたりと私に笑いかけた。私は学校の帰宅中。何時もの様に地面を向き向き自分の影と歩道の白線の長さを掛かりつつ詰まらぬ鼻歌を歌いそれを聞いているものは誰もいず。私の事など誰も気にしない。私は透明人間。道を歩いている小さな一個たい。周りに溶け込んだ代わり映えのない一匹の鰯。その他と一緒に鮫に飲み込まれて、消化されてもぐもぐむしゃむしゃぱっくんはいおしまい。地面ばかり見ている。
其の儘帰途に就き、部屋に籠った。
空想に耽る。
『貴女の人生交換しますよぉ』
私がもし、この漫画の主人公だったら。だったなら。さぞ人生が楽しかろう。ベッドに寝そべり空想に浸る。
『確かに承りましたぁ。ご利用ありがとうございまぁす』

私は『壱岐ひより』になった。
長い髪、可愛い顔、しっかり者の性格。『私』は優しい両親に愛されて育った。
そして中学生の冬。
「私の体、元に戻してください!」
「お前の願い、確かに聞き届けた」
夜卜に出会う。


2014/08/05 18:39


▽もー決めた!
うぶこは決めたぞ!
Blu-ray買うしコミックも全部買う!
反則だろうがああああ!!

ハイキューアニメかんそう


2014/07/28 23:24


▽ハイキュー、菅原じゅーに
「で、それから?」

「一緒に、遊園地に行きました…」

大地には全て承知している。全てというのは、二年生になってからこの一年間やたら心労が耐えなかった現状とその大元の原因についてもである。その原因、といつの間にか菅原繋がりで本人が預かり知らない所でコンタクトをとっている様で、その仲の良さはいっときは本気でそう言う仲なのかと疑ってしまうぐらいである。大地については男子とは基本関わりを持とうとしない、その例外であるらしく相当お気に入りのようだ。

「話聞いてる限りじゃ、めちゃくちゃ楽しそうな」

「大地さん、それ本気で言ってる?!」

「なんだよーマジマジ本気、そー思ってるって。
俺たちも春休み明けたら三年だしさ、受験だし部活も続けて勉強も忙しくなるんだから。その前に羽根伸ばしたいって思う、でも俺みたいな部活に学生生活捧げてきたヤツはその遊び方がわからない訳。で、オフでも結局こうやって自主練に来ちゃうわけよ。
その点、多少強引だったとしても、日頃部活で付き合い悪い野郎と遊んでくれるだけ、ありがたいと思うけど」

「大地は、………」

「ん?どうした」

「何も分かってない!!!」

「うわ、びっくりした。行きなり大声だすから」

ワナワナと震える両手を高く掲げる菅原。
春休み、成り行きはどうあれ、その相手がどうあれ、多少強引であったとしても始めて出来た彼女。そして長期休み。
早朝8時。
ピーンポーンとインターフォンが鳴り、眠気まなこで出ると、

