十途渡屋
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新しい扉が開かれた


きっかけは本当に些細な事だったと思う

同じ教室と、変わらない席、
馴染んだ顔に、意味が分からない授業、
当たり前の様に毎日繰り返されるサイクル
私はそれがとても苦手だった

最初の内はこれと言って何かがあった訳では無い
いや、もしかしたら知らない内にあったのかも知れないけど

特に代わり映えのしない毎日を繰り返していたある日
何時もの様に教室に入ると、明らかに空気が異様だった
何なんだれろうか、きっと私以外の人でもそれは分かると思う
なんとなく構えながら何時もの席に着いた

席に着いて数分もしない内に
ここで所謂“リーダー”と呼ばれているヤツが
気味の悪い笑みを浮かべながら近寄ってきた

なんだコイツと思っていたのもつかの間
いきなりコトバをぶつけてくる

「ねぇ、フェリシアは何で学校に来てるの?」
「何時もフェリシアのところで授業止まるの本当に迷惑なんだよね」
「知ってる?ここにいる皆全員そう思ってるんだよね」
「分かんないかなぁ?頭悪いもんね」

胸元がキュッとなる感覚がして気持ち悪い

その日は一日チクチクとしたコトバを受け続けた
誰かが助けてくれるかも知れないと淡い期待を抱いていたが
そんな淡い期待も直ぐに崩れ去ってしまった
最初我関せずだった人達も何時からか同じ様な問いかけをする様になり
私が困っている姿を見ては指差してクスクス笑っている

投げかける言葉はどんどんエスカレートしていく

それだけならまぁ問題は無かった
…いや、無いと言ったら嘘になるけれど

正直ちょっと疲れて来てしまったなと思いながら
また何時も通りの日を、いや何時通りだった筈の日

「まだ学校来るの?なんの意味もないのにねー」
「友達もいないし毎日ボッチじゃん悲しくないのかなぁ」
「キモいよね」「居るだけでウザイし!」
「せっかく話しかけてあげてるのにね!」
「視界に入るのも迷惑ー」「そんな本当の事言っちゃダメじゃん」
「生きてる意味とかあるの?」「ないない!」

私はここの皆にそこまで何かをしてしまっていたのか
ただ普通に学校に来て皆と楽しく…
皆と?今ここにいる?
私を嫌っているこの人達と?
望んでた?望んでた、

あぁ、こんな形は望んでいなかった

不思議と表立っては感情が出ないもので
私は踵を返して教室を出た

私の居場所なんかなかった
多分最初から
でも友達ではあると思ってた

それは、ただ一人、私だけが。

行く当てなんてなかったし
なんとなく何時も行かない方へ歩いた
誰もいない
今はそれが逆に嬉しかった

『もうあそこには戻りたくないなぁ』

ぼんやりそう思いながら兎に角知らない所へと歩いた

『あれ』

知らないとは言え知識として知っている場所がある
上級生達のいるまた別の建物
下級生は先ず縁のないところ
なぜだか恐ろしい場所だと実しやかに囁かれていたな

『こっちには行ったらダメだろうな…』

そう思って戻ろうとした時だった

「あれー?一年生じゃないかい?」

いきなり背後から話しかけられ
少し身体が跳ねてしまう

「あぁ、ごめんごめん驚いちゃったかな」

その人はとても優しい顔でにこにこしていた

「入園式の日にさぁ、キミめっちゃ目立ってたよねー」
「その時からちょっと気になっててねー」
「あ、申し訳ない名前」
「僕はカーラ・グレモニー7学年生だよー」
「貴殿は?」

ちょっと早めに捲し立てられて
吃驚しながらもとりあえず答えよう

「ゼパル…フェリシア・ゼパル」
「フェリシア!フェリシアですな、ふふっ」
「…」
「何かあったのかい?」

カーラさんが汲み取ってくれたのか優しく聞いて来た
正直なやんだけれど今迄あった事を話した
初対面のヤツにこんな事言われても困るだろうなと思いつつ

「は?」

先程とは一転、カーラさんの表情がガラッと変わる
背筋が凍る感じとは聞いていたがこう言う事なのだろうか

しばらくの沈黙があって
その沈黙を破ったのはカーラさんだった

「あぁ、ごめんねフェリシア」
「僕にもこんなに不快になる事があるとは…ふふっ」

うーん、と頭を捻りながら次は困った様に笑ってみせた

カーラさんはその後しばらく何かを考えていたようで
一人でああするかこうするかと呟いていた
しばらくたった頃唐突に

「よし!僕は決めましたぞ!」

また少し身体が跳ねる

「フェリシアこっちにおいでー」
「え…?」
「僕グループ内ぼっちでさぁ、まあ寂しいんだよねぇ」
「え?え?あの…」
「この学校の仕来でね教えられる頭があるなら引き抜けるんだよね」
「ええ…知らなかった」
「僕の所は優しい方しかおりませんぞ、変なヤツも多いけど」

ちょっとしてからカーラさんは
僕も変なヤツだった!!と笑っていた

「…本当に行っても良いんですか?」
「ほんとだよー、来てくれたら僕は超嬉しい」

悩むこともほぼ無く返答をかえす

「だったら、行きます、カーラさんのところ」

「え!良い?!やったぁ!可愛い子ゲットできた!やったぁ!」

ノリが結構良い方だなと思って少し笑えた

「そしたら行こっかー」

手を差し出されたので素直に手を取る
カーラさんは相変わらずにこにこしていて
その顔を見ているだけでも何故か心地好い
会って録に時間も経っていないのに
この人が居てくれる場所ではまた楽しく居れる気がする
何故だか分からないけど確信めいた気持ちだ

新しい扉が開かれた

「いらっしゃい、フェリシア」

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