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喧騒を潜り、辿り着いた静境。
来るべき刻に備えるかのように、その空間は重々しくも清らかにシンと静寂を保っていた。

彼は独りで其処にいた。

挙式会場の参列席に腰を下ろして神前を斜めから見据える。彼の嘲笑し浮かべた苦衷が、荘厳であり清純としたチャペルとに懸隔を生んだ。寧ろ浮き彫りになっているのは彼自身だ。蒼い軍服の見馴れている彼が纏う濡れた黒は、より一層謎めいて魅せている。

何をするわけでもなく、ただ其処に佇むのみ。

狭まる、未来との距離の速さに嫌悪感を抱いた。それが酷く心地が悪い。彼は思った。噛み砕いて言えば、後悔。行き場のない感情の堂々巡り。今更変わることは何もない、変える必要もない。と、冷静に鋭く物事を見透してみてもわだかまりは消えない。

向けていた神前から目を反らして思考回路さえ遮断してしまう。どうしようもないことに蓋をする行動に幼稚さが垣間見えて苦笑した。


自らの脆さを、初めて知る。




―…そろそろ戻らなくては


ルークたちも流石に到着している頃だろうと立ち上がる。憑かれたように重い体に倦怠感を覚えながら。扉に向かう足を止め、今一度振り返り神前を見つめた。


―…おめでとう、なんて言いませんからね


頑な意志は諦めに近いのに、今もなお決別することにこんなにも後ろ髪をひく。そして律儀にバージンロードを避けて歩く自身が滑稽で、その中にある細やかな抵抗をみた。中心の路に足を運び、深く踏み貫いた。


貴女が歩く此処の先に

「私が待っていればよかったのですがね」


貴女を待つのは彼でなく、気のおけない唯一無二の親友、そして一国の王。だから余計に皮肉なものだ。ぽつりと落ちた言葉を汲む者はなく、虚しく宙を舞って消えた。

バージンロードに踏み込んだ彼の足は扉ではなく神の御前に運ばれる。神前を仰ぎ、何かを言い欠けて…止めた。何もかもが既に遅い。何もかもが無意味だ。

そう思った。


その時
チャペルの扉がゆっくりと開かれて。留まったままの空間がゆらりと、動き出した。


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