ピンチ!



『ねぇ、侑介』

「あー?」

 今、俺の部屋にはクラスメイトの深海彩綾が遊びに来ている。小さい頃から一緒にいる、いわゆる幼馴染みだ。家族全員と面識があって、かなり仲が良い。キョーダイたちの性格を把握してるスゲーやつだ。
 このマンションの二階に部屋を借りて、(実家はすぐ近くなのに)一人暮らしをしているけど、週に2〜3回はウチで飯食ってるから、半分くらい朝日奈なんじゃねぇかと思う。
 ………実は、2ヶ月前くらいから俺の彼女なんだけど…つば兄とかにバレたらぜってーからかわれるから秘密だ(ちなみに向こうから告白された)。

『あのね、さっき見ちゃったの』

 俺のベッドに寝転がりながら、ベッドに背を預けて床に座ってマンガを読んでる俺に抱きつく。

「何をだよ」

『侑介の秘密』

「はぁ?」

何言ってんだコイツ。秘密にするようなことは……なくはない、けど、ほとんどバレてるハズだ(なんか知らねーけどいつの間にかバレてんだよな)。

「俺の秘密ってなんだよ」

 マンガを隣において、彩綾の方を見る。
 ……顔近えな。

『言ってもいいの?』

「言ってもいいのって……もったいぶらずに言えよ」

『じゃあ言うけど……』

少し申し訳なさそうな顔をする。いつもは口が悪いコイツがおとなしいと、違和感がある。


『侑介ってさ…………巨乳が好きだったんだね』


………………は?

『この家で巨乳好きなのって京兄くらいかと思ってたけど、まさか侑介もだとは……あ、ちなみにかな兄は論外ね』

「誰が巨乳好きだよ」

『侑介と京兄』

「いや、意味わかんねぇよ。何がどうしてそうなったんだ」

『コレ』

バサ、と投げられたのは。

『[巨乳のあの子に○○したい★〜真夏のビキニからこぼれるア・イ・ツ〜]』

「§★▽∈∀♂(な、なんでお前がそれを)!?」←声にならなかった。

『うんうん、流石は男子高校生。性欲の塊だね! でも、隠し場所が甘いよ。引き出しの一番下の棚の二重底に参考書のカバーを掛けて閉まっておくなんてさ』

性欲!? いや、それ以前にどうやったらそんなピンポイントで見つけられんだよ……!


『え? 侑介のことで私が知らないことがあるとでも?』

「エスパーかオメーは!」

 ったく、ビックリさせやがって。
 つーかあの本は──

『………でもさ、私ショックだった。私の胸は所詮Bカップだしさ、巨乳には程遠いし……』

 しょぼん、と肩を落とす。……チクショー、ちょっと可愛いとか思っちまった自分が情けねぇ。

「あーもー! なに勘違いしてんだよオメー!」

『え?』

「その本は、ダチから隠しといてくれって頼まれただけで、俺はこれっぽっちも興味ねぇ!」

それに、と続ける。

「俺が好きなのはオメーだけだ!!」

 勢いで言い切った。

『ホント?』

「オレはオメーに嘘ついたことねぇだろ」

きょとん、としたコイツの顔見て、自分が何て言ったのかを思い返す。

……勢いだけで何て恥ずかしいこと言ってんだ俺はぁぁぁぁあ……


 顔が熱い。多分、今の俺の顔は髪の毛との境目がよくわかんねぇことになってる。

『侑介』

「……んだよ」

『ありがと』

ちゅっ。

「なぁ……っ!?」

『えへへ、私も侑くん大好きです』

ぎゅう、と抱きつく幼馴染みに、俺はため息をつく。

「……俺は、あーゆー本は買わねぇ。約束だ」

『うん。侑くん、昔から嘘つかないもんね』

「おう」





本当は、一つだけ嘘をついてた。



──俺も、ずっと前からオメーが好きだった、ってことだけ。



でも、もうそんな嘘はつかねぇって決めたんだ。
俺は、オメーが思ってるよりずっと、オメーが好きだから。




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