「折り入って君に相談がある」
「えっ…ど、どうしたの歌仙さん…そんな改まっちゃって…。私何か雅じゃない事でもしちゃった?」
「君が雅じゃないのはいつもの事だろう。まったくなんだいその風流さの欠片もない装束は…何故僕が以前選んでやった着物を着て来ないんだい」
「いやいや、本丸に遊びに来るだけなのにお着物なんて着て来られないからね。え、っていうか相談ってそれ!?もしかしてこれから本丸に遊びに来るときは毎回着物で来いってこと!?」
「ああ、すまないね。君の衣装や生活態度については何かと言いたいことはあるけれど話の本筋は別にあるのさ。実は山姥切の布について君に相談したいんだ」
「まんばちゃんの布?もしかしてまた洗濯に出したくないってごねてるの?」
「それについては以前君が山姥切を説き伏せてくれたおかげで今は苦労せずにすんでいるよ。まぁ渋々差し出しているようだけれど同じ布を何日も身に纏うのは衛生的に良くないと彼も理解したようだね。問題は布につけられた例の模様についてなんだ…」
「布につけられた模様…?あ、もしかして布の裾につけたアップリケの事?確かこの本丸ができて間もない頃にまんばちゃんが布に穴をあけちゃったから私がアップリケをつけたんだよねぇ。弟が小学生の時に買ったやたら派手なドラゴンの裁縫箱の中に入ってたやつ」
「ああ…彼はあの間の抜けたような熊の模様をとても大事にしていたようだね…。とても雅とは言えないながらも僕もそんな彼の想いを汲んで丁寧に洗うようにはしていたのさ…」
「間の抜けた熊って呼ばれてんのかリ〇ックマさん…。って、その話の流れからするともしかして…」
「昨日いつものように布を洗っているとぽろりと外れてしまったのさ…まるで斬首された首が落ちるようにあっけなく、ね…」
「例えが物騒すぎるわ」
「あの熊を失ってからというものの山姥切は大層落ち込んでしまってね…熊を手のひらに握りしめて部屋に篭ったきり出て来なくなってしまったのさ…」
「成程ね〜。今日はまんばちゃんの姿が見えないと思ったらそんなことになってたんだ。まぁアイロンでくっつけてただけだし何度も洗えば外れちゃうのも仕方ないよねぇ」
「そ、そういうものなのかい…?僕が山姥切の大事なものを壊してしまったのかと思うと気が気でなくてね…あれをつけた君なら元に戻す方法が分かるんじゃないかと思って君が来るのを待っていたんだよ」
「治せるよー。また糊をつければ簡単にくっつくしね」
「本当かい!?」
「ほんとほんと。でも今後の事を考えるともっと頑丈に着けた方がいいかもね。まんばちゃんがそんなに気に入ってるならあの布にアップリケを縫い付けちゃおうか」
「それは良い考えだ!雅とは程遠いが彼が大事にしている物だ、元に戻るのなら僕も心から安心できるというものだよ」
「そんじゃ早速まんばちゃんから布を回収に行きますか」
「それなら僕に任せてくれ。嫌がる彼から布を剥ぎ取るのは慣れているからね」
「いつも剥ぎ取られてるのかまんばちゃん…」
「お姉ちゃんが来たよまんばちゃ〜ん」
「な、なんだ…俺に構うな…!大切なもの一つ守れやしない写しの俺になんて構うんじゃない…!!」
「うわほんとにリ〇ックマのアップリケ握りしめとる…。そのアップリケ取れちゃったんだって?糊でついてたから洗濯してるうちに粘着力が弱くなっちゃったんだよ。今度は洗っても取れないようにしっかりくっつけてあげるからね」
「ほ、本当か…?またあんたがこのリ〇ックマの写しを布につけてくれるのか…?」
「そのアップリケの事リ〇ックマの写しって呼んでたのかまんばちゃん…。それにしてもそんなに落ち込むくらい大事にしててくれたんだねこのアップリケ。なんだか懐かしいなぁ。この本丸が始動して間もない頃につけたんだよね。まんばちゃんはあの時の事覚えてる?」
「フン…どうだかな…。あの頃はあんたが今より頻繁に本丸に出入りしていて毎日騒がしかったんだ。些細な事なんていちいち覚えてるわけがないだろう」
