2013/05/12 00:10
▽キミを連れて(SS/風のタクト・オドリー)




 見たことのない天井だった。やけに口の中が塩辛い。体を起こすと石壁と木の棚が目に入った。棚には厚い本が並んでいる。
「(どこだろう)」
声に出そうとしたのだけれど、塩辛さのおかげで喉が痛く声が出なかった。ふと白い布団に視線が落ちる。自分が寝ていたのはふかふかのベッドで腕を動かせばその度にベッドに埋もれた。足も動く。五体満足だ。
「ゲホッ…ゲホッ、ゲホ」
再び声を出そうと挑戦してみたが喉がヒリヒリと痛み咳をするのも辛い。熱はなさそうだから本当に喉だけやられてしまったようだ。きょろきょろと周りを見渡したところで部屋のドアが開いた。

「起きたのか?」
入ってきたのは白い髪に茶色の服を着た男の人だった。肌も浅黒く耳がとがっている。
「(なんかヒラヒラついてる…)」
来ている服の袖口はまるで鳥のように大きく、私の視線を引いた。否、それよりも私の目を引いたのは、彼のちょうど顔の真ん中ぐらいにある鳥のくちばしのようなものだった。口が下にあるのだから口ではないのだろう。じゃあ鼻?嘴みたいなのに?こんな人を見るのは初めてだ。
「(初めて…?うん、初めて)」
彼は私の横に座ると私の様子を見るように顔を覗き込んだりおでこに手を当てたりする。ちょっと、どきどきするな。

「熱などはないみたいだな。キミ、自分の住んでいた島はわかるか?」
島?私は島に住んでいた…?
「わからないのか?みたところそんなに幼い訳でもなさそうだが…」
「あっ…ゲホッ…んんッ…」
「おっと、声が出ないのか。きっと海水を飲んだんだろう。ああ、無理をして声を出すな」
彼は私の前に小さく手を突き出して、私を制止させると近くにあったピッチャーからコップに水を注ぎ、差し出す。
「はじめは痛いかもしれないが、我慢してくれ」
コップを受け取り水を飲むとまた喉がひりひりと痛む。飲み終わって先程と同じようにしゃべりだすと、かすれはしたものの少し声が出た。

「私、は…」
「声は少しでるか。でも無理はしなくていいぞ」
彼はベッドの近くの棚から紙とペンを出すと私の膝の上に置いた。
「つらかったらそれを使うといい」ああ、それと。と彼は言葉をつなげる。
「私の名前はオドリーだ。見ての通りリト族で配達から帰ってくる時、この竜の島の沖でキミが倒れているのを見つけて連れてきたんだ」
沖で倒れていた…?私は何をしていたんだろう。それにリト族というのも初めて聞いた。そんなに有名なのだろうか。

「それで、話を戻すがキミの住んでいる島はどこだかわかるか?俺は配達をしているからある程度なら知っているし、ついでになるかもしれないがキミを送っていくこともできる」
「あ、あの…」
少しかすれた声を出すとオドリーさんは口をつぐみ、私と改めて視線を合わせた。

「私、は…、ダレですか…?」
「は…?」
彼が驚いているのはすぐに分かった。別に驚かすつもりで言った訳ではなかったのだけれど仕方がない。今この問いができる相手は彼しかいなかったのだ。

「キミ、名前は」
「わかりません…」
「年齢は」
「わかりません」
「…何か覚えていることは」
「一番古いのはここの天井です」
「…記憶喪失か」
「…すみません…」

自分で分かっていたつもりでも他人からつきつけられると改めて実感する。それと同時に申し訳なさがこみ上げてきた。ただでさえ拾っていただいて迷惑をかけているというのに、加えて記憶喪失だなんて。無意識に同じ言葉がもれた。

「すみません…」
「いや、謝らなくていい。キミが悪いわけではないだろ。とりあえずヴァルー様のところへ行こう。立てるか?」
彼は私からコップを取り上げるとそれをサイドテーブルに置いて手を差し伸べる。私はその手に甘え片手を乗せるとベッドから降りて足を床につけた。ヴァルー様って誰だろう?様ってつくくらいだから偉い人なのかなあ…。


→つづかない。




マジで続かない。ふりじゃなくてね。こんな風にオドリーさんに拾われたいという願望。そして最近風タク触れてないせいでオドリーさんがあいまい。







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