02 平和島くん、もとい静雄はよく寝ている。授業中で起きているのを見たのは体育の時くらいなものだ。まあ寝ているお陰で授業中は黒板が見えるわけだし、私に害が有るわけでもないから良いんだけど。いやちょっとあるかも。現に今、回ってくるであろうプリントをどうするか悩んでるところだから。 静雄の前の席のクラスメイトであるせっちゃんがソワソワしているのを見ながら「可愛い」とか思ってる場合じゃないですね。静雄を起こすべきか、そっとしておくべきか。 3秒悩んで起こすことにした。静雄の背中をトントン叩くと、のそのそと上半身を上げた。おはようトトロ。 「ひっ…」 プリントを回すために後ろを向いたせっちゃんの表情筋が一気に強ばったのを見て、この選択肢はミスだったことに気づいた。寝起き悪いタイプなのか静雄は。 「あ゛?」 「これ…プリント…」 「……ああ」 彼的には普通に受け取ったつもりなのかもしれないけど、力が強くて、バッ!という効果音がつけられそうなくらい激しく受けとることになっていた。せっちゃんは更にびびっていた。静雄が大きくて顔は見えないけど。 そんなことを考えていたら私にもバッ!とプリントが差し出された。 いや、だから、強い。 文句を言う勇気もなくて、「ありがとう」と小声で言って、差し出されたものをそっと受け取って終了。せっちゃんに何てお詫びしよう。あと静雄にも。 ♀♂ 「静雄さ、これ飲めない?」 昼放課になって弁当をいつも通り教室で食っていたら、ゴトンという音と共に目の前にプリンシェイクが置かれた。顔を上げるとそこにいたのは若葉で、少し困ったような表情を浮かべていた。 「飲めるけどよ…お前飲まねぇのか?」 「今の気分じゃないんだあ」 「じゃあなんで買ったんだ…」 「ボタン押したら違うの出てきちゃったの!」 「そんなこと本当にあるんだな」 なんて言いながら俺はプリンシェイクに手を伸ばす。もらえるものは貰っておく。まあタダで貰うのは気が引けるから金は払うが。 「これで良いか?」 鞄を探して出てきた100円玉を手のひらに乗せて若葉の前に出すと、一瞬表情が硬まったように見えた。が、気のせいだったのか「えっ?いいの?ラッキー!」と嬉しそうに若葉は100円玉に手を伸ばした。結構ちゃっかりしてんなこいつ。 「ありがとね」とだけ言い若葉は俺のすぐ後ろの席に戻っていった。 さて、これだけ飲んで次の時間も寝るか。 ♂♀ 手のひらに乗っている100円玉を眺めながらプチ反省会中の私です。どうも。 静雄へのお詫びがしたかったのに結局失敗してしまった。お金を受け取らない選択肢ももちろん有ったけど、あそこで受け取らなかったら静雄に変な勘繰りをされるかもしれなかったしなあ。結構勘が鋭そうだし。 お詫びをしたいっていうのも結局のところ自己満足で、自分が罪の意識から逃れたいだけな訳だし、それに静雄を付き合わせるのも悪いか!なんて整理をつけようとするけど少しモヤモヤする。これはもう性分だから仕方ない。 「プリントなら頭にでも置いといてくれればいいからな。」 机がガタンと音を立てる。 急に話しかけられて反射的に体がびくついてしまった。 いつの間に振り向いていたんだこの人は。静雄の口から出てきた言葉にもドキッとした。何もかも見透かされていたのだろうか。たまたまか。 「りょーかいでーす」 笑顔を作って敬礼しながら返事をすると、また呆れられたような顔をされた。静雄に完全に馬鹿だと思われている。いや馬鹿だけども。 とりあえず静雄には全体的にフォローより回避させる方が良いことを学んだ。これからは気を付けよう。まだまだ先は長い学園生活だ。 気を取り直してせっちゃんに飴をあげにいくと「食べる〜」とにっこり笑うから可愛くって、たまらずよしよししました。そしてせっちゃんとのプチ作戦会議の結論として静雄のプリントは机のすみっこに置くことになりました。 席替えまでまだあるもんね。一緒に頑張ろう。 [mokuji] [しおりを挟む] ×
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