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「世界ユース!?」

「ああ」

「ええーなにそれ!?それに若利君が出るの!?世界ってなに、若利君海外行っちゃうの!?」

「煩いぞ」

「うごっ」


若利君に詰め寄るようにして迫れば彼の大きな掌で顔を掴まれた。あ、アイアンクロー…。


「痛いよ牛若さん」

「その呼び方やめろ」

「えええ…だって世界ユースってなに、若利君ってそんなに強かったの!?」

「何言ってんのぉアンタ。白鳥沢で主将やってるくらいなのよ〜?全国でも三つの指に入るくらい強いんだからね」

「お母さん何でそんなに詳しいの!?」

「幼馴染の事全然知らないアンタの方がビックリよ」

「だって若利君のバレーしてるとこ殆ど見た事ないし…」

「お前が居るとギャーギャー煩くて気が散る」

「ほんとにね〜。この子若利君がバレーの練習で怪我しる度にピーピー泣いてたから」

「思いっきり転んで血まみれになってるのに泣きもしない幼馴染見たらそりゃ泣きたくもなるって…。ふーん…若利君がそんなに強いなんてねぇ…今更だけど学校で苛められたりしてない?若利君態度でかいし上から目線だし我が儘なのにそんなにバレー強かったら友達から距離置かれちゃうでしょ?」

「バレーに友達なんぞ必要ないだろう」

「ほら出たよ!そんなんじゃ世界ユースとやらに行ってもチームに馴染めないよ!?」

「……」

「って聞けよコラ!!」


あからさまに顔を背ける若利君の頬を抓る。ったくこの幼馴染はほんとに…でもチームで上手くやれてるって事は仲間に恵まれてるんだろうな。
それにしても及川君がライバル視するくらいだから強いんだろうとは思ってたけどまさか若利君が全国的にも有名な選手だったとは…。
幼馴染が頑張っているのは嬉しい事なんだけどちょっと複雑だな。試合では及川君にも勝ってほしいし、若利君にも勝ってほしい。ジレンマだなぁ。


「そうだ、今日は夏祭りの日だけどアンタ達行くの?」

「私は友達と行く約束してるよー。若利君は?」

「俺がすすんで祭りに行くと思ったか?」

「だよね〜。小さい頃も嫌々ついて来てくれてたし」

「お前はすぐに迷うから俺が付き添ってやっていただけだ」

「いや迷子になったの若利君だから。待ってって言ってんのに先行っちゃったのアンタだよ」

「…覚えがない」

「都合のいい頭してるなぁ〜」

「浴衣着ていくんでしょ?出しておこうか?」

「あ、はーい。お願いします」


毎年なんだかんだで夏祭りには浴衣着て参加してるんだよね。
望ちゃんには折角彼氏ができたんだから及川誘いなって言われたけど、誘う勇気もないし練習で疲れ切ってるのに誘えるわけもない。
先日家にお邪魔して以降何かと忙しいようで連絡も途絶えちゃってるから少し寂しいな〜なんて思ってるけど、便りがないのは無事な証拠って言うし及川君が元気ならそれで良いや。





「望ちゃ〜ん!!リンゴ飴買おうよ!!」

「って、あんたどんだけ買うつもり!?タコ焼きとイカ焼きも買ったじゃん!!」

「お土産だよ。今幼馴染が帰ってきてるからさ」

「ああー、例の堅物幼馴染…仲良いよね〜。いくら幼馴染だからって他の男と仲良すぎると及川が妬くよ?」

「あ、及川君は私の幼馴染の事知ってるから。ライバル関係だったみたいでね〜ほんとびっくり」

「うわなにその少女漫画みたいな展開…」

「実際胸キュンどころか笑えないし修羅場でしかないんだけどね」

「そりゃそうだわ」


大きなリンゴ飴と小さなリンゴ飴を一つずつ買った。大きい方は若利君の分で小さい方は私の分だ。
若利君は口も大きいからこれくらいペロッと食べちゃうだろうしね。
人ごみをかき分けながら望ちゃんの待っている場所へ戻ろうとするもなかなか前に進めず苦戦する。
今日は特別人が多いなぁ…浴衣着てくるんじゃなかった…。


「あれ、苗字さん…?」

「えっ……あ、笹沼君…!!」

「やっぱり苗字さんだ。浴衣着てるから一瞬分かんなかったわ」

「久しぶりだね〜。卒業式以来?」

「高1ん時同窓会みたいなのやったじゃん。あれ以来かな」

「そっか。それにしたって久しぶりだもんね。ほんと偶然」


呼び止められるように呼ばれた名前に人ごみの外へ視線を向ければ中学の時のクラスメイトがタコ焼きを片手に立っていた。
懐かしい顔に来た道を戻って彼の元へ駆け寄れば少し成長したものの、相変わらず爽やかな笑顔を向けてくれた。


「すっごく背ぇ伸びたね笹沼君。昔は私とあんまり変わらないくらいだったのに」

「流石にあのままじゃな〜。俺バスケ部だしタッパないと辛いから」

「でも小さくても活躍してたじゃん。今もバスケ続けてるの?」

「ああ。けっこう強いチームでさぁ。インハイはダメだったけど冬の大会は良いところまで行けそうなんだよ」

「すごいなぁ〜。頑張ってね、陰ながら応援してるよ」

「苗字さんに応援されるとすっげえやる気出るな。てか今日一人で来てんの?」

「浴衣着て一人で来るなんて勇気ありませんよ…」

「ははは、そりゃそうか。もしかして彼氏と?」

「友達とだよ。あ、そろそろ戻らないと…友達待たせちゃってるから」

「俺も行かないとだ。最後にちょっと聞いていい?」

「何を?」

「苗字さんってさ、彼氏できた?」

「えっ…そ、それは…う、うん…一応…」

「…へぇ〜…なんか可愛くなったなぁと思ってさ」

「は!?な、何言ってんの笹沼さん!?きみそういうキャラだっけ?!」

「だってほんとにそう思ったし。浴衣だと人ごみ歩きにくいよな?友達んとこまで送ってくよ。どの辺?」

「ええええ、大丈夫だからほんと!!これくらい突っ切るから!!」

「そのわりにさっき悪戦苦闘してたじゃん。ほら行こう」

「あ、」


強引に笹沼君に手を引かれ人ごみの中へと入る。
急な展開になにがなんだか頭が追い付かないまま望ちゃんが待つ待ち合わせ場所の近くまで送ってもらった。
昔から爽やかで優しくて女の子からも人気がある子だったけど紳士すぎるぞ…。確かにあの人ごみは厄介だったからちょっと助かったけどね。
しばらく待たせてしまった望ちゃんにかき氷を奢らされつつもお祭りを堪能ししっかり打ち上げ花火も見物して岐路に着いた。
驚くことに駅に着くと若利君が仁王立ちで待ち構えていて、ロードワークでたまたま寄っただけだとかなんとか言ってたけど私を迎えにきてくれたのが見え見えだったので買ってきたタコ焼きやらを渡せば歩きながら全部食べつくしてしまった。
男子高校生の胃袋恐るべし。


2015.3.9



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