「畑仕事中にまんばちゃんが布の裾を枝にひっかけて大きな穴開けちゃったから嫌がるまんばちゃんから無理矢理布を奪ってアップリケつけたんだよね〜。布を返せ返せって泣いてるまんばちゃん可愛かったなぁ」
「な、泣いてなんかない…!!あれはあんたが俺の布に妙なことをするんじゃないかと思って止めただけだ…!!」
「おうおうしっかり覚えてんじゃないの〜。まぁ私にとっても思い出のあるアップリケだし今度は洗濯で取れちゃわないようにしっかり縫いつけておかないとね。さあ布を脱いで」
「フン、そんな事を言って布がない俺の顔をじろじろと見つめて綺麗だの世界の秘宝だのと褒め殺しにするつもりなんだろ。あんたはいつもそうだ」
「いや今回はアップリケをつけるのが目的だから!確かにまんばちゃんは可愛くて綺麗で世界の秘宝ではあるけども!」
「じゃれ合っていないでさっさと布を渡すんだ山姥切」
「じゃ、じゃれ合ってなんか…あっ」
「おお、流石は剥ぎ取り職人の歌仙…ああも簡単にまんばちゃんの布を…」
「くっ…見るなっ…!!」
「こんな綺麗なまんばちゃんを見ないなんてできないなぁー…っと、じゃれてたらまた歌仙に起こられちゃうな。布の代わりにお姉ちゃんの上着頭に被せてあげるよ。はいどうぞ」
「ふあ……」
「おお…どうやら大人しくなったようだね。布を剥ぎ取られた後は落ち着きがないのが常の山姥切をこうも簡単に大人しくさせてしまうとは…」
「飼い猫にご主人の匂いのする服を与えると大人しくなるって言うけどまんばちゃんにも有効だったとは…まあ私ご主人じゃないけど」
「主でなくとも僕たちにとって大切な人間に変わりはないさ。さぁ、早くアップリケとやらを縫い付けてしまおう」
「んふふ、歌仙も可愛いこと言ってくれるよねぇ。えーっと、リラッ〇マのアップリケは……って、うわ!!ボロボロになってるじゃんこのアップリケ!」
「戦闘で傷ついたり何度も洗濯しいる内にほつれてしまったんだろうね」
「もうアップリケの体をなしてないよこれ…新しいのを付け替えた方が良いんじゃない?」
「いや…このまま縫い付けておくれ」
「えっいいの!?雅警察の歌仙がそんなこと言うなんて明日は雪なのでは!?」
「ご生憎様。明日は快晴の予報さ。まあ確かに雅には程遠いがこれは山姥切にとって大切なもののようだからね」
「だね。まぁ考えようによっちゃヴィンテージに見えなくもないかー。目とか糸がほつれまくって若干ホラーちっくにはなってるけど。さて、さっさと縫い付けちゃおっと。ほいほいほいっと!これでどうだ!」
「おお!雅な手捌きじゃないか!」
「ふふん、これでも家庭科は得意な方だったからね!」
「ああ…裁縫にも料理にも長けているというのに装束選びに風流さの欠片もないとは勿体ない…やはり雅な女性になってもうらうには僕が一から教育し直すべきか…そうすれば僕が思い描く理想の女性像に近づく日が来るかもしれないない…」
「光源氏計画を練るには私じゃ遅すぎるのよ歌仙さん…。えーっと、念のためにこれ以上ほつれちゃわないようにほつれ防止剤を塗ってっと…よっしゃできた!!終わったよまんばちゃーん!」
「ん……なんだ、もう終わったのか…」
「まどろんでるところ悪いね。はい布と上着交換」
「も、もう少しくらいいいだろ…あんたは俺の布を被っておけ」
「そうしたいのは山々だけどそろそろ帰らないとだからね。また今度堪能させてよ」
「ほら山姥切、早く姉君の上着を返すんだ」
「い、嫌だ…!!今日だけは剥がれてたまるか!!剥ぎ職人の歌仙と言えど今の俺からそう簡単に奪い取れると思うなよ!!」
「ほお…?ならばこちらも本気を見せてしんぜよう!」
「え、なんかバトル始まった…ってギャーッ!!私の上着が引っ張られとる〜〜〜!!伸びる伸びるそれウールが入ったお高いやつなんだよやめてーー!!」
「「そぉい!!」」
「そぉいじゃねーんだよ!!あーーーっ私の一万八千円のカーディガン〜〜〜!!!」