甘味屋と沖田


「よ〜。来てやったぜ」

「…またサボりですが沖田くん」

「おいおいそれが客に対する態度ですかい。こちとら金払って菓子食いに来てんだちったあ敬えよ年増女」

「誰が年増だ!!私はまだ20代前半だっつってんでしょうが!!普通団子の一本や二本で店先を我が家のように陣取って昼寝してるようなやつを客とは呼ばないからね!?」

「すいやせーん親父さん、俺腹へってんで天丼くだせぇ」

「って無視かよ!っつーか団子屋で何注文してんの!?そんなのあるわけ、」

「あるよ〜」

「あるってよ」

「…あるんだ」


江戸に来て初めての春が来た。
私のバイト先である甘味屋は年老いたおじさんとおばさんが経営する昔ながらのお店で常連も多く繁華街も近いという事もあってか色んなお客さんに足を運んでいただける場所だ。
まぁ時々こうやってあくの強すぎる常連客に手を焼いたりもするけれどなんだかんだで楽しく働かせてもらっている。


「お、なかなか美味いですぜこの天丼。これなら定食屋やっても儲かるぜ親父さん」

「沖田さんにそう言ってもらえると嬉しいねえ〜。名前ちゃん、沖田さんに団子つけてやって」

「はーい」

「あ、なんかすいやせん」

「名前ちゃんもお昼食べちゃいな。賄い作ってあっから」

「はぁーい。沖田くん、団子ここに置いておくからね。じゃあ私休憩させてもらいますから」

「俺も付き合いますぜ」

「いや付き合いますぜじゃないよ何堂々とバックヤードに入ってきてんのこの子」

「いいじゃねえですかい姐さんも1人で食うより誰かと一緒の方がいいだろ。あ、テレビつけて。チャンネルはいいかもでお願いしやす。あと茶ぁおかわり」

「いやあたかも私の為みたいな体だけどただ自分がテレビ見ながら座敷でゴロゴロしたかっただけだよね!?ったくもー…」


天丼と団子を手に当たり前のようにお店のバックヤードに入ってきてくつろぎ始める沖田君の姿に本日何度目かのため息をつき渋々テレビをつける。
ほんと自由人が警察やってんだから世も末だわ…。


「お、今日のゲストはお通ちゃんか」

「最近よくテレビに出てるよねぇお通ちゃん。可愛いな〜」

「俺には最近のわけぇ娘っこは皆同じ顔にしか見えねえなぁ」

「自分も若いくせになに年寄ジジイみたいな事言ってんの。はいお茶」

「わけえってのも考えもんでさァ。いくら中身ができ上っていようが若いっつーだけで世間様には嘗められますらかねい。俺もとっとと歳くって見た目も精神年齢に追い付きたいもんでい。…あ、すいやせん年増の姐さんを前に言う事じゃねえか」

「年増じゃねえつってんだろうが!!見た目は子供頭脳も子供のくせにいっちょまえに生意気ぬかすなっての。人間なんて見てくれが若かろうがなんだろうが中身が一本筋通ってればそれでいいんじゃないの〜?」

「姐さんが言うとなんだか説得力があらァ。一本どころか何本にもふってぇ筋が通った人は言う事が違うねぇ」

「また人様をからかう…黙って天丼食べてなさい。私も忙しくならないうちにさっさと食べちゃおっと」

「お、美味そうなカレーじゃねえか。俺にも一皿」

「ってまだ食べるの!?今天丼食べてるところじゃん!?」

「成長期嘗めんじゃねえ。カレーなんて飲みものみてえなもんだろ」

「マジか〜…見てるこっちが胃もたれしそう…あれ、なんか今私おばさん臭くなかった?え、どうしようもしかして私って自分が思ってるより若くないんじゃあ…!?」

「おいおいやっと気づいたのかよ。おらさっさとエイジングケア始めな。つっても今から始めたって数年後には小じわとシミに悩まされる運命だろうがな」

「やめてええええ!!!確実に人の心抉ってくるとか魔性のドSだよどんな教育されてんのちょっとおおお!!」

「文句ならすべてアホの副長に言ってくだせぇ。ついでに責任もって切腹させまさぁ」

「いやなに勝手に土方さんに責任追わせようとしてんの。苦労するなぁあの副長さんも…。はいカレー」

「どうも。こっちもうめえや。こりゃあの親父さん本格的に甘味屋から足洗って定食屋でも開いた方が儲かるぜ」

「あはは、確かに。でもそうなったら私クビになるし困っちゃうわ」

「行く宛ねえんならしばらく面倒見てやっても良いですぜ。土方抹殺の片棒を担いでくれんならな」

「誰がやるかバーカ」

「あいてっ」



2017.1.30
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