視線は墓碑に刻まれた名をなぞる。その空虚な石の下に、当の本人は不在で、それを思うと自然と溜め息は外気に触れた。ハニーブラウンが穏やかに凪ぎ揺らめく。 手にもつ花束は、弔いの証。それを手向けた時、相手が告げた言葉がふと蘇る。 貴女と生きたかった サフィールの視界から色が消える直前に、その瞼に焼きついた彼女の姿と呟かれた言葉。 「なら何故そうしなかった?サフィール…」 弔いをふわりと置けば、花弁が散った。それが地に降り落ちる前に背を向けた彼の頬に、生ぬるい一筋が伝い、それもまた同じく散った。 もうリヴを泣かせないで下さい 「ええ」 約束します… 「じぇーど!」 振り向けば満開の笑みで駆けてくる幼子に目が細まり、口角が上がる。"彼"によく似たその子を慈しむ様に抱き上げたなら、遅れて現れた彼女のもとにゆっくりと歩を進めた。 いつだって 貴女の隣にいましょう… E N D [←prev]|[next→#]|story top |