少女と男のエイプリルフール
朝起きたら恋人がサッカー選手になっていた。
どうして!?と混乱したけど、よくあることだと言われたら飲み込まざるを得ない。確かに今までも変なことに巻き込まれたことあったしね……。それに今となってはその混乱何て些細なこと。だって!!サッカーしてるテスカトリポカ、と〜っても!かっこいいの!!
金色の髪がきらきらとたなびかせながら、長い脚から繰り出される鋭いシュート。足が速いのもあって相手陣営の守備を容易く躱してゴールを決める姿なんて、本当に蕩けそうになるほど素敵。
今回もこちらのチームがあっさりと勝利したようで、相手チームの選手とユニフォームを交換している。……いいなあ、私も欲しいなあ。一応テスカトリポカと同じユニフォームを着させてもらってるけど、テスカトリポカが着たユニフォームが欲しいの!我儘だってわかってるから言わないけど……多分、気づかれてると思う。
上半身裸の姿で私のもとにやってくるテスカトリポカに見惚れながら、私は横に置いていたタオルを手に持って彼を迎える。
「お疲れ様、テスカトリポカ! と〜ってもかっこよかったよ!」
「おう、ありがとさん。それにしてもまた随分とオレに見惚れていたじゃねえか」
「だって、かっこよかったんだもん! その、筋肉がついているのも、運動神経がいいのも知っていたけど、こうやって見られると思わなくて……。好きな人のかっこいい姿ってやっぱりどれだけ見ても飽きないし、もっと好きになっちゃう」
「へえ? ならもう少し本気を出してやるとするか。で、オレの分はもちろん残してるんだろうな?」
「大丈夫! 残してるよ!!」
疲労回復に良いとされるはちみつレモン。いつの間にかテスカトリポカの専属マネージャーとして扱われるようになってから、支給されるようになったの。とっても美味しくて私も食べちゃってるんだけど、そもそもテスカトリポカの分だから食べ過ぎないように気を付けている。
あ〜ん、と差し出せば素直に食べてくれた。いつもはされることが多いから、ちょっと楽しいかも。はちみつレモンだけだと喉が渇くから、スポーツドリンクも手渡せばごくごくと飲んでいる。あれだけ汗をかいてたんだから、先に水分の方がよかったかもしれない……!反省。次の機会に生かすことにする。
タオルで汗を拭いているとはいえこのままだと体が冷えちゃうから、ジャージを着てもらおうと思ったんだけど、その前にちょっとだけだから、と甘えさせてもらっちゃおう!
ぎゅうっと抱き着いてその胸元に頬ずりすれば、慌てたように体を離された。い、嫌だったのかな、と泣きそうになりながらテスカトリポカを見つめると、違う、と小さく言葉が返ってくる。
「シャワーを浴びてもいないんだ。あまり近寄るな」
「どうして? 汗をかいてても、とってもいい匂いだよ? 大好きな匂い」
「オマエなあ……! ったく、まあいい。存分に抱き着いていろ。気が済んだら一緒にシャワーを浴びに行こうな?」
「えっ、なんで私も……? 汗かいてないよ?」
「なんでもだ。そら、来いよ」
両手を広げて待ち構えるテスカトリポカに、私はぎゅむっと抱き着く。テスカトリポカも抱きしめ返してくれたから、ほっと胸をなでおろした。
汗をかいていても嫌な匂いは全然しないし、なんならいい匂いがするから驚きだよね。とあるサッカー選手とユニフォームを交換したら、とってもいい匂いがしたっていうニュースを見たことがあるし、そういう感じなのかな……?なんて。
次の試合もあるしシャワーも浴びて疲労回復のマッサージもして……と、予定を考えているとそろそろ離れないとまずいなあ、と渋々体を離した。
「次の試合もあるから、シャワー浴びる……?」
「そうだな。可愛がってやろう」
「…………え」
シャワーを浴びるだけだと思っていたのに!えっちなことするつもりだ……!にやにやと笑うテスカトリポカから逃げようとするも、ぎゅっと腰を抱かれてシャワールームに連れていかれてしまう。
「し、試合あるのに、」
「最後まではしねえよ。それは夜までお預けだ」
最後までしないという言葉にほっとしたのも束の間、結局夜にえっちするんだ……!とどきどきと心臓が早鐘を打つ。すり、と大きな手で頬を擽られるだけで、私の体はびくりと震えてしまった。それを見たテスカトリポカは満足そうに笑ってキスをしてくる。
その顔を見ただけであっさりと受け入れる準備を整えてしまった私も私だなあ、と内心苦笑いしつつ、いっぱい愛してもらおうと彼の首裏に腕を回してあむっと唇に甘噛みするのだった。