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「ただいまー…ってあれ、若利君?帰ってたの?」

「あぁ」

「晩御飯食べてく?」

「ああ、そのつもりで来た」

「はいはい。今日おばさん居ないの?洗濯物あるなら洗っとこうか?」

「ああ、頼む」

「適当に出すからねー」


家に帰るとリビングで腹筋をしている巨体が居た。言わずもがな我が幼馴染の牛島若利君である。
なんで我が家で腹筋しているかは敢えて聞かないでおこう。小さい頃からお互いの家を行き来しているから勝手知る仲だ。
重そうなエナメルバッグからTシャツやらタオルやらを引っ張り出し洗濯機に放り込む。
今日はお父さんもお母さんも帰りが遅いしお兄ちゃんと適当に夕飯すませちゃおうと思ってたんだけどな…タイミング悪いぞ、若利君。


「えーっと、ひき肉と玉葱とピーマンと…若利君〜、ハンバーグとピーマンの肉詰めどっちが良い?」

「…ハンバーグ」

「ハンバーグね。チーズ入れる?」

「ああ」


相変わらず口数の少ないやつだ。なんか会話の少なくなった熟年夫婦にでもなった気分だよ…。
そんなじゃ女の子にモテないぞー若利君。私が言えたもんじゃないけど。
あ…そういえばまだ若利君に彼氏ができたってこと言ってなかったな…。まぁわざわざ言う事でもないんだけどさ。
どうせ二人が顔を合わせる機会なんてないだろうし。


「…名前、こっちに来い」

「えー、今ひき肉捏ねてるから無理〜」

「そのままでいい」

「人使い荒いなーもう」


ひき肉の入ったボウルを抱えたままリビングに行けばうつ伏せになっている若利君が私をじっと見上げる。
ああ、なるほど。腕立て伏せね。
しょうがないなぁと渋々彼の背中に跨る。


「…お前、重くなったか?」

「うっせぇーー!!ほら腕立て100回!!いーち!」

「む…」

「にーい!ほらもっと早くー!」

「頭にボウルを乗せるな。邪魔だ」

「お黙りっ!はい、さーん!」


幼いころから繰り返し行われてきた若利流腕立てフォーメーション。私を背中に乗せて腕立てをするのがちょうどいいらしく小さい頃からいつも背中に乗せられていた。
昔は一回持ち上げるのにも一苦労だったのに今は物ともせずにスイスイこなしてしまうんだから男の子の成長ってすごいなぁ。
筋肉ムッキムキだもんね。前お風呂上りに半裸姿見たらお腹とか割れててすごかったし。バレー部って筋肉つくんだなぁ。
…及川君も腹筋割れてるのかな…。って私の破廉恥野郎ーー!!!何考えてんのーー!!!


「どうかしたか?」

「なんでもないやい!」

「?本当にお前はにわけが分からんな」

「うっさ……あ、携帯鳴ってる…若利君ちょっとストップね」

「早くしろよ」


ほんと偉そうだなぁおい。
テーブルの上に置いていたスマホを慌てて手に取り画面も確認せず通話ボタンを押した。


「もしもーし」

『…やっほ〜苗字さん。今電話しても大丈夫?』

「おっいかわくっ…!?えっ、どうかしたの?」

『別にどうもしないけどさ…今部活が終わってね〜。なーんか苗字さんの声聞きたいなぁって思って電話してみただけなんだけど』

「そ、そっか…」


電話越しに聞こえてくる及川君の声に心臓がドキドキと飛び跳ねる。
たまにラインとかはしてたけど電話は初めてだもんね…。
声を聞きたかったからって…びっくりしたけどなんか嬉しいような恥ずかしいような…。


『苗字さんは今何してたの?』

「晩御飯のハンバーグ捏ねてたところだよ。チーズ入りのやつ」

『うわっなにそれ美味しそう!いいなぁ〜、きっと俺んち今日は昨日の残りのカレーだよ…』

「一晩置いたカレーって美味しいから羨ましいよ。私温玉乗せて食べるのが好きだなぁ」

『…温玉乗せカレーかぁ…』

「どうかした?」

『ううん、ちょっと嫌いな奴の事思い出しちゃっただけ』

「そうなの?」

「名前、何をしてるんだ」

「っぎゃあ!!ちょっ、携帯取り上げないで」

『え…苗字さん…!?』

「さっさと上に跨れ。切るぞ」

「ちょっ…!!」


突然後ろから携帯を取り上げられかと思えばまだ話の途中なのに電源を落とされてしまった。


「なにしてんの若利さん!?」

「俺の筋トレを中断しておいて無駄話とはいい度胸だな、名前」

「横暴だなおい!あーもう…後で謝っておこうっと…」

「早く乗れ」

「はいはい…」


渋々スマホを机に置いて再び若利君の背中に乗る。
腕立てが終われば次は背筋だとか言う若利君を無視して晩御飯の準備に戻った。
これじゃいつまでたっても晩御飯が食べられないじゃないか。
サラダやスープも作りつつ時計を見ればもう良い時間だ。そういえばお兄ちゃん遅いなぁ…まぁ先に食べててもいいよね。
そう思った矢先、外から何やら喚くような大声が聞こえてくる。


「え…な、なんだろう…誰かが家の前で騒いでる…」

「…少し見てくるからお前はそこに居ろ」

「危ないからダメ!変な人が居たらどうすんの!私が行ってくるから若利君は大人しくしてなさい!」

「お前が行った方が危ないだろうが」

「じゃあ二人で見に行こう。そーっと玄関の隙間から覗いてみよう」

「ああ、そうだな」


そろそろと二人で玄関へ行きそっとドアを開く。
暗くてよく見えないけど……って、あれ?お兄ちゃん!?誰かと取っ組み合ってるし!!


「ちょっ、何してんの!?」

「おお名前、警察呼べ警察。不審者捕まえたから突き出してやるわ」

「だから不審者じゃないって、あだだだだ!!なにこれめちゃくちゃ痛いっ!!」

「…えっ……及川君!?」

「あ…苗字さんっ!!大丈夫!?不審者に変なことされてない!?」

「不審者はテメーだろうが!!」

「違うってば!!俺は苗字さんの事が心配でっ…!!っていうかお前こそ苗字ちゃんの何なの!?」

「あ?」

「あだだだだっ!!」

「やめてよお兄ちゃん!!及川君は、わっ私の彼氏だから!!」

「…え?おにいちゃん!?」

「彼氏ぃい!?」

「誰かと思えば…及川か?」

「はっ……?なんで牛若ちゃんが居んの!?」

「え!?ええええ!?」


な、何がどうなってんのこの状況ーー!!



2015.1.27



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