十途渡屋
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―雪の思い出―


あれから少しの時間が経ち、その間に
ばーちゃんは元のばーちゃんの戻っていた

何時ものように大好きなプリンをくれたあとに
小さくなったじーちゃんにもプリンをあげて
そして手を合わせながらじーちゃんに話しかけている
それを見ながら僕は美味しいプリンを必死に食べていた

さわさわと冷たい風が吹き込んで来る
もう外は一面の白

何時もならばーちゃんの話はあまりよく聞かないのに
今日は空になった器を眺めながらそっちの方に耳を傾けてみた

僕の話

"今日は良い子だった" "昨日は悪戯をした"

ただ何時ものなんでもないそんな話をじーちゃんにしている
何時も写真のなかのじーちゃんは笑ってこっちを見ていて
それをしっかり見つめながらばーちゃんは
笑ったり大げさな動きをしながら話している
そのあと「あら!」何かに気付いたように一言吐いて
ちょっとだけ言葉をとめ、じーちゃんと僕を交互に見ながら

「やだ、今日じゃない!おじいさん、みぞれ!」

そう、何だか何時も以上に嬉しそうに、
そしてちょっと慌てた風に僕たちに言った

…んん?何の事だろう…と首を傾げていると

「覚えているかしら、三年前の今日よ…
 私たちのところにみぞれがやって来たの!」

三年前、僕がじーちゃんとばーちゃんのところに来た日
あの時は今日みたいなふわふわの綺麗な雪じゃなかった
みぞれ交じりの…

「あの時本当に何かと思ったわねぇ
 急にこーんなちぃっちゃい綿毛が降って来るんですもの
 しかもお喋りができちゃう!驚いたわねぇ…」

「でも、子供たちも家を出て、私たち二人だけで
 とっても寂しかった時にみぞれがやって来てくれて、
 これは神様からのプレゼントなんだ!って二人で笑って…」

「みぞれ模様だったから安直にみぞれってお名前にして」

「みぞれはあの時から私たちの大切な家族で宝物ですねぇ…」

ばーちゃんの話を聞いていたら何と無くむず痒くなって
障子の角に作って貰った僕用の出入り口から小走りで縁側に出た

息も雪もまっ白い

暖かい時も寒い時も、お天気がよければ
じーちゃんとばーちゃんと僕とここでお茶を飲んで庭を眺めていた
特に特別な話をすることはなかったけど
でも、それだけでも、とても幸せな時間を三人で過ごしていた

今、じーちゃんはここにいないけれど、
僕とばーちゃんのそばには、見えないけれど
きっとじーちゃんが居てくれるずっと一緒に居てくれる

地面に降り積もった雪から空に目線を向けて叫んでみた

「みったんは幸せだぞ!!」

何があったってそれだけは揺るがないとそう言える

ふわふわ舞い散る雪の中、
少し気が早いけれど僕は春に思いを寄せていた

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