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「はい、どうぞ」
「ありがとう。悪いね、いつも」

 慣れた動作で貸し出しの手続きを終えて、カウンターの向こうに立つ新開くんへ本を差し出す。本を受け取りながらにこりと笑う笑顔はとても爽やかで、これは確かに女子に人気が出るはずだと変に納得してしまった。

「ん?なにかあった?」
「あ、ごめん。なんでもない」

 まじまじと見つめてしまっていたのがバレて、慌てて首を振る。そんな私に少し不思議そうな顔をしつつもそれ以上深く突っ込むこともなく流してくれた彼に感謝していると、御園さんが返却された本の棚戻しから戻って来た。おかえり、と声を掛けると優しく微笑んでくれる彼女は今日も綺麗だ。

「あら隼人、珍しいわね」
「速水さんから推理小説の新刊が入ったって聞いたからさ」
「いつの間にそんなに仲良くなったのよ」
「もう速水さんからお菓子を貰えるのは聖と真波だけじゃないんだぜ?」

 新開くんのよく分からないドヤ顔に御園さんがムッとした反応を返す。そのやり取りに仲の良さが垣間見えて、あぁそう言えばこの二人同じクラスだったなと思い出した。あれ、それなら。

「新開くん、新刊情報は御園さんに聞いた方が早いんじゃない?」

 確か前に聞いた話だと前後の席って言ってたし、それならわざわざ私に聞かなくてもいいんじゃないかな。そう思って問いかければ、二人は顔を見合わせてぱちりと瞬きを一つ。学年でも有名なイケメンと美人が並ぶとそんな何気ない動作でも絵になるから凄いと思う。

「おめさんに聞くの、迷惑だったか?」
「え、」

 新開くんの言葉に今度は私が目を瞬かせる番だった。迷惑かと言われれば、そんなことは無い。なにせ新刊として入ってきたタイトルをメールで送るだけなのだから。それも所詮は学校の図書室レベルとなれば、毎月の数だってたかが知れている。寧ろそのメールの返信にお礼と共に添付されていたウサ吉の写真が可愛くて、暫くそのまま眺めていたくらいだ。それを言うのはなんだか恥ずかしくて、新開くんには秘密にしているけれど。
 迷惑じゃないよ、とゆるゆる首を横に振ればその顔にまた笑顔が戻る。そんなに感謝されることようなでもないんだけどな。

「速水さんが迷惑になったらすぐやめていいわよ。隼人が自分で確かめに来ればいいだけなんだから」
「うん。とりあえず今のところは大丈夫」
「ありがとな、助かるよ。そう言えば──」
「あ!いたいた、速水ー!」

 ガラッと図書室のドアが開いたかと思えば、ほぼ同時に私の名前が呼ばれて驚きつつも振り返る。するとそこに居たのは今井くんの姿。あー、これは……

「……今井くん、図書室だから静かにして」
「悪い!なぁ、この課題なんだけどさ!まとめるのにわかりやすそうな本ねーかな??」

 私の言葉をまるで無視したかのように、今井くんはカウンターにバサバサとプリントを広げる。……あぁもう。静かにしてって言ったのに。悪いと思ってるなら態度で示して欲しい。カウンターにプリント並べられても困るんだけどな。そう思いつつも、今までの経験からきっと変わることは無いんだろうと諦めて、それなら早々に本を渡して満足してもらおうと広げられたプリントに目を通す。今回は世界史……この範囲ならあの棚にあったかな。御園さんに少しの間カウンターをお願いと視線を送れば、このやり取りを何度か目撃している彼女は同情の視線を返してくれた。

「何冊か持ってくるから待ってて。範囲はこれだけだよね?」
「おう、頼むわ!」
「うん、静かにしててね」
「任せろって!」

 ……ダメだこれは。一応の確認も済ませたので取りに行こうとした時。

「今井」
「なんだよ、いま忙し──って新開?!」

 今井くんの名前を呼んだのは新開くんだった。いや、今井くんは忙しくないよねと心の中で突っ込みつつも、新開くんに気付いて驚く今井くんに驚いた。あれ、二人とも面識あったんだ。

「お前、速水さんと仲良かったんだな」
「ん?あぁ、去年同じクラスだったんだよ!いやぁ、速水の渡してくれる本って的確でさ!マジいつも助かってるんだよ。やっぱ持つべきものは友達だよな!」
「……痛い」

 バシバシと肩を叩かれて思わず眉間に皺が寄る。今井くんは悪い人ではないんだろうけど、なんて言うか距離感が近いのと騒がしいからあまり得意なタイプではない。そんな思いが顔に出ていたのか、止めてくれたのは新開くんだった。

「こら、速水さんに迷惑かけるなよ」
「え?オレ迷惑かけてる?」
「……とりあえず図書室では静かにして欲しい」
「おぉ、悪い……」

 新開くんの言葉で少しトーンの下がる今井くん。すごいな、私じゃ無理だったのに。

「あとさ、距離近いんじゃない?」
「え、そう?あれ、速水も思ってた?」

 思っていたことを全部言ってくれた新開くんに感謝しながらこくりと頷けば、まじかー!と大袈裟に驚かれた。予想はしてたけど本当に気付いてなかったんだ。まぁでもそうじゃないと無理か。一人納得したところで、新開くんにありがとうと伝えて本を取りに向かう。あれ、そう言えば新開くん今日は部活無いのかな。それに今井くんが来る前何か言いかけてた気もする。

「新開くん、そう言えばさっき何か言いかけてた?」
「ん、いやなんでもないよ」

 振り向いてそう問えば笑顔で返答が来た。ならきっと大したことじゃないんだろうと思って目的を果たしに本棚へと向かう。

「待って、新開……え、なに?そういう感じ?!」
「今井、ちょっと黙ろうな」

 そんな会話が背中で聞こえたのを最後に、今井くんの大きな声は聞こえなくなった。本当にすごい。今度どうやったのか教えて貰った方がいいのかもしれない。

「はい、これで大丈夫だと思うよ」
「おお、助かるわー!」
「そう言えば今井くん、新開くんと知り合いだったんだね」
「ん?オレ自転車部よ?」
「え……」
「なんだその信じられませんみたいな顔!お前人の話聞いてなかったのかよ!何度も話しただろ、中でも新開はオレが昔からその速さを、」
「……ごめん、聞き流してた」


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