初彼女!でも実は……
六時限目の苦手な数学が終わり、俺は部活へ行くため廊下を急いで歩く。
着替えて体育館に行けば、ほぼ全員が集まっていてすぐに部活開始となった。
「あー、終わったー!!」
やっと部活が終わり、黄瀬が体育館に倒れ込みながら叫ぶ。
それを笠松がうるさいと怒り、蹴飛ばす。
見慣れた光景だ。
「森山、お前今日は自主練残らないのか?」
笠松は黄瀬を踏みつぶしたまま、いそいそと帰り支度をする俺に声をかけた。
「ん、今日は帰るよ」
「珍しいな、お前がすぐに帰るなんて」
あぁ、そうか。
そういえば今まで毎日自主練してたな。
でも今日は大事な用事があるんだ。
「今から彼女とデートに行くんだ」
「…………………………………………………………………………………は?」
たっぷり間を空けて小さく声を漏らした笠松にお疲れと声をかけて、俺は早足に体育館を後にした。
早く彼女に会いたい。
きっと彼女も俺のことを待っているだろうから。
部室で制服に着替え、身だしなみを整えてカバンを引っ掴む。
時計を見るともう7時半だった。
少し約束の時間に遅れるかもしれない。
そう思った俺は普段はゆっくり歩く家までの道のりを走って帰ることにした。
「おい!今居るやつ集合!!」
森山が去った体育館に笠松の声が響いた。
笠松の周りには、これから自主練をしようとしていた黄瀬、早川、小堀が集まった。
「さっきの森山の言葉、聞いたか?」
「聞いたっスよ!『今から彼女とデートに行くんだ』って…!!俺、笠松先輩に踏まれながらばっちり聞いたっス!」
「黄瀬、最後の情報はいらなかったな。それより森山、彼女出来たのか?」
「先輩に彼女っ!?それ、ホントっすか!?」
円になり、コソコソと話す。
話題はもちろん、先ほどの森山の発言について。
森山といえば、残念なイケメンの代名詞のようなもの。
何が残念なのか、笠松に言わせると……
「言うことがウゼェよな。あとナンパの仕方がウゼェ。試合前に好みの女子探してキョロキョロすんのもウゼェ。とりあえずウゼェ」
とりあえずウザいのである。
女子を見つけると、
『君は俺の運命の人!ここで巡り会えたのもきっと運命なんだ!どうだい運命の人、俺と一緒にお茶でも……』
なんて言い出すから切れ長の目も、サラサラの髪も、平均身長より高い背も、全てが無駄になる。
素晴らしく残念なイケメンなのだ。
が、そんな残念なイケメンにも春が来たようで。
「でも俺は森山に彼女が出来たなんて初めて聞いたぞ」
笠松の言う通り、そんな噂は聞いていない。
小堀も笠松と同じようで頷く。
「そんなこと言われたら誰と付き合ってるか気になるじゃないっスか!」
「やめとけ、黄瀬。お前が首突っ込むとろくなことがない」
「ひどいっすよ、笠松先輩!って、何で小堀先輩も早川先輩も頷くんすか!?」
騒ぐ黄瀬を他所に、笠松はこれから森山を注意して見ようと誓ったのだった。
俺は今、彼女の家の前にいる。
今日は彼女の家でお家デートだ。
インターホンを押すと可愛らしい声と共に彼女が顔を出した。
「京、ごめんね、ちょっと遅れちゃったかな?」
「大丈夫だよ!由孝くんと一緒にいられるだけで嬉しいから」
そう言って恥ずかしそうに笑う京。
可愛すぎて俺が倒れそう。
「部活お疲れ様。今からご飯食べるから上がって」
「ありがとう。お邪魔します」
「そんなにかしこまらなくても、今日は私以外誰もいないから大丈夫だよ」
だ、だ、誰もいない………!?
これはあれですか、誘われてるんですか、今日で俺もついに卒業ですか!?
あれこれと考えながら家に上がる。
リビングには美味しそうな料理が並んでいて、そのテーブルに京と向かい合わせで座った。
「由孝くんお腹減ってると思っていっぱい作ったから、たくさん食べてね!」
「もちろん!それじゃ、いただきます」
初!彼女の手料理!!
感動で震える手を抑え、目の前にある肉じゃがのじゃがいもに箸を伸ばす。
口に入れるとふわっと甘い味が広がった。
じゃがいもはホロホロで、少し噛んだだけで崩れていく。
何が言いたいのかというと…
「美味しい!!京は可愛い上に料理も上手なのか……いいお嫁さんになるよ」
「あ、ありがとう……でも私がなるのは由孝くんのお嫁さんだから」
待って、そんなこと言われたら我慢できなくなるよ?
俺はテーブルに手をついて京の方に身を乗り出す。
京はこれからのことを察してくれたのか、静かに目をつむってくれた。
俺たちの顔が近づいて、もう少しで唇が触れ合う……………
「……い、おーい!森山君!!」
「はっ!?」
頭を思いっきりしばかれ、飛び上がる。
急な展開についていけなくて、思わず叫んでしまう。
「もう少しで京とキスできたのに……!!それに京の手料理だってまだ一口しか食べてない!!」
そこまで言って気がついた。
黒板には数学の公式。
俺自身に突き刺さる視線の数々。
え、もしかしてまだ六時限目の数学終わってなかったりする?
部活行くところから夢だったりする!?
「森山…君………」
中でも一番痛かった視線は俺を起こしてくれた、隣の席の京。
驚いた顔から徐々にゴミ虫を見るような目に変わっていった。
「ねぇ、森山君」
「な、何?」
「私ね、森山君のことイケメンなのに残念な人だなーって思ってたの。でも認識を改めるね」
数学の授業中なのに、先生も生徒も彼女の話を遮ることなく成り行きを見守っていた。
「森山君は残念なイケメンじゃなくて、妄想癖のある残念なドリーマーなんだね」
彼女が笑顔でそれだけ言って黒板を向く。
「とりあえず…森山、ドンマイ」
先生はぼそっと言って授業を再開させた。
やってしまった。
さっきの京の手料理、照れた笑顔………
全て夢だったのか………
もう、いろいろとやってしまった。
泣きそう………
京は三週間以上喋るどころか、目も合わせてくれませんでした。
END
あとがき
とりあえず森山さんお疲れ様!!(笑)
今回長かったね(;・∀・)
でも楽しかったよ!
また森山さんで遊び………森山さんと遊びたいな!
拍手に黒バスキャラ生息中ですので、よかったらどうぞ!↓初彼女!でも実は……
2014.05.27
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