07



大切な人を失っても、立ち止まることが許されない。そんな現実と対峙する。ジェイドが別件で軍を抜けているため、リヴはその代用を引き受けて職務に没頭していた。哀しむ暇すらない、今の現状にある種救われるものがあった。もしも立ち止まる時間があるならば思い出してしまうのだから。

失った想い人を



グランコクマの執務室。

積み上がる書類の山は左から右へ流暢に進んでいく。右の山が勝り高く積み重なっていく頃、やや乱雑なノック音が室内に響いた。黙々と進めていた手を止め「どうぞ」と口にする間もなく、扉は勝手に開かれる。

「よー、リヴ捗ってるか?」

勢い良く入ってきた人物に面喰らうもののリヴは冷静に返答してみる。

「捗っています。陛下がいらっしゃる前までは、ですけどね」
「そりゃ結構!」

皮肉流された?

ニッと笑うピオニーに若干戸惑ってしまう。調子を崩すのが上手な人だ。くすくすと笑い混じり、彼と瞳を交わす。

「何か用事?ピオニー」
「いーや」
「おさぼり?」
「そんなとこだ」

ふんぞりと偉そうに言ってのける彼はすんなりサボりであることを肯定した。

ため息に乗せて彼に紅茶を薦めてみる。宜しく、と返ってきたのでその準備に取り掛かった。カチャカチャと陶器のぶつかる音が響く。シンとした空気に違和感を思い、ちらりと振り返るとそこには考え倦むピオニーの横顔。彼はリヴが振り返っていることに気付いていない。

「ピオニー?」

声を掛ければ一瞬小さく体が反応し視線を交わす彼から"どうした?"と逆に問われてしまった。

「心此処に在らず、だね」

ふわりとベルガモットの香りが舞う。紅茶の入ったカップをソーサーに乗せ、ピオニーに手渡した。

「お前もな」
「私も?」
「ああ」
「そうだね…」

きっと頭をよぎるのは同じこと。偲ぶ人物は互いに一致していた。幼少時を共に過ごした者同士の弔いは何を口にすることもなく、時をひたすらに流していく。

「あのねピオニー」
「うん?」
「私軍を抜けようと思ってるの」

ピオニーは予めその希望がリヴから向けられる事を予測していた。覚悟在ってか、特に動じることもなく受け入れる。

「判った。一つ訊いていいか?」
「うん」


お前はこれから

ジェイドを憎むのか?





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