非日常室内編*押入れ
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僕の家の押入れにはドラえもんがいない。それは寂しいことなので、時々代わりに入ってみる。
押入れはかび臭くて狭くて暗いけど、秘密基地への慕情がそれを気に掛けなくさせる。
「足立さん?」
それに、ここは隠れるのにはもってこいの場所だ。少年がさっきまで部屋にいたはずの僕を探してトタトタと足音を立てている。少年の様子を想像すると愉快だった。しかしやがて少年は、おかしそうにくすくす笑い出した。それもそうだ。少年がいたはずの台所を通らずに外に出ることなどできないのだから、姿が見えないのは隠れているからだとすぐにわかる。
その上、僕の部屋には隠れる場所などクローゼットとここくらいしかない。鬼にとっては優しいかくれんぼだった。
「ここですか?」
ふわふわとした口調で、少年はまずクローゼットを開けたらしかった。ギイ、という音が左の方から聞こえる。
「あは、見つかっちゃった」
それに続いて聞こえたのは僕の声だった。僕自身は声を出していないし、その声は、クローゼットのある左の方からしている。
「次は俺が隠れましょうか?」
「や、いいよ。それよりごはんまだ?」
「今火を止めて置いてあるので、もうすぐできますよ」
僕の困惑をよそに、少年と声は会話を続けた。僕は暗闇の中で息を潜めながら、その声を聞いている。僕はここから出るべきなのだろうか、それともこのまま隠れ続けるべきなのだろうか。一体、声を出しているのは誰なのだろう。
「ねえ、僕、君が好きだな」
僕の声がそう言った。どうもよくない気がして押入れの戸を引こうと手を当ててみるが、そこに紙の感触はない。暗闇に手がするりと入り、僕は前につんのめる。
「俺も、もうあなたでいいかなって」
少年の声が寂しそうに響く中、僕は暗闇の中へ落ちていった。











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