「すっがわっらくーん!おっはよーー!!」

ハイテンション女が私服で玄関先の菅原に手を振っている。可愛らしいミニのゆったりワンピを来て、編み上げのサンダルに小さめの白いポシェット。よそ行きの格好である。

「は?!」

「今日はとってもいい天気ですね!」

「そうですね、て、なななんで!」

「なにが?」

「なんで、お前がここに…その前になんでオレの住所知ってんの?!」

「えー、なんだそんなことぉ?だって自分の彼氏(ハート)のことは何でもしってるよ、えへへへへ」

「なんで照れくさそうにする褒めてないから!むしろ怖いから!」

「愛の成せる技、ですねっ!」

「うわー何言ってるかさっぱりわからねぇ!わかりたくもない!」

パチンとおでこを売って一本取られた、のポーズを取る菅原。この男子、上下Tシャツと中学ジャージの起き抜けであるのにノリノリである。

「菅原氏、今日はいい天気です」

「う…ん?」

「お出掛け日和です」

「……ん?」

「なので遊園地に行きましょう!!」

「はいっ!ストップーー!!」


2014/07/25 10:49


▽ハイキュー、菅原じゅいち
夕暮れ、オレンジ色の空。

長く伸びる、二人分の影。

落ちる沈黙。どこからか漏れた、夕飯の匂い。

「そっかぁ、負けちゃったんだぁー
烏野」

「うん…」

再びの沈黙。

「菅くん頑張ってたもんね、悔しいね!まっショーがない!次ある次が!!」

「ああ…」

「…………」

口から先に生まれてきたような女の口が回らなくなるほど菅原の今の持つ空気は暗鬱として、暗いくらい暗い。
とぼとぼと、女の子は寂しい菅原の後に付いていく。
隣を歩けども、どんなにその雄姿を目に焼き付けようとも、コートの内側の人間と外側の人間と隔たりは余りにも大きく、負け試合のチームメイトに対する自責に苦しんでいる事には想像は安いが、実際のところは何もわかっていないと女の子は思う。もう少し、もう少し。自分が自分を許すことが出来なければ、己を攻める心からは解放されない。
うん。少女はあんまり働かせない脳みそを捻って考えいるようで、腕組みをして、いつになく神妙な顔つきである。

「うん!わかった」

ものの何秒で妙案が浮かんだらしい女の子は目を輝かせて、消沈する菅原の右そでを引っ張った。

「わ、なんだよ」

「良いこと思いついた!」

「はいはい、なんでしょうかなんでしょうか?

どうせ碌でもない事言い出すにきまってる」

文句を言い言い耳を傾ける菅原はやはりお人よしである。
んふふ、ととても良い笑顔を浮かべて、菅原の耳元に口を寄せた。

「菅くん!!!!付き合おう、わたしたち!」

「……………」

ぽくぽくぽく、ちーん。

ツキアオウワタシタチ。

この十文字の言葉の意味が直ぐに頭に入ったこなかった。
というか、理解したくなかった。全く持って、理解不能、脈略皆無。

「は、あ?!」

菅原は浅く息を吐く。

「な、な、ななにを、どうしたらそうなる?!!
意味わかんねえよ!!
どの文脈で、何処をどう考えたら、落ち込んでるやつに掛ける言葉のいいことがそれだよ!?」

「菅くん言葉が少し変」

「うるさい!」

揚げ足取りも一掃だ。

「もしかして、菅くん、私の事、きらい?」

目をうるうるさせて行ってくるものだから、この少女相手だと言うことを忘れて、うっと言葉に詰まった。少しでも逡巡すれば容赦なく自分の良いように事実を曲げる面の皮の熱い相手である。しかし、乙女の涙目には弱かった。研究し尽くされた、どんな不能も籠欲をそそられる完璧なアングル、上目使いで菅原を翻弄する。言葉に窮した菅原に、

「ジャー何にも、問題ないじゃん!私も菅くん好きだし」

「え?!」

今サラッととんでもないこと言わなかったか。動揺する菅原に女の子はにこっとそれは其れは可愛らしく微笑んで、

「じゃあ、明日からよろしくねん!!」

じゃあ私ココ右だから、と手を振ってその場はわかれた。
あとには置いてけぼりにされた菅原。

いつの間にか、可愛い彼女()が出来たようだ。やったね!スガくん!


