なぞのかみ
 ソファでだらけていたアルハイゼンさんが、ふと何かを見つけたのか背もたれの裏の方に視線を送っていた。その様子をぼんやり眺めていると、立ち上がった彼は回り込んでかがみ込んでしまった。なんだなんだ。
「どうしたんですか?」
「何か落ちている。紙切れか?」
 一枚の紙切れを拾い上げた彼は、わたしに手渡してくる。二人で覗き込んでみたけれど、そこには意味のわからない図形が描かれていた。
「何かの暗号かな?」
「いや、どうだろうな。暗号にしては乱雑すぎる。これに覚えは?」
「うーん、ないですねぇ」
 自分の家から出てきたものだけど、こんな図形は見た覚えがまるでない。謎の紙を眺めていると、どうやらアルハイゼンさんは拾った場所の近くで更にもう一枚の紙切れを見つけた。それには同じような謎の図形がある。
「これも?」
「どうしよう、覚えがない……謎の紙がどうしてわたしの家に……?」
 ソファに戻ってきたアルハイゼンさんが、わたしの手から紙切れを抜き取りもう一度じっくり眺める。その様を見ていてふと気付く、図形には覚えがないけれどこの紙切れをわたしはどこかで見ているかもしれない。しかも、つい最近。
「……あっ」
「何か思い出したか?」
「ええとお……カーヴェくんって、酔った時に沢山らくがきしません……?」
「……理解した。待て、あいつをいつ家に入れた?」
「お、おととい……ちょっと……用事があり……」
 じっとりとした視線を感じ、わたしが咄嗟に顔を逸らせば両手で頬を包まれ向きを戻されてしまった。どうしよう、アルハイゼンさんの眉間の皺が! いやそれよりもわたしの頬が!
「いたたたた」
「そろそろ俺も許せなくなってくるんだが?」
「ご、ごめんなさい〜!」
 包まれていたはずの頬はいつのまにか摘み上げられ、そのまま左右に引っ張られてしまった。いたい!
 いつの間にカーヴェくんはこんな散らかしていたんだか。仕事が立て込んでいて掃除を怠ったわたしも悪いけれど、彼のらくがき癖は困ったものだ。
「次はないと思うことだな」
「はい……」
PREVTOPNEXT