2011/11/22 23:34
▽トアル村のとある姉弟6(黄昏/SS)




冷たい風が足元を這う。弟が帰ってきた合図に振り向くと予想通りの姿がそこにあった。

「ただいま」

おかえりなさい、と返しすぐに体の向きを戻す。フライパンの中身を焦がさないように手を動かしているといきなり後ろから衝撃がきた。腹部に回される腕と背中からの圧力に身動きが取れなくなる。


「…リンク」
「寒い中帰ってきたのになんか冷たい」
「今夕飯の支度してるの!ってうわっ!」


エプロンを退け、服の隙間から直接リンクの手が肌に触れた。
あまりの冷たさで全身に鳥肌がたち逃げ出そうと体をよじるが弟の腕がそれを許さない。


「ちょ、やめてよ!冷た!」
「姉さんは温かいね」
「ホント冷たいからやめてってば!」

腹の上をまさぐるリンクの腕を剥がそうと引っ張るがびくともしない。熱が奪われるとすぐにまた場所を変えてくるのでだんだん自分の服の中の温度も下がっていった。そしてそれと比例してリンクの手のひらの温度も上がっていく。



「もう温まったでしょ!早く腕どかして」
「んー…、もうちょっと」


ぴたりとくっつくほっぺたもまた冷たかった。風で乱れただろう髪もまた冷たく、ちくちくとくすぐったい。

「いい加減にしないと、この温かい木べらでもう片方の頬も温めてあげるけど」
「それはイヤ」
「じゃあ早く離して」
「それもイヤ」


もぞもぞと首元に顔を埋めてくるリンクの息が首筋に当たって変に鳥肌がたつ。いつまでたっても甘えたな弟で困るなあ。でも駄々を捏ねる弟も可愛い─…


──ゴッ!
訳あるか。鈍い音と一緒に私の肘がリンクの腹に埋まる。
油断していた分まともに入ったらしく私の体からリンクの腕が離れ弟は床に崩れ落ちた。

「…姉さんひどい」
「寒いなら先にお風呂入ったら?今日の夜は冷えそうよ」
「じゃあ一緒に寝ようよ」
「バカ」
「拒否しないってことは一緒に寝てくれるんだ」


いつもなら直ぐに嫌だというのだけれど今日は何となくそんな気分じゃなかった。夜冷え込むのは本当だし、それは昨日よりひどくなりそうなのもわかっている。私も人肌が恋しかったのだ。


「仕方ないなあ…」
「やった!姉さん大好き!」


復活してまた飛び付いてくる弟に私は今度こそ容赦なく木べらを打ち込んだ。



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いいふうふの日。(笑)






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