2014/07/21 21:53


▽ハイキュー、菅原夢
「影山くんっていうんだっけ?新しく入ったセッターの一年生」

「私、是非その影山くんにあってみたいな!いいでしょ菅くん!」

大地から聞いたらしく、彼女が珍しく(?)人に興味を持った春。この子とと付き合い始めて数ヶ月。今の所大きな軋轢を生まず(主に菅原が我慢する形で)三年生に進級、男バレに新一年生が入ってきた。
部活をしていないこの子は部のよしなしをよく聞きたがる。
菅原は話の種として部活の近況をこの子によく報告していて、それを興味深そうに聞いているのだが、しかし其れより早く内部状況を知っている節があった。おかしいと思っていたが、それが最近大地という部長直々の口からもたらされたものだと言うことが発覚する。名前を出すと、ああ、背の高い眼鏡の子ね!とかふわふわの髪の毛の元気の良い子でしょう!とか、名前と容姿と性格ととプロフィールを全て把握している。少々うすら寒いが何時もの事なので放置しておく。バレー部の練習など一度も見に来たことのない癖、バレー部員より部員に詳しい。練習スケジュールの把握はおろか、菅原のプライベート、交友関係も事細かにリサーチ積みなのでは。
本当に彼女は男バレには全く興味は無いのだろう。自惚れかも知れないが彼女が其処まで男子バレー部に興味が有るのは菅原有りきのだと思う。好きな人の事を知りたいのは当たり前、なんて本人前にしてけろっと言ってしまう彼女なのだ。しかし、異性として好かれているのかという点では懐疑的で、よくわからない内に「お付き合い」が始まり、周りの人間に「公認」され、流れ流されズルズルの数ヶ月。互いに決定打の一言をまだ言えていない。そもそも、好かれている、と言う実感が薄い。彼女の本当を知る人間はごく少数なので、安心圏ないの菅原は適度に懐かれているという表現が正しい。そのために便宜上で彼氏彼女の関係を借りているのではないか。結局憶測だけで、何を確かめられているわけではない。
今度も、しおらしく、バレーボールなぞ興味がある風には見えなかったのに、見学をしたいなんて少し嫌な予感はしたのだ。しかし、頬を染めて、恥ずかしそうに菅原に許可を取りに来たものだから、つい嬉しくなって、「もちろん!」と返事をしてしまった。

「君が影山くん?」

「っす」

休憩になって、おずおず恥ずかしそうに影山に差し入れのスポーツドリンクを手渡した自分の彼女だった。あれ、なんで頬が赤いの?なんでちょっと嬉しそうなんだよ。影山もなんでちょっと人見知りしてんだよ。普段のふてぶてしさはどうした。オレの記憶が正しければ、楽しそうに影山と談笑しているのはオレの彼女だったよな?!オレの応援しにきてくれたんじゃないの、え、違う?!

「こらこら、練習再開するぞ、一年」

「澤村くん、」

「なに、君来てたの?珍しいじゃない、スガの練習見に来たのか?」

「うん!それで、今影山くんとお話してたとこ。影山くんって、礼儀正しくてとってもいい子」

「影山――!なに、ひとみしってんのきもーーー!!」

「うっせえーー!日向――!!」

「ふふ、元気のいい後輩くんたちだね」

影山に追い回されながら「スガさんの彼女さんちーっす」と陽気に手を大きくふる日向に微笑みながら手を振る菅原の彼女。
碌に菅原に目もくれず、スポドリの差し入れだけ置いて帰って行った。

「立つ瀬なしのカレシくん、しょげてないで、ボール出してくれ」

「大地……!!」

「はいはい、心配しなくても、お前の思ってることにはならないよ」

しがみ付く菅原の肩を叩きながら、大地は眉を知らず顰める。
ある意味で、嫌な予感がしなくはない。







「かっげやまーー!!トスー俺にトスー!!」

「ちったあ落ち着けアホ日向!!」

今日も今日とて一年生が元気だ。
モップの柄に顎を乗せ、以下にも億劫そうな顔。目は遠い所を向いている。これが若さなのか、二年を経て達観と諦念を身につけたが、特有の無邪気さやがむしゃらさを忘れてしまった。その前に練習終わりにはしゃぐ気力は菅原にない。と言うか、やる気が出ない。鬱々とした気分で練習をこなし、ため息ばかり。なんとしなく、活力が巡ってこない。部長の大地はそれに苦笑い。

「こらこら、景気悪いため息つかないの。男がアンニュイかもしてても誰も構っちゃくれないよ」

「とか言いつつ、優しく聞きに来てくれる大地マジ優しい」

「それはねぇ、まあ」

部長ですから、と腰に手をやる大地は相変わらず聡いし優しいしなんか泣ける。頼れる部長兼友人の彼。ブルブルと菅原は首を振った。

「なんだかな、今週はセッター組は揃いも揃って調子悪いな。お前さん達同じポジション同士なんかあるんかねシンパシーみたいなの、もしくはそういう週なのかわからんけどね。お前らどしたん?」

