▽
「
復 活!!!」
「な、なんだ…っ?!」
「ダメミナの雰囲気が変わった…?」
「死ぬ気で試合に勝つ!!!!」
「……これが死ぬ気モードの、美奈子。」
額に死ぬ気の炎を宿した美奈子は、普段の彼女からは想像がつかないくらい荒々しく快活だった。
優花は、死ぬ気弾が飛んできた方に目を向ける。そこにはニヤリ、と笑みを浮かべた小さなヒットマンが、相棒のカメレオンを片手に乗せて立っていた。
「うおりゃああああっ!!!」
パコーンッ!!!!!
「だ、ダメミナが打ち返したっ!」
「しかも、めちゃくちゃ速え!」
「すげぇぞ、沢田!!!」
観客達が席から立ち上がり、身を乗り出す。回転をものともしない美奈子のレシーブは、強く、速く、正確に相手のコートへと打ち返した。
目を見開いたまま固まっていた審判は、はっと我にかえり、美奈子達の得点板に点を入れる。それは美奈子がとった初めての1点だった。
「くっそ、今のはまぐれだ!次は打たせない…!」
「来い!!!!」
C組の選手は、自分のサーブが、あのダメミナと名高い美奈子に打たれてしまったことが相当悔しいようで。次はさらに回転のかかったサーブを繰り出してきた。
けれど、死ぬ気の美奈子にそんなものはきかない。彼女は、山本に教えてもらった綺麗なフォームで、球を相手コートへ打ち返した。
「次は私の番だ!!!」
そう言って、今度は美奈子がサーブを打ち始める。美奈子のサーブは驚くほど回転がかかっていて、相手は球をラケットに当てることもできずに大きく空振った。
そうして、あっと言う間に4点差が開く。何度も続いている美奈子のファインプレーに、観客達は喝采を送った。
「やるじゃねーか、沢田!俺も負けてらんないのな。」
美奈子の活躍に士気が上がった山本も、本気モードで試合に臨んだ。結果、圧倒的な力の差を見せつけ、逆転勝利。その流れに乗り、後の試合も勝ち続けた1年A組は見事、学年優勝を飾ったのである。
「私、沢田さんのこと見直しちゃった!」
「うん。なんか、只もんじゃ無いって感じだったよね。」
「すげぇ、迫力あったよなー。」
わいわい盛り上がるクラスメート達。教室の後ろには、A組のみんなで勝ち取った優勝カップがさっそく飾られていた。
もうとっくに帰りのHRは終わっているのだが、優勝の余韻に浸っていたいのか。なかなか帰ろうとしないクラスメート達に優花は苦笑した。気持ちはわかる。
でも、このまま下校時間を過ぎれば、あの面倒な風紀委員長がやってきて、問答無用で噛み殺されるだろう。その前にさっさと帰らなければ。
鞄を肩にかけ、京子と共に教室を出ようとしたとき、後ろから呼びとめられた。
「黒川!」
「あれ、山本じゃん。今日はお疲れー。」
「おー黒川もお疲れ。バスケ見てたぜ。大活躍だったじゃねぇか。」
「まあね〜。それで、私に何か用?」
「ああ。…沢田がどこ行ったか知らねーか?教室にいねーけど、鞄はまだ教室に置いてあっから帰ったわけじゃなさそうだしさ。」
教室中をきょろきょろ見渡しながらそう尋ねてくる山本に、優花は「あー」と思い出したように言った。
「多分、校舎裏ね。」
「校舎裏?なんで、そんなとこに沢田がいるんだ?」
「そりゃ、決闘よ。校舎裏って言ったら、決闘か告白しかないでしょ? まあ、告白みたいな甘いムードじゃないことは確かだから安心しなさいよ。……いや。でも、あれもある意味で告白……というより、むしろプロポーズ?」
あんな険悪な態度から一転。"あなたに命授けます。"だなんて、忠誠心を示しだす獄寺隼人を思い浮かべ、優花はうーんと唸った。
あれだってプロポーズみたいなものだろう。それも、かなりガチ目の方のだ。コロッと心変わりした忠犬に、困った顔の美奈子が容易く想像できて、優花はクスリと笑った。
「えっと、黒川…?」
「…ああ、ごめん。何でもないわ。美奈子に用があるんだったら、あの子の鞄持って行ってあげてよ。あそこから取りに戻ってくるの、大変だろうからさ。」
「え、お…おう。」
山本が頷くと、優花はニコリと笑い、「それじゃ、お願いね〜」と手をヒラヒラさせながら言った。自分も追々原作に介入していく予定だが、今日は疲れたからさっさと帰りたい。
優花は隣で待ってくれていた京子に声をかけ、今度こそ教室を後にした。
ドッカーン!!!
暫くして、校舎裏の方から聞こえてきた爆発音に、ついに始まったかと優花は口角を上げる。風紀委員がやってくる前に、この騒動がおさまれば良いのだけれど。
一方、京子はというと「どこかで大安売りでもしてるのかな?」といつも通りの天然を発揮していた。
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