松夢 | ナノ
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非常識な時間に鳴り響くインターフォンに、うとうとしていた私の脳がはっと反応する。女の子の一人暮らしということで、画面付きインターフォン完備の部屋を選んだことは正解だったみたいだ。こんな夜遅くにしつこくベルを鳴らす相手を、ドア一枚越しになんて覗きたくない。怖すぎる。
一体誰だろうと恐る恐る画面を覗き込むと、そこにいたのはお馴染みの赤いパーカーの男だった。なぁんだおそ松か。見知った顔に安心して、“開けてよ”と言われるがままに開錠ボタンを押してしまった。けど、よくよく考えるとこれって不味いんじゃない?いくら鼻垂れ小学生の頃からの知り合いとはいえ相手は男だし、おそ松だし。全く危険がないわけじゃない、間違えたかも。そう思った時には既におそ松は上に移動してきていて、2回目のインターフォンの音が部屋に鳴り響いていた。

『うわお酒くっさい。おそ松、こんな時間にどうしたの?』
「なぁに言ってるのさぁ、名前ちゃんは。ボクだよ、ボク」
『え、トド松』
「おじゃましまぁぁぁす」

赤いパーカーを着ているからてっきりおそ松だと思ったら、彼氏のトド松だった。なーんだ、びっくりした。よく考えたらおそ松にうちの場所教えてないし、何かと思っちゃったよ。とはいえ、こんな真夜中にトド松がくるのも初めてだけど。
大声で挨拶をしながら、ゾンビのようにふらふらと部屋に上がるトド松は明らかに酔っ払っていた。でもそれならそれで好都合。だって来るなんて知らなかったから部屋も片付いてないし、食べるものも飲むものも用意していない。酔ったトド松のことだからはじめのうちは饒舌になって1人で話し続けるだろうけど、話し疲れたらすぐに寝てしまうはずだ。
しっかりと施錠をし部屋に戻ると案の定、トド松はカーペットの上で大の字になって倒れていた。

「名前ちゃん家のゆか、あったかい」
『いくら温かくてもそんなところで寝てたら風邪ひいちゃうよ?』
「名前ちゃんひどいよね。パーカーの色がかわっただけで、ボクをおそまつにいさんとまちがえるなんてさ」
『ごめんごめん。それより今日はどうしたの、誰と飲んでたの?』
「おそまつにいさんと……カラ、あれチョロまつにいさん?」
『そっか。それじゃ誰も介抱してくれないわけよね。はい、お水』
「お水いらないから、名前ちゃんきて」

どこでこんなに可愛い技を覚えてくるんだろう。床に座りなおしたトド松は、真っ赤に染まった頬と潤んだ瞳で訴えかけ、ばっと広げた腕で私が飛び込んでくるのを待っている。ピンクが常のトド松に、よれよれの赤いパーカーは新鮮だ。

トド松が取った行動も、酔っ払ったトド松がわざわざうちに来てくれたことも正直言ってすごく嬉しい。今もにこにこしながら横に揺れ続けるトド松は、不気味ではあったけど愛嬌があるし。でもその前にお水飲ませないと、後でトド松の介抱をするのは私だ。トド松の胸に飛び込む前に、心を鬼にして水を飲ませるの私の最大の役目だ。屈するな、私!

『だーめ。トド松、お水が先だよ』
「やだ」
『やだ、じゃない』
「ボクは名前ちゃんにあいにきたんだよ」
『だったらこれ先に飲んで』
「そんなにボクに水をのませたいなら名前ちゃんがのませてよ」

名前ちゃんの口移したのしみだなぁ、と今度は口移しで水を飲ませることをせがみ始める。あくまでも無理強いしてこないところがずるい。にこにこ笑いながら要求してくるトド松に思わずコップを手に取りかけたけど、掴み上げる前にはっと気づく。そんなの無茶だ。酔った状態のトド松に、仮に口移しで水を飲ませてもむせるに決まってる。むせたらその水を浴びるのは私だし、なんかいろいろめんどくさいことになるのが目に見えてる。というかむせる以前に、トド松と私の唇が接触した時点で絶対に本来の目的は果たせない。

