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「ではスーさん、お願いします」

「…ん」


真剣な面持ちで包丁を握るスーさんにごくりと息を飲む。
まな板の上にはさっきまでいきの良かった魚が恨めしそうにこっちを見ていた。
思わずそっと包丁を鰓の後ろに添えたスーさんの背中に隠れたが肉を刺す音と骨の砕ける音に悲鳴が出てしまった。


「おおお…おおう…辛い…」

「…もうだいじょぶだべ」

「ありがとうスーさん…何度やってもこれだけは慣れそうにないわ…」

「ん。このまま鯖ぐない」

「お願いしまーす…」


何を隠そう私は生きた魚をさばくのが大の苦手だ。
死んでしまっているのはどうしようもないので覚悟を決められるんだけどまだ生きてるやつの眼を見てしまうとどうしてもさばけない…。
必死に死にたいくないと訴えかけるようなあの目を見たらもう…!!
そんなわけで新鮮なお魚が手に入った時は専らスーさんにお任せしている。
だってスーさん起用でお刺身もあっという間にさばけちゃうしね。
出来立ての刺身を摘み食いすると「行儀わり」と怒られたけど味は最高だ。油が乗ってプリプリだ。


「なんだべそれ」

「サディクさんたちに貰った新鮮なお魚だよ〜ノルさん」

「またスヴェーリエがさばいてんのけ?」

「んだな」

「どれ、俺もやってみんべか」

「え、ノルさん魚さばけるの!?」

「俺に出来ねえ事さね」

「おお…なんかかっこいい…」


発泡スチロールから手ごろな魚を取り出したノルさんが包丁を握る……


「ってちょっと待って待って待って!!握り方がおかしい!!なんでそんな殺人鬼みたいな持ち方なの!!」

「こうでねえの?」

「違う!!」

「切れりゃ持ち方なんてどうでも良んだべ」


ベしゃっ。ものすごく嫌な音が耳に響いた。
ノルさんの持った包丁の先がそのまま魚の胴体に降り下ろされた。
さっきまで元気だった魚は痛みに悶えるように激しくビクビクと尻尾や動かして……これアカンやつや…。


「名前、こいつまだ生きてんベ?」

「ぎゃああ!!分かった!分かったから見せなくて良い!!って言うかなんでそんなとこから切るのぉおお!?早く一思いにやってあげて!!」

「んならおめ、どこさ切れば良いか教えてけろ」

「え、鰓の裏辺りを…」

「鰓ってどこだべ?ん?指差してみろ名前?」

「ちょっとノルさんんんん!?楽しんでるでしょ!?さばけるんじゃなかったの!?」

「いつもさばく係はあんこで俺は食う係かかりだべ」

「うわぁ…」


結局はやってみたかっただけらしいノルさんは包丁をスーさんに返して手を洗いまた何処かへ行ってしまった。
疲れた…魚をさばくだけでもの凄く疲れた…。
どっと疲れている私にスーさんがホットミルクを入れて頭を撫でてくれて本当にスーさんが天使に見えた。
スーさんが天使ならノルさんは悪魔だな。
言ったら酷い目にあわされそうだから絶対に口には出さないけど。



2014.8.13
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