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「ほんっとうにごめんなさい…!!」

「いや、いいって…。怪我もなかったしね」

「で、でも部活の大事な時期にこんな…!!直接的な怪我はなくてもどこか捻ったとか打撲したとかないの!?本当に!?」

「ちょっ、ちかっ…!お、お願いストップストップ!!」

「苗字さーん、さっきから何度も大丈夫だって言ってるでしょ?先生隅々までしっかり及川君の体診ましたからね」

「先生その言い方やめて!!」

「なぁに恥ずかしがってんのよ〜〜このエロ坊主」

「ちょっ、やめてってば!!」


保健室の黒い丸椅子に座る及川君に詰め寄るも保健室の先生に止められる。
どうやら本当にどこにも怪我はないらしく、その安心から一気に力が抜けて近くにあった壁に寄り掛かった。
良かった…本当に良かった…もし私のせいで大怪我になっていたら、及川君は……そう思うと今までずっと我慢していた涙が一気に溢れてきた。


「……え…?…えええっ!?ちょっ、どどど、どうしたの!?」

「ぐっ、ご、ごべんおいがわぐんっ」

「あーあー泣かせた…」

「俺!?俺が泣かせたの!?」

「先生今から職員会議があるから席外すわね。あんまり長居するんじゃないよ」

「先生!?え、ちょっ、えええ!?」


涙が滲みゆらゆらと視界が揺れる。
慌てた様子の及川君があたふたと動き回っているのが見えて、及川君はなにも悪くないのにとまた悲しくなってとうとう涙が零れ落ちた。


「と、とりあえずここ座って……」

「ごめんんん」

「あーもう分かったから!許す!別に苗字さんが悪い事なんて何もないけど全てを許すからもう泣かなくていいよ!」

「でも私、もう少しで及川君の人生めちゃくちゃにしそうになった…」

「えっ、そこまで気負ってんの!?ほんとあれくらい大したことないから!!確かにタックルされたのはびっくりして倒れちゃったけどさ…あの時は俺も疲れてフラフラだったし…。だけど苗字さんにタックルされた程度で怪我するほど柔じゃないよ、俺」

「……ほんとに?ほんとに大丈夫?」

「だ、大丈夫!ほんとに!ほらこの通りだよ!」


腕をぶんぶん回してどこも痛くないアピールをしている及川君に肩の力が抜ける。
子供みたいに泣いてしまった事が恥ずかしくてごしごしと目を擦ると「擦っちゃダメじゃん、腫れちゃうよ」と手を掴まれた。
初めて触れられた手に驚いて及川君を見上げれば不思議そうな顔を浮かべ、ハッとしたように腕を掴んだ手を離した。


「……あ。ごめん」

「う、ううん…こっちこそ…」


カーッと顔に熱が溜まるのを感じて思わず下を向く。
むぉおお、泣くとこ見られるし顔は赤くなるし恥ずかしい所ばっか見られちゃたなぁもう…!
ほんと及川君に迷惑かけっぱなしじゃん私…。


「あ、あのね及川君……昨日の事なんだけど…」

「え…」

「昨日はあんな態度とって本当にごめんなさい…折角誘ってくれたのに…」

「あ、あぁ…別にいいんだよ、嫌なら無理にとは言わないし…」

「ちがっ、あ…えっと…ほんとはね、前から見に行きたいと思ってたんだ…だけど素直になれなくて、あんな態度取っちゃって…。あ!こ、これ!こんなんじゃお詫びにもならないかもしれないけど、クッキー作って来た、んだけど…!」

「…俺に?」

「うん。ほんとにごめんね。それと、及川君さえ良ければ今度練習見に行ってもいい、ですか…」


恥ずかしさと緊張で最後の方は尻すぼみな話し方になってしまった…。
少し待ってみても及川君から返事は来ず、もしかして聞こえなかったのかなと顔を上げる。
あ、及川君の顔真っ…――


「わっ!?え!?なに!?」

「す、ストップ!今顔上げるの禁止!!」

「へ!?え!?お、及川君離して!」

「…この間頭撫でていいって言ったじゃん」

「撫でてるの!?照れ隠しに押さえつけてるようにしか感じないんだけど!?」

「う、うるさーーい!!苗字さんのバカ!!」

「えええ…」

「ほんと馬鹿だよね苗字さん。変なとこ気に病んじゃっさ。もしかしてこの事が気がかりで夜眠れなくて遅刻したとか?」

「いや、それは今朝理不尽な幼馴染に振り回されたせいで…」

「幼馴染ねぇ……男?」

「一応男の子だけど…」

「っふーーん!!これ貰って良いんだよね!?返してって言っても返してやんないけど!!全部俺一人で食べてやる!!」

「及川君…意外と子供っぽいよねぇ……」

「うっさい!!」

「くーそーかーわー!!やっぱりここに居やがったか!!主将が部活遅刻してんじゃねえぞクソが!!」

「わっ、岩ちゃん!?ってもうこんな時間!?早く行かなきゃ溝口君に怒られる!!」

「もう怒ってるっつーの!!…ん、なんだその手に持ってんの」

「へへーん!これはね、苗字さん手作りのクッキーだよ!羨ましいでしょ岩ちゃん!」

「へー、部活終わったら俺にもわけろよ」

「あげるわけないじゃん!俺の為に苗字さんが夜鍋して作ってくれたんだからさ!」

「べつに夜鍋はしてないけど……。あ、残りもので良ければ沢山あるんだけど良かったら貰ってくれないかな…?お昼に友達と食べようと思ってたんだけど宿題してたから食べ損ねちゃって…」

「お、いいのか?」

「ちょっ、岩ちゃっ…!」

「こんなので良ければどうぞ。あ、できれば松川君や国見君にも…日ごろお世話になってるから」

「あいつら大喜びして食うだろな。特に国見は甘いもん好きみたいだし」

「そうなんだ。あ…ちょっと失敗しちゃって堅くなっちゃったから…口に合わなかったらごめんね」

「俺はかてーの好きだからいい」

「そっか、よかった〜」

「ちょーーっと!!なに盛り上がってんの!?苗字さんは俺の彼女だよ岩ちゃん!勝手に仲良くならないで!!っていうかクッキーもダメ!!俺だけのだよ!!」

「苗字、この心の狭いクソ野郎に変なことされたらすぐに俺に言えよ」

「え?あ、うん…岩泉君って頼れる兄貴って感じだね」

「いつも嫌々こんなの世話してっからな」

「もぉおお!ほら部活行くよ岩ちゃん!!苗字さんまたね!!」

「あ…うん、またね…」

「引っ張んじゃねえ!」

「あだっ!!」



2015.1.17



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