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好きなものを知りました  




「……なんで?」

 放課後の図書室。図書委員の受付担当だった私は、あまり人が来ないことをいいことに細々とした作業に没頭していた。少ししてカウンターの向こうに人の気配を感じて、顔を上げた先に見えた人物は凡そ図書室とは無縁だと思っていた人物で。受付として失礼だなとは思ったけれど、思わずそんな声が漏れた。

「おつかれ、速水さん」

 そんな私の言葉は気にも止めていないのか、いつものようにニコニコと人好きのする笑顔を浮かべてその人物──新開くんは軽く手を上げる。

「……貸し出し、じゃ無さそうだし課題?」

 借りるのかと思ったけれど彼の手元に本は無い。それならば課題の調べ物か。普段あまり図書室を利用しない生徒が目的の本の場所が分からずに聞いてくることは少なくないので、きっと彼もそうなのだろうと思って聞いてみた。すると返ってきたのは否定の言葉。じゃあなんで。自転車競技部の練習が今日もあるのは隣の席の東堂くんが向かっていたから知っている。それなのに課題でも貸し出しでもなく彼がここに居る理由が分からない。

「はは、おめさんすごい顔になってる」
「……」
「オレがここに居る理由がわからない?」

 面白そうに笑う彼の言葉を受けて素直に頷く。

「聖がさ、今日日直なんだけど先生に頼まれ事して少し遅れるって言うから伝えに来たんだよ」
「聖……御園さん?」
「そう、御園聖。オレと同じクラスなんだ」

 御園さんは私と同じ図書委員で、同じ学年ということもあって一年の頃からよく一緒に受付担当をしていた。私の中では親友と呼べるくらい仲がいいと思っている彼女とは今日も例に漏れず一緒に担当になっている。今日はまだ来ていないなとは思っていたけれど、私の授業が早く終わったのもあってそんなに気にしていなかったらどうやらそう言う理由らしい。

「えっと……ありがとう。あと失礼な態度取ってごめん」

 わざわざ伝えに来てくれた彼に知らなかったとは言え申し訳ない態度を取ってしまったと謝れば、問題ないさ、と爽やかに返された。これは確かに女子が騒ぐのも分かる気がする。

「これから部活?」
「ちょっと遅れるって言ってあるし、もう少ししたら向かうかな」
「そっか。頑張ってね」
「あ、速水さん」

 長く引き止めるのは悪いし、そもそもクラスの違う新開くんと話す話題があるわけではないのでそう言えば、なにか思い出したように新開くんが私の名前を呼んだ。なんだろうと首を傾げれば差し出された一枚のメモ。そこには見覚えのある本のタイトルが記されていた。少し前に出た推理小説……?

「それ、ここ入ってるか?」
「うん、あるよ。確か今は誰も借りてなかったと思う」
「お、それはラッキーだな」

 他に人も居ないし場所を知ってる私が取りに行く方が早いだろうと思って、待っててと声を掛けてカウンターを出る。そう言ったのに着いてきた新開くんを伴ってそんなに遠くない本棚の前に行けば、私の思った通り目的の本は棚に並んでいた。

「新開くん、推理小説読むんだね」

 棚の少し高い位置からなんとか取り出した本を手渡しながら言うと、意外だった?と聞かれるので少し悩んで小さく頷いた。するとふはっと息を吐いて新開くんが笑う。

「速水さんって結構素直だよな」
「そうかな」
「オレはおめさんのそんなところ好きだけどな。推理小説は好きなんだ。最近練習が忙しくて買いに行けてなかったから助かった」

 そんな話をしているうちに貸し出しの手続きが終わる。返却は二週間後です、と図書委員らしい言葉を告げれば、オーケーとウインクを返された。そんなことを嫌味なくしてしまう辺りが人気の所以なのかもしれないなぁ。それでもウサ吉の世話をしっかりしていたり、意外と読書家な一面を知ってしまえばチャラいと思っていたイメージは訂正した方がいいのかもしれない。そんなことを思いながら図書室を出ていく大きな背中を見送った。

 ──そう言えば新開くん、御園さんのこと名前で呼んでるんだな。


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