『トド松、口移しはやめよ』
「やっぱりお酒くさいからいやだよね、ごめんね」
『違う!そんなこと思ってない……』
「名前ちゃんおふろはいったの?」
『え。入った、けど』
「名前ちゃんいいにおいするね」

きゅるんとお花でも出てきそうないい笑顔だ。お酒のにおいさえしてなければ、誰でもイチコロだろう。
ふいにトド松は「さむい」と呟き始めた。よく見ると上機嫌ながらもトド松の体は震えている。こんな季節に、どこからか知らないがパーカー1枚でここまで来たんだから、よく考えれば当たり前だ。何かかけてあげなきゃ。側にあった毛布を取りに立ち上がると今度は服の裾を引かれ、引き止められる。

『なに、トド松どうかした?』
「名前ちゃんもっとこっち」
『どうかしたの、トド松……』

言われるがままにトド松に顔を寄せるとむちゅっと、幼稚園生のするような下手くそなキスで唇が塞がれる。あんまりにも一瞬のことだったから何も反応できなかった。それに離れたあとのトド松があまりにも得意げな顔をしているから……なに、なんなのこの天使みたいな酔っ払い。私は一体どうしたらいいの。

「へへっ、ボク名前ちゃんとちゅーしたかっただけなんだけどなぁ」
『へっ……』
「でも一応ちゅーできたし、お水のむよ」

私の腰を抱いたまま一気に水を飲み終えたトド松が、ぷはーっと可愛らしく息を吐く。あれ、私今日トド松に会える予定じゃなかったんだけどな。離れることを許さない膝立ち状態のまま、ぱたぱたと熱くなった顔扇ぎ、考える。だって、ついさっきまでお布団に入る準備万全だったよね。これ、トド松を早く寝かしつけないと私もしかして寝られない?



「ねぇねぇ名前ちゃん」
『な、なにかなトド松?』
「……なんでおそ松兄さんをうちに入れるの」

さっきまでとは打って変わって真剣な目をしたトド松に思わず息を飲む。脈絡の無い会話には、なんとなく返していればよかったけど、さすがにこの話となると私も言葉に詰まらざるをえない。やっぱりトド松、気にしてたんだ。酔ってるし、都合よく忘れてくれてないかなぁなんて思ったんだけど、そう上手くもいかないよね。


「そんなつもりじゃないなんて、言わせないよ。ねぇ、普段から家にいれてるの。もしかしてほかの兄弟も?」
『いっいれてない!』
「せっかく名前ちゃんにあいたくてわざわざきたのにさぁ」

こんな真夜中にね!と思わず心の中でツッコミを入れるが、トド松は私のことはお構い無しだ。
抱かれていた腰を引っ張られ、ぐるんと回るようにしていつの間にかしっかり組み敷かれてる。わぁいつもヘタレ全開なのに、トッティがいつになく積極的だぁ。何これ、私どうしたらいいんだろう。

「ボクそういうのって許せないんだよねぇ。ジェラシーっていうのかな」

降り注ぐキスの嵐とトド松の両足に片足を挟まれているせいで、身動きが取れない。彼氏だから、トド松だから怖いことはないと思うけど、このまま勘違いさせてされるがままじゃいけない気がする。その一心で必死に手足を動かしてみるが、私の力でトド松に敵うわけがない。

『ひゃうっ』

べろりと首筋を舐めあげられ、思わず情けなく声を漏らす自分が恥ずかしい。

『トド松やめっ、ねぇ一度話……っぐぁ』
「……」
『トド、松?』
「……ん」
『あれ、寝てる』

肩にどしりとした重みを感じ、今度は全く女の子らしくない声が上がる。トド松が乗り重たい上半身を無理矢理起こすと、私を襲いかけていたトド松が私の上で動かなくなっていた。くかくかと寝息を立てて気持ちが良さそうに寝ている。


なんだかどっと疲れた。時計を見ると、もう1時半を回っている。アルコールが回り温かくなったトド松の頭を撫でるとトド松は少し嬉しそうに小さな口元を動かした。
私は起き上がることも出来ないまま、背中に床暖の温かさを感じながらため息をつく。


『(どうせ、明日になったら憶えてないんだろうなぁ)』


[END]

ただトド松が酔ってるだけ。
酔っ払いは会話にならない。
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