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不意に音を立てて閉まる音に忠実に反応する。どうやら身体はあくまで正常らしい。デジャブ、などではないだろう今しがた通り過ぎた不穏な予想が動悸に変わる。

「…駄目。ジェイドお願い、帰って」

彼の手から逃れる。落ちるように離れた彼女のか細い声が響いた。

「リヴ」

リヴが拒むならば無理強いはしない、ネフリーに告げた言葉が意図も簡単に偽りとなろうとしていた。しかしなんと言うべきか。彼にしてみれば随分珍しい、そうした一般的な見解を巡るまでの時間が少し長めだったことは違いない。

その間は彼女にとっては苦痛にすら感じるもの。うつ向き垂れた視軸は前を向きさえしない。彼女の震えた肩が彼に伝える。噛み締めた唇と

留めようとする想い。

「ディスト…サフィールが貴女に遺した想いを」

"彼"の名だけが鮮明に吹き抜けていくのをリヴは感じる。

「…今聞けますか?」

受け入れれる状態かどうかをジェイドは冷静に訊ねる。それすら拒絶されるなら、引いた方がいいのだろう。彼らしくない、諦めに近い問いだった。仮にもサフィールをリヴの元に帰せなくした本人だ。勿論今ある自分の立場、境遇はリヴにとって辛辣だとわかっている。

うつ向いた彼女には何の気配もなく、悟ったジェイドが踵を返そうとした時。

「ごめん。ジェイド…」
「貴女が謝ることはないでしょう?」
「違うの」

貴女を拒むのは…
仇だからじゃないの

言わないまま、胸の中で響く声があった。

「聞くから、ちゃんと受け入れるから…話して」

泳ぐような瞳が語るのは今も昔も、もしかしたら同じなのかもしれない。気づいてはいけない。あの感情が、今になって痛い。


10/1/6up

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