郁(六歳)のお泊まり〜侑介〜
ピーンポーン
ピーンポーン…
侑「今出るー。こんな夜更けに、誰だ?」
──誰もいない…?
いや、確かにインターホンは鳴った。
首をかしげると、クイクイ、と控えめにスウェットの裾が引かれる。
視線を下げると、そこには……
郁「侑くん……ぐすっ…」
涙を浮かべながら大きなウサギのぬいぐるみ(まさにーが作った、確かうさたんとか言うやつだ)を背負っている末の妹、郁がいた。
とりあえず急いで部屋に入れる。
侑「どどどどどうした郁!? どっか痛いのか? まさか、誰かに虐められたのか!? 虐めた奴の名前教えろ、俺が仇とってきてやる!!」
郁「ちがう……怖い夢、見たの……」
侑「夢ェ?」
郁「侑くんがね、お兄さまとケンカしてね、おうちから出ていっちゃうの。それで、郁がね、さがしに行ったのに、侑くん見つからなかったの」
お兄さま、と郁に呼ばせてるのは、つばにーだ。
つまり、俺がつばにーと喧嘩して俺が家を出ていく、っていう夢を見たらしい。
(相手がつばにーってところが変にリアルだよな…)
郁「郁、いっしょーけんめーよんだのにぃ……ぐすっ…」
侑「あーもー泣くな! 大丈夫だ、俺は郁を置いて出てったりしねーよ」
郁「…ほんと?」
侑「おう」
郁「よかったぁ」
にっこり笑う郁に、胸がほんわかする。
(可愛い……!)
侑「そういや、そのウサギどうしたんだ?」
郁「あのね、これはお泊まりうさたんなの! お泊まりするためのうさたん!」
侑「へー。まさにーが作ってくれたのか?」
郁「うん! ……あのね、にーにのおへやに、お泊まりしてもいい?」
無自覚なのか、ふとしたときに小さい頃のように『にーに』と呼ぶ。
その破壊力は絶大である。
侑「お泊まりぃ!?」
郁「だめ?」
必殺・郁のおねだり炸裂!
侑「いや、だめじゃねー。全然だめじゃねーから!」
郁「やったぁ!」
侑「そういや、ダムはどうした? いつも一緒にいるだろ」
郁「ダムはおねーちゃんのところでジュリくんと一緒にいるの」
侑「そうか…アイツのところか…」
郁「にーに?」
侑「いや、なんでもねー。じゃあ寝るか」
郁「うん! えへへー」
侑「どうした?」
郁「ゆーくんとねるの久しぶりー。うれしいなっ」
侑「そーいやそうだな。……なつにーとひかにーとは同じ布団で寝るのか?」
郁「うん。なつくんとひかちゃんは同じおふとんだけど、光にーにはダメだって言ってた」
侑「女装か否かで変わるのか……?」
郁「にーにのときはダメなんだって。でも、ねるときにおきがえするからいつもいっしょだよ?」
侑「ひかにーのやつ、一緒寝たいから女装してるな…?」
郁「なつくんはね、ぎゅーってしたら、ニコニコで、なでなでってしてくれるの!」
侑「……聞いちゃいけないことを聞いた気分だぜ……」
郁「ふあ……」
侑「あぁ、ねみーか?」
郁「あや、ゆーくんといっしょにねる…」
侑「おう」
郁と仲良く一緒のお布団で寝た侑介だが、翌朝、郁を起こしに来た椿が、いなくなったと騒ぎ、全員で探しまくってる途中で侑介が郁をおんぶしながら「なにしてんだ?」と言ったところ、右京からは説教され、椿からは冷ややかな目で見られた。
郁は1日ご機嫌だった。
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