比翼連理


ハロウィン2023  






「ハロウィン?」

 テーブルの上に置いてあるカボチャのキャンドルに気付いたらしい豹馬は、リビングに入って早々そう呟いた。

「うん。帰りに雑貨屋さんで可愛いの見つけて買っちゃった」
「へぇ。そういやそんな時期か」
「日本ほどアピールしてる感じじゃないもんね。夜ご飯の時ちょっとつけてみようかなって思うんだけどどうかな」
「いいじゃん」

 なら照明も落としてそれっぽくしよーぜ。
 そう提案してくれる豹馬に嬉しくなりながら、この日のためにこっそり豹馬の栄養士さんに教えて貰ったカボチャ料理の最後の仕上げをするためにキッチンへと戻るのだった。


 
 ▽



「美味いな、このカボチャスープ」
「ほんと?よかった、一応味見はして大丈夫だとは思ってたけど豹馬の口に合わなかったらどうしようかって心配してた」
「ナマエの料理を不味いと思ったことないけど?」
「ありがとう。でも得意じゃないのは自分が一番わかってるので……」
「それでも努力してくれてんだよな、俺のために」

 助かってるよ。
 そう言って微笑んでくれる豹馬に相変わらず甘やかされてるなぁと思う。料理が壊滅的に出来ないわけではないし、味覚音痴と言う訳でも無い。だけど冷蔵庫のなかを見てあるもので上手に作るれるとか、一汁三菜バランスよく考えられるとかそういったことが上手く出来るほど料理が得意なわけではなかった。だから普段はチームの栄養士さんに任せることが多いのだけど、豹馬が日本食を食べたくなった時やこうしてイベントごとの時くらいは頑張りたい。こっそり栄養士さんに聞いたとは言っても、たぶん豹馬のことだから気付いてるんだろうな。だけどこうやって頑張って作ったものを美味しいと言って貰えるのはそれだけで嬉しいので、得意ではないけれどまた作ろうと思う原動力になっていた。

「このキャンドルも雰囲気出してるし」
「豹馬が照明落としてくれたから更にいい感じ」
「さすが俺だよな」
「さすが豹馬だね」

 自慢げな言葉に同意を返すと豹馬が満足そうに笑うから私もつられて笑ってしまう。幸せだな。普段が幸せじゃないわけではないけれど、こう言うふとした時に自然とそう思えることが嬉しくて、やっぱり豹馬についてこっちに来て良かったなと心から思うのだった。
 
「後はここにアルコールがあれば言うことなかったんだけど」
「それはブレイク期間まで我慢しないとだね」
「こっちは年末年始も関係ねーもんな……」
「頑張ってね、応援してる」

 そう笑って言っていれば、ふと豹馬が思い出したように「そう言えば」と呟く。

「あの看板娘とかと一緒に仮装とかすんの?」
「え、しないよ」
「する時は言って。俺もついて行くから」
「だからしないってば……」

 恥ずかしいし。
 確かにコースメイトの子達の間でそう言う話が出たことはあるけれど、恥ずかしくて断った。子どもたちや友人が可愛い格好をしているのは微笑ましいなと思うけれど、自分がやるとなれば話は別。羞恥心の方が勝った私は断固として拒否をした。

「ふぅん。じゃあさ、俺と一緒にやる?」
「え?」
「チームメイトのやつがさ、彼女と楽しめよ!って一式くれたんだけど」
「ちゃんと練習してください……」
「練習はしてるって。んで、魔女と血濡れメイドとナースどれがいい?」
「待って、やるとは言ってない……!」 
「俺としてはナースはありきたりだし、メイドはなんか誰か思い出すから却下。魔女はハロウィンだしありかなとは思う。ちなみに俺は豹の耳貰ったわ。マジでアイツ安直すぎんだろ」
「話を聞いてください、豹馬さん」
「聞いた上で流してるんです、ナマエさん」

 それは余計にタチが悪い……
 そう言って豹馬を軽く睨んでみるけれど効果は無いらしく、豹馬は涼しい顔で残りの料理を食べ進めていく。さっきまで美味しくできたと思っていた筈のスープやグラタンの味が一気に分からなくなった気がした。とりあえずゆっくり食べよう。その間に豹馬の気が変わるかもしれないし。なんて、豹馬の気まぐれが発動することを今ほど望んだことは無いかもしれない。

「ゆっくり食べてもいいけど、その分寝る時間が遅くなるから」

 どうやら私の浅はかな考えを察するのは、二十年以上の付き合いの豹馬にはきっとリフティングを十回するより簡単だったんだろう。のろのろと視線を上げると、そこには綺麗に完食されたお皿を目の前にして、頬杖をついて私を見ている豹馬の姿。全部食べてくれて嬉しいと言う思いは、先程の言葉と鼻歌でも歌い始めそうなほど機嫌のいい豹馬とのこれからを考えて綺麗に相殺された。そして同時に冷蔵庫で出番を待っている存在があることを思い出す。

「因みにデザートに甘さ控えめのカボチャプリンもあるんだけど……」

この状態の豹馬に言っても後でって言われるかな。明日でも食べれないことは無いけど、折角だし……ダメ元で聞いた私に帰ってきたのは「食べる」と言う即答の三文字だった。
 
「え、食べてくれるの?」
「は?当たり前。俺のために作ってくれたのに食べないわけないんだけど?」
「豹馬……」
「ナマエが作ったものは全部俺が食べるし、ナマエも俺が食べる。オーケー?」

 なんかどこかで聞いたような語尾だな、なんて思いつつ、結局豹馬の甘い言葉に今夜も私は絆されるのだった。

  
 
 
  




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