お前らと言われても。菅原は目を瞬く。セッター同士と言うが、菅原は自分の事にいっぱいいっぱいで影山の動向は目にも入っちゃいなかった。影山のトスは何時も完璧で今日に限っていっても日向や田中とのコンビネーションは寸分も狂いなかった。その影山に変調?知るかそんなこと。今や思い人が一心に関心を寄せるにっくき相手である。

「だ、大地…!!」

「うわっきもっ」

付き合いの範囲を区切る大地は親身になってくれる一歩反応は淡白だ。雪崩かかった腕を振り払われ傷心する菅原を大地はカラカラと笑う。
自分達の間にある絆。二年苦楽を共にした特に旭と大地にはセッターとして最善のバックアップをして来た。今は影山にその場所を譲っていたとしても、自分が再び同じコートに立てることを諦めてはいない。自分は影山の様な戦況を俯瞰して見られる才能もコントロールセンスも乏しいが、常人の分、努力を積み重ねる事でしか自分の使い方をわからない自分だからこそ見えないものがあるのだと思っている。それは諦念ではなく、誰よりも自分が自分の事をよくわかっているから。才能がなかったとて、自分を悲観したりしない。卑下などしない。身の程を知りかつ努力する自分は嫌いじゃないから。そんな自分を認めてくれる人間がいることを自分は知っているから。影山との折り合いの付け方は自分の中で納得ずくだ。
しかし、人の心の好悪どうこうの話になると話は少し違ってくる。好き嫌いの心の赴きは把握出来る物ではない。増してやわかった所でコントロール出来るものではない。把握出来ないからこそ推し量ることしか出来ず、その判断基準は自分ないしは世間一般の基準に即した物になる。何処かしら誰でも自分にはない非凡さを求める所があり、惹かれる。影山は才だけでなく遥かなる高みへの探究心、モチベーションにそそけだつ時もあるくらいだ。これが天才と凡庸との差かとも得心するが行き着く思考の帰着が結局そこになってしまう自分に嫌気がさす。理由を並び立てて自分を納得させたいだけじゃないか、と考えれば考えるだけ負のスパイラルに陥ってしまう。結局、不安なだけなのだ。実質格上の人間と比べられて結局浅く小狡い妥協ばかりを繰り返している自分を暴かれ、さもしい自分を知られて劣等感を感じさせる相手を自分を知る人間がソイツを選んでしまった時。それは自分に愛想を尽かして離れてしまうよりも恐ろしいことだ。
だから、菅原はたといあの子が影山にどうこう想おうと何も口出しはできない。横槍を入れることは即ち、あの子は影山の方を選んでしまうのではないかと言う懸念がすくならなず有ることを意味する。選ぶ、といった言葉選びは適切ではないが、より好き、嫌いが恋愛に置いては存在する。菅原を知る彼女。心を明け渡した人間に態度を翻された痛手は幾ばくか想像したくない。怖いのはそこで、加えて自分のよく知る彼女は常識、という囲いに阿ることを特別嫌う。気まずいから、とか、付き合える付き合えない云々、損得勘定の小狡いところが彼女には一切ない。軽薄に自分の利害を求めているだけの様に振る舞う彼女だが、そこのところ微妙。その自己中心が周りを中心とした自論で成り立っているので何故か自分は損をするという感じに最終的に回ってしまっている。不器用なやり方に自信は全く気付いていなくて、人よりあくせくしているのを見て菅原はクスリと来てしまうのだが、そこが彼女の厄介なところ。多分、彼女自身のよくわからない物差しで影山と菅原を測ったとき、多分妥協では菅原を選んではくれないだろう。雲の上の天才だからと、影山を距離を取ったりはしないだろう。
だから、菅原は、彼女が時々、とてもとても好きだ。



