勿忘草とオンシジウムと共に


「アメリカに、行くのかい?」

冬の身も凍るような寒さがやっとなくなって、春を感じられるようになったある日。

僕の一番の理解者と言ってもいい京から、渡米することを聞かされた。

両親の渡米についていくらしい。

「今まで黙っててごめん………」

「いつ、いつ向こうに?」

「14日の14時発の飛行機に乗って行くの」

14日…………

後一週間か……

後一週間で彼女は僕の手の届かないところに行ってしまう。

いつだって僕の側にいて、名前を呼び合った彼女が。

決して表立って何かをしようとするのではなく、影から僕を支えてきた彼女が。

これまではいつでも会えると思っていた。

だから、この気持ちも伝えてこなかった。

今は言うべきじゃないと、きっとその時が来れば言えると思って。

「………本当に行くのか?」

「うん。私も向こうでやりたいこと、見つけたから」

だから、バイバイ。

京がそう言った後、気がつけば自分の部屋にいた。

あの後、何を話したのか、どうやって帰ってきたのかも覚えていない。

一週間、僕は京にどう接したらいいのだろうか。

彼女が渡米するにしても、普通に学校や部活には来るだろう。

そしておそらく、僕以外にこのことは言っていない。

彼女は騒がれるのが好きじゃないから、送別会をして欲しくないのだろう。

彼女が自分の目の届かない所に行くだけで、僕はこんなにも弱くなるのか。

今はもう何も考えたくなくて、ベッドに身を沈めた。









あの日から一週間後。

とうとう彼女がアメリカへ行ってしまう。

この一週間、僕は考えるだけで何も出来なかった。

学校も部活も普通にこなしていた京は、僕にもいつも通り話しかけてきたし、一緒に帰ったりもした。

その時どちらも京の渡米のことには触れず、他愛もないことを話したりした。

だから、本当に実感がなくて。

今は京の家の前にいるのだが、まだ迷っている。

これを渡すべきか、この想いを口にするか。

インターホンを押す指先がみっともなく震えている。

意を決して押そうとした瞬間、玄関が開いて京が出てきた。

「征十郎?」

「…………おはよう。今日は部活があって空港まで見送りに行けないから、先に挨拶しておこうと思って」

びっくりした。

心の準備が出来ていたからよかったものの、まだ迷っているところだったらきっと情けない声を上げていたんだろうな。

「そうだったんだ…わざわざありがとう」

「本当は空港までついていきたいんだが………私情で部活を休む訳にもいかないからな」

「そんなことしたら私が征十郎を殴るからね!?しっかりしてよ、主将って」

それは怖いな、と笑えば彼女も笑う。

あぁ、その笑顔が好きなんだ。

最近は見れてなかったから、向こうに行く前に見られてよかったよ。

「それで、餞別と言ってはなんだが…」

そっと背中に隠していたソレを京に手渡す。

「ドライフラワー……?」

京が手に持っているのは、勿忘草とオンシジウムのドライフラワー。

透明のプラスチック容器に入れられ、半永久的に保存されたもの。

「黄色と青が綺麗だろう?」

一瞬ぽかんとした京だが、薄らと涙を浮かべ微笑んだ。

「ありがとう。大切にする」

「あぁ…………向こうに行っても元気で、体調に気をつけるんだよ?」

「征十郎もね。…………………また、帰ってくるよ」

そう言った彼女に頷き返して、背を向ける。

この気持ちは今伝えるべきじゃない。

彼女の決心を鈍らせることだけはしたくないから。

「ありがとう!また、ね…!」

震える声で言ったその言葉に、振り返らず手を軽く振る。

ここで振り返ったら、きっと彼女も僕も泣いてしまうだろうから。

またね、その言葉を信じて、今は進むよ。

いつか、もう一度京と一緒に並んで歩ける日が来るのを信じて。









「…………勿忘草の花言葉、『私を忘れないで』、オンシジウムの花言葉『いつまでも待っています』か………征十郎も、粋なことしてくれるね」





END



あとがき

はい、消えてしまった小説を復元いたしました!

むっちゃ話の筋とか変わってるけど、気にしないよ?
よくわからん文章になってしまったが、気にしないよ!?

そこは気にしちゃいかんぞ(笑)


ここまで読んでくださった京様!
本当にありがとうございました!


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勿忘草とオンシジウムと共に

2014.4.16



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