ピンチ!




 何も言わずに訪ねてきた幼馴染みの深海が、もう、かれこれ20分くらい俺の部屋の隅で無言のまま拗ねている。
 しばらく放っておいて、最初に放った言葉が、

『……………昴の馬鹿』

 だった。

「何でだよ。つーか、どうしたんだ、急に」

『………………うましか』
「いや、意味わかんねぇって」

『昴ちゃんのクセに』

「昴ちゃんって言うな! つかクセにってなんだクセにって」

『昴なんて嫌いだぁぁぁぁあ!』

「泣くなって!」

意味がわからん、なにがしたいんだ!?

『昴、私のこと好きって言ってたのに浮気なんてしてぇ! バカバカバカバカバカァ!』

「落ち着け、彩綾! 浮気ってなんのことだ!?」

肩をつかみ、グッと顔を寄せる。コイツが癇癪を起こしたときの対処法その1だ。

『………見ちゃったの』

「なにを?」

『昴がさ……部活の友達たちとさ……その……いわゆる、えっちな本買ってるの』

「………なんだって?」

『……っ、昴がエロ本買ってるの見たの!!』

「なっ……!? 身におぼえがないぞ」

『言い訳無用! 昨日TUTOYAで買ってたでしょっ。京兄にお使い頼まれてTUTOYAに行ったときに昴が友達とえっちな本のコーナーに行くの見たんだからっ!』


 ようやく、何を誤解しているのかわかった。
 スポーツのコーナーと、その、アダルトコーナーは隣接されている。一応仕切り布はあるものの、薄く頼りないものだ。

「……昨日は確かにTUTOYAに行ったけど、スポーツのコーナーに行って、買ったのはバスケの特集号だ。だから、そういう本は買ってない」

『ほんと? 昴ちゃん』

「だから、昴ちゃんはやめろって。本当だ、あのバッシュに誓ってもいい」

『宝物のバッシュに誓うんなら、信じる』

「ああ」

『やきもちやいてごめんね?』

「いや、いいよ」





──そんなやきもちをやくところも可愛いとか思ってる俺は、相当コイツにやられてる。



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