Don't catch me if you can


仲間認定されました  




このクラスになって初めての席替えがあった。廊下側から二列目、後ろから二番目のこの席はなかなか悪くない。そういえば隣は……と左右を見渡せば左隣はあまり話したことのない男子。どうやら彼は彼の左隣の子と仲が良いらしく、そちらとの話が忙しそうだ。まぁいっか、と思い反対側を向いて、そして思わず息を飲む。なぜなら隣へ移動してきたのは、艶やかなセミロングの髪に映える真っ白なカチューシャが特徴の彼。箱根学園自転車競技部のレギュラーメンバーである東堂尽八くんだったから。

「む、これから暫くよろしく頼むよ。速水さん」
「あ、うん。よろしくね、東堂くん」

驚きのあまりじっと見てしまった私の視線に気付いたのか、東堂くんの方から掛けてくれた声に慌てて同じ言葉を返す。申し訳ないけど正直東堂くんもあまり得意ではないんだよね。親友の幼馴染みでもある彼の話は彼女との話で時々話題に上っているから、東堂くん自体がと言うよりは周りの女の子たちが騒がしそうという理由が大きいんだけど。あ、でもやっぱり自分で美形云々言っているところを見ると本人の問題もありそうだ。まぁいいか、隣だからってたくさん話さないといけないわけではないし。

 


 
そんなことを思ってから一週間。だいぶこの席での生活にも慣れてきた。左隣の男子も話してみると意外と面白い人で、大声で騒ぐタイプじゃないようで安心したし、東堂くんは相変わらずファンの子達に騒がれているけど、授業中以外は部活の練習やミーティングで席を空けている時も多いからそんなに大した問題にはなってない。
そう、つまりは何事もない平穏な日々を送れている。

……筈だった。

「尽八!悪い、今日の部活少し遅れるって言っといてくれないか?」

今日最後の授業が始まる前の小休憩。
そんな声が聞こえて視線を少し右へと動かせば、先週少しだけ会話をした程度の同級生が視界の端に映り込む。東堂くんだけでも充分なのに、校内でも人気な二人が揃ってしまえば周囲が黙っている筈も無く、ざわつき始めたクラスと廊下の生徒に内心小さく溜息を吐いた。

「隼人。別に構わんが何かあったのか?」
「さっきの授業中寝てたのがバレて、放課後になったら資料運べって言われちまってな」
「はぁ……お前と言うやつは、」

ははっと笑ってあまり悪びれた様子のない新開くんに、大きく溜息を吐いた東堂くんがなにやら小言のようなことを言っている。東堂くんも苦労してるんだなぁ。そう言えば副部長だっけ。あれ、副キャプテン?なんて適当なことを思いながら数学の教科書を机の上に広げた。

「おい、聞いているのか隼人」
「あぁ聞いてる……って、あれ」
「ん?」

あ、この先生確か日付の出席番号で当てるんだっけ。進み速いと当たりそう……先に解いといた方がいいかなぁ。

「尽八の隣の子って……」
「速水さんか?」

問題を解き始めたところで自分の名前が挙がって咄嗟に東堂くんたちの方を振り返ってしまった。その結果、当たり前だけれど二人と目が合うことになってとても気まずい。この状態で目逸らすのもあからさまだよね……

「なんだ、二人は知り合いだったのか?」
「えっと……」

首を傾げる東堂くん。
知り合い……彼のことは有名だから知ってるけど、私の名前は知らなかったし、話したのもこの前が初めてだったレベルだから知り合ってはない、よね……?それをどう説明すればいいのか迷っていれば、目の前から予想外の言葉が飛んできた。

「あぁ、ウサ吉仲間なんだ」

はい?
いまなんて……

「待って、あの」
「おっと、そろそろ次の授業始まるな。じゃあ尽八頼んだ。速水さんもまたウサ吉の所で!」

私がなにか言う前に颯爽と自分のクラスに戻って行く新開くん。いやいやおかしいよね?仲間ってなんだ。確かにウサ吉は可愛かったしもふもふだったし最高だったけど、新開くんと会ったのも話したのもあの時が初めてだし、私の名前を知ったのすらさっきだよね?
え、何これ私からかわれてるの?
……だめだ、意味がわからない。

たった数分の間に起こった話の展開についていけず、動作が停止した私を不思議そうに東堂くんが眺めていた。


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