あなたへ、想いの花束を



「今日はやけに静かだな…」

ヴェルスはひとり、城内を歩いていた。
いつもなら誰かしらが園庭や廊下にいるはずなのに、今日は見張りの兵士が何人かしかいない。

「…」

ぼんやりと空を見上げる。
快晴だ。
最近は刺客に襲われることも減り、随分と心穏やかに過ごせている。景色を見る余裕も出てきた。
…刺客以外にも頭を悩ませることはあるものの…(大臣たちの辛辣な嫌みだったり、陛下の奥方たちの覇権争いだったり、大量の仕事だったり、それは様々だ)、それでも、前までに比べたら可愛いもの。
それに、今のヴェルスには寄り添ってくれる相手がいる。それだけで心強かった。

「…どこにいる、かな」

少し考えただけで、会いたい、とそう思ってしまう、そんな相手。心休まる拠り所と、心乱される拠り所。ヴェルスにはふたつの精神的支柱がある。

「兄上!」

きょろきょろと辺りを見回していると、凛とした澄んだ声が聞こえてきた。探していた人物ではないものの、声をかけてきたのは…

「フェル」
「ふふ…兄上に会えるなんて、今日はついてるなぁ。…お一人でどうされたんですか?散歩ですか?」

フェルはヴェルスの弟であり、第2王子。まさに「王子様」といった風貌で、光を反射する金髪が眩しい。それに負けないくらいきらきらした笑顔を向けられ、ヴェルスもつられて微かに笑みをこぼす。

「ああ、天気がいいからな。ぶらぶらと歩いていたところだ」
「そうでしたか」
「…あ、そうだ。フェル、聞きたいことがあるんだが」
「なんでしょうか」
「ライリィかエダを見なかったか?」
「ライリィかエダ?そういえば…向こうの部屋で見ましたね」
「!そうか。どこだ?」
「ご案内しますねっ」

フェルは、ぐいっとヴェルスの腕を引きながら、早足で歩き始めた。

「あ、いや、そんなに急がなくても、」
「こっちですよ!」

心なしかうきうきとした様子で、フェルはタッタと歩く。疑問に思いながらもついていくと、応接間の前にたどりついた。

「?こんなところに?」
「兄上!さぁ、どうぞ!」
「わ、おい、押さなくても…、」
「ヴェルス様!」「ヴェルス!」
「「お誕生日おめでとう!!」」

ぱぁん、という破裂音と共に、きらきらとしたものが舞う。突然のことで、ヴェルスは固まってしまった。しかし、両側から抱きすくめられ、すぐさま我に返ることができた。

「な、なん、」
「えへへ、おめでとうございますー」

右側から抱きついているのはライリィ。可愛らしい容姿の、ヴェルスの護衛。バケモノと恐れられているとは思えないほど顔を緩ませ、ぎゅっと抱きついている。

「めでたい日だよなー」

左側から抱きついているのはエダ。ヴェルスにしか見せない笑みで、こちらも力強くぎゅっと抱きついている。

「ど、どうしたんだ、これ」

目の前に広がるのは、美味しそうなステーキ肉、色とりどりのフルーツ、机の真ん中には、大きなケーキが鎮座している。
装飾も手作りのものがそこかしこに飾られていた。

「庶民的な感じにしてみたぜー。なんていったって王子様は、こんな風にざっくばらんに祝うなんてことなかっただろ。だから、今回は色々力を入れたぜ!フェル王子にも手伝ってもらった」
「そうだったのか」
「僕は何も…エルヴェに手伝ってもらって、その伝で商人の方々に動いてもらっただけですから」

にこ、と柔らかく微笑まれ、暖かい気持ちになる。出来た弟だ。

「さぁ!パーティーを始めましょっ!」

その日、ヴェルスは初めて心許せる人たちと、言葉を交わし、祝われ、穏やかな誕生日を過ごすことができた。
今まで散々邪魔をしてきた刺客も、この日ばかりは現れることはなかった。
…無論それは、ライリィやエダ、フェルの裏での画策が功を奏したからなのだが…そこはまた、別のお話。




おまけ

「…」
「楽しかったか?」
「楽しかった。すごく。…ありがとな」
「どういたしまして。そういや、ライリィとフェルから誕生日プレゼントもらってたよな?」
「ああ。時計と、茶葉。どちらも高価で稀少なものだ…もらうとき躊躇った」
「はは、もらっとけもらっとけ」
「そうだな。二人の気持ちだし…」
「俺もある」
「え」
「当たり前だろ。ほら、」
「…?…あ、オルゴールか?」
「お前は不眠症気味だから、眠れるように。これ、精霊の力が働いてるからさ、ほんとに眠りやすい」
「ありがとう…嬉しいよ」
「おっと、まだ開けるなよ」
「?」
「…そっと二人だけで抜けようぜ」
「え、あ…」
「本当は、ヴェルスのこと、俺だけで祝ってやりたかった」
「い、いや、その、」
「……俺の手を、とって」
「…っ」
「ほら」
「…」
「生まれてきてくれて、ありがとう」
「…」

こくん、と頷いて、ヴェルスはエダの手をとった。





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