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沢田美奈子。通称、ミナ。並盛中学校1年A組。
全テストの平均点、17.5。跳び箱は3段まで。逆上がりもできない。おまけに極度の人見知りで、クラスメートと上手く話せない。
「何をやってもダメダメのダメミナって……あんた、本当にツナそっくりだよね。人選ぴったりだわ。」
「うぅ…。」
「そんなんじゃ、立派なボスにはなれないぞー。」
「だ…だから、なるつもりなんかないってば!」
美奈子が目に涙を浮かべながらそう言うと、優花はケラケラと笑いだした。
場所は黒川邸の優花の部屋。学校では前世のことやこの世界のことについてゆっくり話せないため、たまにこうして優花の部屋で集会を開いているのだ。
一頻り笑った優花は、テーブルに置かれた黒いノートをパラパラ捲りながら「でもさ。」と口を開く。
「もうすぐ球技大会あるじゃん。そろそろなんじゃない?あいつがやってくるの。」
「……。」
「覚悟決めとかなきゃね〜。あいつが来たら、毎日忙しくなるだろうし。美奈子の周りも賑やかになってくるでしょうからね。」
「……優花ちゃん、意地が悪いよ。」
「ふふ。これで美奈子の人見知りもマシになるんじゃない?」
優花がそう言うと、美奈子は頬を膨らませて、持っていたクッションに顔を埋めた。ボソッと「他人事だと思って…」と呟けば、優花は「ごめんごめん。拗ねないで?」と言って、美奈子の頭を優しく撫でた。
「私もこのポジションを有意義に利用して、原作に関与していくつもりだしさ。美奈子のこともちゃんとフォローしてあげるから安心して?」
「関与していくって、どうやって?……あと、前から思ってたけど、その黒いノートはなに?」
「ふふふ、よくぞ聞いてくれました!!!」
ぱっと表情を明るくした優花は、片手で持っていたA4サイズの黒いノートを見せびらかすように、美奈子の目の前へと掲げた。
優花がいつでもどこでも持ち歩き、よく何かを書き込んでいるノートだ。美奈子はそれが何のノートなのかずっと気になっていた。なぜなら、それを誰かが見ようとしても必ず阻止されてしまうため、美奈子が知る限りではそのノートに何が書かれているのか知る者は誰一人いないからだ。
興味津々にノートを見つめる美奈子に満足した優花は「美奈子には、特別に少しだけ見せてあげるね!」と言って、そのノートの適当なページを開いてみせた。
そのページには文字がぎっしり書かれていて、美奈子は恐る恐る始めの方の文章を口に出しながら読んでみた。
「えっと…、『キャバッローネファミリー。ボンゴレファミリーの同盟ファミリーの1つ。同盟勢力としては3番目に規模が大きく、5000近くのファミリーを傘下に置く。』……って何これ?!」
「あ、それはキャバッローネファミリーのページね。キャバッローネの歴史についてはその次のページに纏められてて、最近あった大きな出来事とかはその次の次のページにあるよ。あと、ボスであるディーノさんについては、こっちの『黒川のノート〜キャラクター編Vol.2〜』に記載されてまーす!」
「え、えっ、キャバッローネのページってなに?!…っていうか、『黒川のノート』って?!」
鞄から沢山のノートを取り出した優花に、美奈子は目を丸くする。どうやら、黒いノートは一冊だけではなかったらしい。
分野ごとにしっかり分けられているそのノート達を優花は、自ら『黒川のノート』と呼んでいた。美奈子の顔がだんだん青くなっていく。
そして、優花は嬉しそうに口を開いた。
「私、ずっと夢だったのよ……情報屋になることが!」
「じょ、情報屋って…。」
美奈子は、そんな漫画みたいな…と思って口を噤む。だって、ここはまさにその漫画の世界なのだ。キラキラ目を輝かせながら、情報屋の格好良さを語る優花に、美奈子はあははと苦笑を漏らした。彼女のこういうお茶目なところは、昔から変わっていない。
それにしても『黒川のノート』とは……名前が安直過ぎると思うが、きっと彼女は『山本のバット』の真似がしたいのだろう。本当にそれでいいのかと不安になったが、本人がご満悦そうなのでまあいっか、と美奈子は突っ込みを放棄した。
それよりも気になることがあるのだ。美奈子は心配そうに口を開いた。
「…でも、大丈夫なの?歴史とか、最近あった出来事とか、前世の記憶を頼りにしたとしても知り得ない情報まで書かれてるんでしょ、これ。こんな情報、一般人が手に入れられるわけないし……。優花ちゃん、何か危ないことしてるんじゃない?」
「んー。そりゃ、ちょっとはね。前世の記憶が大本だけど、その他の情報はそういうのに詳しい人から聞いたり、潜入調査したり、ハッキングとかして収集してるかな。」
「んんん?!!」
「まあ、キャバッローネファミリーについては…イタリア遠いし、自分の足で調べに行けないから、ネットを使って得た情報が多いかも。あ、ネットでも色々な人と繋がっててね〜。」
「や、やっぱりいい!それ以上は聞かないでおく!もう優花ちゃんが無事でいてくれるなら、何でも良いから!……あ、でも…あまり無茶はしないでね。」
「うん。ありがとー。」
優花が笑顔でお礼を言うと、美奈子もへらっと笑みをこぼした。もう彼女の情報元については触れまい、と心に決める美奈子だった。
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