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A


 砂浜で水を掛け合ったり、海で泳いだり、男の持つ水鉄砲で遊んだりとふたりでルルハワの海を満喫していたのだが、流石に少女の体力が持たず今はビーチパラソルの下でゆっくり休んでいる。男の足の間にちょこんと座って、男を背もたれにしている様は傍からみれば不敬なのだろうが、男は全く以て気にしない。ぎゅうっと少女の体を抱きしめられるし、もちろん存分にキスもできるからだ。
 ちなみに、水鉄砲で遊んだ時に勝利したのは少女である。男の名誉のためにこの事実は永遠に葬られるだろうが。


「あれ? 足の爪のネイルしてないんだね、テスカトリポカ」

「ん? そうだな。しておいた方がよかったか?」

「う〜ん、テスカトリポカの好きなようにしたらいいと思う。いつもネイルしてるからちょっと驚いただけなの」

「へえ、そうかい。なら、なまえ。塗ってみるか?」


 つんつん、と男の足先をつつく少女に機嫌よく笑いかけ、いつも使っている黒のネイルポリッシュを手のひらに出現させた。
 今回のテスカトリポカは夏を遊ぶ装い。戦に赴く化粧はしなくてもいいだろうとネイルはしていなかったが、もしかすると少女は男のネイルを好ましく思っていたのかもしれない。
 おっかなびっくりといったようにネイルポリッシュを受け取った少女は蓋を開け、刷毛に付着した黒のネイルをフチで調整し男の爪に塗り始めた。


「はみ出ちゃったらごめんね……」

「別にいい。なまえに塗ってもらうことに価値があるからな」


 よしよし、と優しく頭を撫でれば少女は目を細めてそれを受け入れている。幸せそうに口元を緩ませて、少女はゆっくりと丁寧に男の爪を黒に彩るのだ。


「黒のネイルってかっこよくて好き。校則でネイルはだめだから、お休みのときたまーに塗ることはあったんだけど……黒はしたことないなあ」

「なら後でオレが塗ってやろう。お揃いってヤツ、好きなんだろう?」

「! いいの? 嬉しい、ありがとう!」


 真剣な顔ではみ出さないようにムラにならないように一つ一つの爪を黒に彩る様子を眺めて、男は満足げに微笑む。こうして触れられることは好ましい。少女の手によって染められるのは心地よいのだ。


「よし、できた! 上手にできた、かな……?」

「ああ、上出来だ。ありがとさん。……後で手の爪も塗ってくれるか」

「うん、もちろん! ……今はグローブ、脱いでくれないの?」


 寂しそうな顔を浮かべグローブ越しに少女は指を絡めてくる。手を繋ぐことが好きだと言っていたし、そもそも男に触れられることも好んでいる少女にとっては切ないものがある。不満だと言いたげに唇を尖らせた少女に苦笑いを零し、慰めるようにその唇を舐めた。


「ひゃあっ」

「悪いな。脱ぐのは部屋で、だ」

「っ、ん、ゃ、テスカトリポカのえっち…………」

「ははははははは! オレも男なんでな。さて、手を出せ。次はなまえの番だ」


 わざとらしく少女のわき腹や内ももを撫で、ちう、と首筋に痕を残さない程度に吸い付く。甘ったるい声を漏らした少女がうるうるとした瞳で男を見上げる様は、誰がどう見たって誘っているも同然だ。男は少女に対しての情欲を抑える事ができない。日に日に増えていくそれをどう発散しようか悩むほど。
 くつくつ笑いながら、男は手慣れたように黒いネイルを少女の爪に塗り広げる。己の手よりも小さいから爪も小さいのか、といつもよりあっさりと塗り終わってしまった。足の爪も塗ってやらねえと、と少女の右足を持ち上げ膝を立てた己の足に置いて塗りやすいように高さを調整する。黙々とネイルを塗ってやれば、いつものテスカトリポカとお揃いの姿になった。


「テスカトリポカ、器用だね……。あっという間に全部塗り終わっちゃった」

「まあな。で、感想は? 愛しのショチトル」

「とっても嬉しい! ありがとう、テスカトリポカ。後で絶対お揃いにしてね?」

「可愛いなまえの頼みだ。違えることはしねえよ、安心しな」


 にっこりと笑って頷いた少女は己の手足を彩る黒を見つめて、感嘆の息を漏らす。どうやら相当にお揃いを気に入っているらしい。可愛いねえ、と零れ落ちた愛に満ちた言葉を少女に捧げ、男は少女の心臓が宿る場所に甘く口づけるのだ。


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