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青と少女のエイプリルフール


「なまえ」

「えっ、恐竜王……!?」


 テスカトリポカの試合中後ろから声をかけられたのだけど、予想もしていない人物の声に驚いて固まってしまう。だって、テスカトリポカがいるタイミングで恐竜王が存在することは基本ない、と断言されていたから。
 その疑問がありありと表情に出ていたのだろう。苦笑いした彼が私の頬に触れ口を開いた。


「今のこの状況がおかしいのは流石のなまえでもわかってるだろ? だから俺もこっちに来れたってわけだ。黒のは試合中か。邪魔されねえうちにいちゃいちゃしようぜ!」

「わっ! ひ、人前、だよ……っ!?」


 にかっと笑った恐竜王が私の隣に座って体を抱き寄せてくる。そしてそのままキスされちゃって、抵抗するように身を捩るも力の強さでは敵わずされるがままになってしまった。
 触れるだけのキスだったはずなのに。ちろちろと唇を舌で甘えるように舐められれば、彼を迎え入れる事しかできない。彼が満足するまでたっぷりとキスをしたら、つう、とお互いの唇に銀色の糸が伝わっていて私たちが何をしていたか明白に見せつけられているようで恥ずかしくなる。


「……え、と、恐竜王もユニフォームなんだね! かっこいい」

「ああ、こっちにきたら強制的にな。……なまえは黒のユニフォームか。なら、俺はこっちをやるか」


 そう言って恐竜王は羽織っていたマントを私の肩にふわりとかけてくれた。あったかい。恐竜王の温もりがする。それを伝えたら何故か深いため息を吐かれてしまったし、またキスされちゃった……!
 マントでぎゅっと体を包んで笑顔を浮かべてテスカトリポカの試合を見ていたら、恐竜王がイラついたみたいで私の体を持ち上げて膝の上に座らせてくる。フィールドには背中を向けちゃっているので、どうしたってテスカトリポカの雄姿が見られない……!


「俺がここにいんのに、アイツに気を取られんな。腹立つ」

「ご、ごめんなさい……。でも……んぅっ」

「でも、じゃねえ。言い訳なんていらねえんだよ。俺を見ていろ、いいな」


 ぐいっと顎を掴まれて顔を逸らすことは許されない。ふっと笑う恐竜王がなんでかとっても色っぽくってぼぼぼっと顔が熱くなった。後ろから歓声が上がりきっとゴールネットが揺らされたんだろうけど、今の私は恐竜王のことし考えられないの。


「愛してる、なまえ。黒だけじゃなく、赤にも……そして、この青にも愛されてるってこと、忘れんなよな」

「忘れてないよ? だって、私も大好きだもん!」

「そうか。ならいい」


 機嫌よく笑った彼がぎゅうっと私の体を抱きしめる。すりすりと首筋にすり寄ってきてちょっとくすぐったいかも……。サラサラの髪をすく様に頭を撫でていると、心地よかったのか彼の体から力が抜けた。
 多分、甘えてくれているのかな……?テスカトリポカは基本的に私を甘やかしてくる。甘えてくることもあるにはあるけど、それは稀だ。恐竜王は私を甘やかしてくれるし、甘えてもくれる。こういう所に違いが見受けられて、やっぱり別の人格なんだなと思い知らされるのだ。
 別にそれが悪い事ではない。テスカトリポカであり、恐竜王であることに私が疑いを持つことは決して無い。


「テスカトリポカにやきもち焼いてくれるの、ちょっと嬉しい、かも」

「へえ? ま、好きな女が他の野郎を見ているのは気に食わねえし」

「……恐竜王も、私以外の女の子、見ちゃやだよ?」

「見ねえよ。どんだけ俺がなまえの事好きか、まだ分かんねえ?」

「ううん、知ってる」

「な、教えて欲しいか。なまえ」


 顔を上げて私を見つめる恐竜王の瞳は熱くて、思わず吐息を漏らしてしまった。どうしよう。この言葉の意味が分からないほど初心ではなくなってしまった自分に、動揺を隠せない。それに……嬉しくてたまらない自分がいて、恥ずかしい。
 いいの、かな?恐竜王のこと欲しがっても、大丈夫なのかな。と不安にさいなまれていると、それを見透かしたのか、ちぅ、と甘く首筋に恐竜王が吸い付いてきた。


「ぁ…………」

「いいんだよ。俺は求められることにも慣れている。そんで、欲しがりでもあるんだ」

「あなたが欲しい……。いっぱい、教えて? 恐竜王」

「ん、良い返事だ。んじゃ、部屋に戻るか」


 神様だから、求められることには違和感を覚えないらしい。当然だとも言っていた。けれど欲しがりだっけ……?となったけれど、私がまだまだ“テスカトリポカ”を理解できていないだけなのかもしれない。
 私は自分の望みを隠すことなく彼に伝え、縋りつく。大好きな人に求められることがどんなに幸せなことかを、私は既に知ってしまっているから。
 返事に満足そうに笑った恐竜王が私の体を強く抱きしめたと思ったら、景色が一変した。どういう仕組かはわからないけれど、一瞬にして私の部屋に戻ってきたらしい。

 とん、とベッドに優しく押し倒された私は、彼の熱を孕んだ手を受け入れるのだ。



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