怒声が鼓膜を強く叩き、銃声が鳴り響く。
血飛沫が舞うその場所に、たったひとつだけ、小さな影があった。
小さな影は銃を撃つ大勢の男達のあいだをすり抜け、通った後は声にならない悲鳴と共に、大地が紅く染まる。
圧倒的な数の敵に、微塵も躊躇することなく、ただ淡々と刃を振るうその影に、男達は恐怖に戦きながらも、必死に応戦した。
しかし、銃を撃っても当たらず、次の瞬間には己の身体に刃が食い込み、胴が二つに裂かれている。
それでも男達は、逃げるわけにはいかなかった。愛する祖国のために。そして何より、大切な家族のために。
しかし、遂には残るはただ一人となった。
影が、ゆっくりと男を追い詰める。
「…来るな、来るな、来るな、来るな来るな来るなぁぁ!!」
男は半狂乱になり、無茶苦茶に乱射した。
すると、弾が硬いものに当たった音と、カラン、と何かが落ちる音がした。
地面に落ちているそれは、影が着けていた仮面だった。
影が、ふと今まで被っていたフードを外した。深い闇の色をした髪が揺れる。
そしてやはり、淡々とナイフを振り上げた。
男が死ぬ間際、最期に見たものは。
「─────」
──血のように紅い瞳を持つ幼い少年だった。
少年が、最後に言った言葉は、
『ごめんなさい』
その、一言だった。
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