さみしくないよる
 早鐘を打ち続けるこの心臓の音が、彼にしっかり聞こえてしまうんじゃないかってくらい、わたしたちは密着していた。抱きしめ合うことは何度もしているけれど、その状態を維持したまま横になるというのは、ただ抱きしめてもらうよりもずっと距離が近く感じてなんだかドキドキしてしまう。
 今夜はついに、初めてアルハイゼンさんを我が家に引き留めて泊らせてしまった。わたしのわがままで。
 
「狭くてごめんなさい……」
「問題ない。君が落ちないかは心配だが……」
 そう言いながら、更にしっかりと抱き寄せられてしまった。心臓の音が、すごいぞ! 
「んふふ」
「どうした?」
「照れくさすぎて、逆に楽しくなってきました」
「そうか」
 一周回って変な笑い声を上げてしまう。彼は少し不思議そうにしながらも、抱きしめたままわたしの頭をゆるゆると撫でてきた。うわあ、なんか、恋人らしいことをしすぎているぞ。未だに慣れていないからやっぱり恥ずかしいけれど、せっかくなら今夜くらいこの雰囲気に乗っかってしまおうかな。
 彼の胸元に擦り寄ってみれば、頭上から少し動揺したような咳払いが聞こえた。
「急に、」
「はい?」
「急に甘えられると、男としては非常に困る」
「だ、だめでした?」
「いや……」
 言い淀むアルハイゼンさんがだめとは言っていないのだから、わたしは遠慮なく甘えることにした。好きな人と触れ合うことによる幸福感を、最近はより一層感じることができている。困っちゃったなあ、わたしこんなに彼のこと好きになってるんだ。
 
 今夜こうして彼を我が家に止めた理由は、単純に帰ってほしくなかったからだ。ここ最近は我慢ができなくなっていて、自分がどんどん彼に対して欲張りになっている自覚があった。そして今日はとうとう口に出してしまったのだ、帰らないで欲しい、まだ一緒にいて欲しいと。そんなわがままをそのまま告げると、彼は一瞬驚いた顔をしてからすぐに快諾してくれた。優しいんだか、甘いんだか。

 ひとの体温のあたたかさに、一気に眠気が襲ってくる。せっかくこうしてお泊まりしてもらったのに、すぐに寝ちゃうなんてもったいない気がするんだけどな。うとうとしていると、わたしの様子が面白かったのか、彼は小さく笑った。
「眠いなら眠るといい」
「んや……」
「……むしろ眠ってくれた方が俺は助かるんだが」
「む……」
 助かるとは一体、とぼんやりした頭で考えてすぐに意味を理解した。そういえば、そうかも。アルハイゼンさんにまた我慢させちゃってるな……?
「なにしてもいいのに」
「眠そうな君に手を出すつもりはない」
「してほしいのに〜」
「……なら、これだけ」
 そういって唇を奪われてしまう。彼は意外とキスをするのが好きらしい。というよりは、わたしのいろんな部分に唇で触れてくることが多いのだ。それが時々噛むことに発展することもあるから、彼のいつもの衝動なんだろうけど、それだけわたしは愛されているらしい。
 これだけと言いながら顔中たくさん口付けされ、満足した彼は最後におでこにキスをしてからまたわたしを抱きかかえた。しあわせすぎて怖くなってきちゃった!
PREVTOPNEXT