しかし、それはそれで、影山は我が部要の期待の一年生である。調子が悪いと聞かされたら話をとりあえず聞いてやるのが三年生の仕事である。タイプは逆だが同じセッター同士であるし、菅原も平凡の人間であるので才能あるスペシャリストに魅せられてしまうのもまた当然なのである。部室で汗で塗れたTシャツ背中を脱ぎつつ、背中で対角の影山の動向を伺った。一年生である癖に、烏野ジャージが様になっている影山。日向が横で何事か騒いでボゲェと影山に怒鳴られている。田中がベラベラ横でベラベラ喋っているがどうでも良い話なので無視しておく。心なし早めに学ランに着替えて影山の方に寄った。下校の時より、小うるさい部室の方が気負いなく話し掛けられると思ったのだ。

「プププッ、流石おうさまー。
独裁政治は戦中だったケド、嫌がらせは世紀末だねー」

「月島ーテメェ!勝手に人のカバン見んな」

「マジ?!またまた!?」

「練習終わりなのに元気だな…俺吐きそう…」

「人気者は辛いねぇー王様。人の恨み買うなんて流石、いい気味、ップ」

「聞こえてんだよ月島ゴラァ!」

「影山ー!ねー俺にも見して!」

「なーに騒いでんだお前ら……」

問題児一年生は練習開けた後も騒がずには居られないらしい。月島と影山はロッカーの配置換えを考え直さなければならないかもしれない。今度大地と相談しよう。
黙った一年間は菅原を見ると固まり、日向はききとして、
体力有り余る一年に嘆息しつつ声を掛けると、ぺらり、と菅原の足元に何か落ちた。徐にカバンを脇後ろによけつつ屈んでそれを拾い上げる。広げると何の変哲もないB4のプリント用紙に、

『これは不幸の手紙です

これを読んだ人は
3日いないに最低5人に
回して下さい』


「…………。なにこれ」


2014/07/07 13:28


▽ハイキュー、菅原夢
「はあ……」

「あらぁ、菅原くぅん。おっつかっれでーすかぁ?疲れてるとこ悪いけど、まだ先は長いから。ちゃっちゃか終わらせちゃってくれるぅ?」

ふてぶてしくシャープペンを弄ぶ女子は、少し前まで菅原が憧れていた女の子。
クラスに一人ぐらいはいると思われる、所謂男好きのする分類をされる女子。特別、美人というわけではない、しかし甘いロマンス系のマスクに少し垂れ目の泣き黒子。体型は少し丸みがある、勉強は特別に出来る訳では無いが、至って真面目、先生の覚えも厚い。目立つのは少し苦手で、はにかみ屋。気さくなので友達も多い。ごく普通の健全女子の見本のような女の子。その実、クラスには彼女より美人、彼女よりも可愛らしく、スレンダーな悩ましボディを持っている女子がいる。ファンが居ることは確かだ。だがしかし、実際に付き合う恋愛相手として男子が女子を選ぶ場合、どのタイプが確実にモテるか。手の届きそうな何としない可愛らしい女の子、である。この女子は絶妙なバランスで男心をくすぐる要素を兼ね備えていた。
しかし、神様はどんな物にでも欠陥を一つや二つは平等にその御手からお与えになるらしい。なんとどうして粋な計らいをする。菅原には迷惑千万な置き土産だが。凡そ、人生とは上手い話などそうそう転がっては居ないが、これはちと薄情過ぎやしないか。
好きな(好きだった)子には拒否され振られたも同然、一つ下手を打てばそれが瞬く間に広がり、針の筵状態。しかも思いを寄せていた女子は猫を被った実は虎かライオンか何かで性根がいろいろ捻くれてると来た。今まさにその女子は二人で手分けする筈の業務をサボって菅原を如何におちょくるかに情熱を傾け、責められる謂れは菅原には全くないのに、昼休み返上でお勤めご苦労。これがほんとの人身御供。いやあ参った。柑橘の様に甘酸っぱい時間は誰かさんのお陰でストレスのオンパレード、胃が痛いったらありゃしない。人気者を独占するのは嫉妬や羨望と等価で一度仲違いし関係が修復したとなると彼女を狙う狼共も平静ではないらしく、菅原は「いたいけな少女を泣かせぬけぬけと再び名乗りを上げたクソ野郎」である。

