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「へえ!三人はクラスメートなんですか〜!」
「そうなの。まさか、休日にナミモリーヌで会うなんてビックリだよね。」
「まあ、私は第3日曜日だから、もしかしたら京子いるかなー?って思ってたけどね。」
「……。」
どうしよう
キャッキャッと女の子らしくお喋りする三人を目の前に、私は硬直していた。
笹川京子と三浦ハル事の発端は数十分前に遡る。
「うーん…迷うな。ミルフィーユは外せないとして、あとはフロマージュタルトと、シュークリーム……いや、ベイクドチーズケーキも捨てがたい。モンブランもいいな…。」
「あの…優花ちゃん、まだ?」
「もうちょっと待って。」
「は、はい…。」
ビアンキの件の報酬として約束していたケーキを買いに、ナミモリーヌへとやってきていた私たち。ショーケースに並べられた、さまざまな種類のケーキをじっと見つめて早10分。まだ決まらないのかと呆れ顔の私に、優花ちゃんは「これは大事なことなの!」と真剣な表情で言った。
いつも迅速果断で迷いのない優花ちゃんだけど、食べ物に関してはそういかない。彼女の食への愛は底を知れず、前世でもよくこうやってケーキ屋さんやら人気の飲食店やらに連れていかれた記憶がある。
これは最低でもあと10分はかかりそうだな、と溜息をついたとき、どこかで聞き覚えのある声が私の耳に入ってきた。
「はひっ!ど、どうしましょう…30円足りません!」
(この口癖に、この喋り方……まさか、)
バッと横を見れば、そこにはポニーテールの可愛らしい女の子が、財布を片手に困っていた。間違いない。彼女はリボーンの登場人物、三浦ハルちゃんだ…!
まさか、こんなところで会うなんて…。いや、でも、確か彼女はケーキが好きなんだっけ?じゃあ、ここにいても別におかしくないのか、と私が頭の中でいろいろ考えている間に、優花ちゃんが「どーぞ」と言って、彼女に30円渡していた。…あれ?優花ちゃんさっきまでショーケースの前にいなかった?瞬間移動?
30円を差し出されたハルちゃんは、とても慌てた様子で首を横に振った。
「そんな…!悪いです!頂けません!」
「いいよ、30円くらい。困ったときはお互い様だもの。」
「で、でも…!」
「うーん。じゃあ、これは貸しってことで。今度会ったときに返してよ。」
優花ちゃんがそう言うと、ようやく納得したのか。ハルちゃんは「わ、わかりました!次に会ったとき、これは必ずお返しします!」と頷き、借りた30円をギュっと握りしめた。律儀な子だな…。
その後、お礼を言った彼女は、お互い名前も知らないことに気が付き(私たちは知っているけど)慌てて自己紹介をし始めた。
「私、三浦ハルっていいます。」
「私は黒川優花。並盛中の1年生。…で、あそこにいる子が沢田美奈子。」
「へ!?」
突然、此方を向いたかと思えば、優花ちゃんは私のことまで紹介してくれたようで。動揺する私に、ハルちゃんはニコッと笑い「よろしくお願いします!」と頭を下げた。ので、私も「こ、こちらこそ…!」と急いで頭を下げた。
そんな私の様子が面白かったのか。クスクス笑いだした優花ちゃんに、私は頬を膨らます。誰のせいでこんな狼狽してると思ってるの!
何か文句を言ってやろうと口を開いたそのとき、「あれ、優花?」とまたまた覚えのある声が聞こえてきて、私は恐る恐る声の方へ振り返った。恐らく、この可愛らしい声はーーー
「京子じゃん。ちっす。」
「やっぱり、優花だ。あれ?ミナちゃんも!」
「こ、こんにちは…。」
「ふふ、こんにちは。」
やっぱり、そこに立っていたのは笹川京子ちゃんで。
今日も無邪気な笑顔が可愛らしい京子ちゃんは、私の小さい声も聞き取って、ちゃんと挨拶を返してくれた。……やっぱり、返事を貰えるのは嬉しいな。
京子ちゃんの私服姿を生で見るのは今日で初めてだけど、女の子らしい黄色のワンピを身に纏った京子ちゃんは、女の私でもドキドキするくらい可愛らしかった。さすが並盛中のアイドル。ツナが片想いするだけある。
そんな京子ちゃんの私服姿をもうすっかり見慣れているであろう彼女の親友、優花ちゃんは「ちょっと京子に相談があるんだけど…」と言って、彼女をショーケースの前に連れて行った。
「ミルフィーユと、フロマージュタルトと、もう一品に悩んでてさ。シュークリームと、ベイクドチーズケーキと、モンブラン、どれがいいと思う?」
「え〜そうだなぁ。やっぱり、私だったらシュークリームは外せないかな!」
「わかります!ここのカスタードはバニラビーンズ入りですもんね!」
「そーそー!すごくおいしいよね。」
「へえ…。二人がそう言うなら、シュークリームにしよっかな!」
優花ちゃんはそう言うと、私の方に振り向き「決まったよー!」と言った。よかった、京子ちゃん達のおかげで思ったより早く決断したみたい。
私のお金でさっそくケーキを購入した優花ちゃんは、京子ちゃん達は何を買うのかと問いだし、いつの間にか三人はケーキ談義に花を咲かせていた。……なんというか、女子って感じの空間って感じで新鮮だなぁ。
甘いものは普通に好きだけど、そんな詳しい訳でも何かこだわりがあるわけでもない私は、彼女達の会話に入っていくことができず、一人ぼーっと空を眺める。
すると、またどこからやってきたのか。店の外で茶人の格好をしたリボーンが、抹茶をシャカシャカと茶筅でかき回しながら声をかけてきた。それにしても、なぜに和茶…。
「立ち話もなんだから、うちにきてゆっくり話せ。茶ぐらい出すぞ。」
「あ、リボーンくんだ。ちっす。」
「ちゃおッス。」
「きゃー!とってもキュートな赤ちゃんですっ!」
「本当だ、かわいー!優花、この子のこと知ってるの?」
「うん。美奈子の家庭きょ「いとこなの!!!」
素直に本当のことを言おうとした優花ちゃんの声を渡り、私は咄嗟に嘘を吐き出した。あ、危なかったー!優花ちゃんってば、偶にとんでもないこと仕出かすから気が気じゃないよ。
京子ちゃん達は、どうやら私の言ったことを信じてくれたようで。「そうだったんだ!」「可愛いベイビーちゃんですね!」とニコニコ笑顔をリボーンに向けていた。ほっ。
そうして、リボーンのさっきの発言より、三人はうちにやってきて、現在に至るわけだ。
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