「ちょっとは反応しなさいよぉーつーまーんーなーいー!」

「つまんない、結構、オレは疲れてるんだ……」

普段、女の子がおちょくる、菅原が切れる、つまらない言い合いに発展、の流れが出来ていた。この少女の言い草、的確に相手の怒髪天を突き、温和な菅原だが黙っていると言いたい放題、癪に障る。まあ、この阿呆の様なタダの喧嘩は二人でいる時限定の催しの様な物で、第三者が居た場所には少女は借りて来た猫も真っ青の大人しぶりで済ましている。この変わり身の早さには舌を巻く。もう技巧とも言っていい彼女の変貌振りにそして、菅原の疲れはどっと増すのである。

「すーがーわーらくーんーつーまーんなーいーほら、立って、元気を出して!今日も一日がんばりましょー!」

「誰の所為だと思ってんだ……!!」

「だれのせい?何が?」

「ああ…もう…!!」

この女の子、たかが外れたか開き直ったか、菅原が安全圏と見なしたか、菅原の前では素の自分を開けっぴろげ、その元々の性質は清純清楚とは真逆、傍若無人天衣無縫、いい加減の騒がし好き、皮肉は云う、サバサバアッケラカンとして、表情が良く変わる。
その突然引っ張り出す話題がとんでもない。

「菅原くんって胸はおっきい方が好き?ちっちゃいのが好み?男子ってやっぱおっきいほーが興奮すんの、ねぇー因みに私は○ね。クラスで一番大きいのはやっぱり×××さんだよねぇー体育ときやっばいのよーう、あっは!何食べたらあんなにおっきくなんだろ!」

親父である。凡そ女子高生が男子高校生にふる話題ではない。菅原をいつも一緒にいる女子友達と同列に考えているらしく、多感な男子高校生には毒以外の何物でもない。

「うん……一般論では大きいに越したことはないだろうけど、オレは大き過ぎるのはちょっと嫌だな。慎みがない気がするし。それよりオレは胸より足に重点を置くな、程よい肉付きの脚はポイント高いよ、△△さんはいいね、運動してるからちゃんと締まってるよ」

「いやはや、菅原氏は脚フェチでしたか!?これはこれは失敬!
いやー脚フェチ……。
ごめん、菅原くん、なんかちょっと引いた」

「お前が、振ってきた話題だろ!?」

全く、いい迷惑だ。
恨みがましく菅原が思おうとも、この女子には菅原の悩みなぞ理解しないだろう。へこたれ顔を伏せる菅原。


「私、帰る」

「へ?!いや、終わってないし!新聞、今月の!今日概要だけは決めるって…!」

「帰る」

「ちょ…!」



そして次の日。

「菅原、お前を誤解してたぜ!!案外一途で義理堅い男だったんだな!」

「お前の事、軽薄な酷い奴だと思ってたオレを殴ってくれ!」

「お前は男だよ…、スガ……、あんな可愛いこに好かれてもなびかないなんてな…」

早朝朝練から帰った菅原に今まで遠巻きにひそひそ話をしていたクラスメイトたちがわらわらと集まってきて、口々に菅原を称えた。状況に付いていけない菅原は唯一菅原の陥っている状況を正確に把握する悪友を探したが、菅原がそれを見つける前に、友人の方が憤然と菅原に突進してきた。

「スガーーー!オレに隠し事たあ何事だー!!」

その鬱陶しいテンションを黙らせるため鳩尾に一発決めると、友人を安全地帯の階段の踊り場に引っ張っていく。

「ひでえ、スガさん、俺の扱いひでえよ」

「あれは、なにがどうなってる?!」

「あれって?」

「クラスのみんなが話しかけてきた!」

「わー、そのまま聞いてると、すっげ、ぼっちの発言…あ、実際ぼっちか。あ、うそ、すみません」

「うん、少し黙ってな?」

男子が朝からコソコソ方を寄せ合って密談、すれ違う女生徒の好奇の視線を集めつつ、しかし今はそれどころではない。


2014/07/01 20:48


prev | next




TOPに戻る
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -