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  私と彼は、元より交わる事はなかった。
 幾重もの堅く厚い壁が、私と貴方の間を隔てているから。
 だから、こんなこと許されていいはずがなかったんだ。

 ――と、ほとほと煮詰まった頭で考えた文章を画面に打ち込みつつ、私が書きたかったのはこんなことだったろうかと連載立ち上げ当初のプロットを見た。うーん脱線してる、というかもはや違うお話だわこれ。うまくいかなーい!とひとりごちて勢い任せにぐちゃぐちゃにしたまだ湿っている髪の毛に、ああ髪の毛乾かさなきゃ…でも、更新…と"やらなきゃいけないこと天秤"がやじろべえのように揺れる。

「(大詰めも大詰めだし、もう終わりも見え始めてる…なんとか一気に書き終えたいんだけど〜!!!んんん〜〜〜!!!!)」

 見切り発車で始めて今までなんとかやってきてはいたけれど、書きたいものと自分の描写できる技量というのは違う。そのセンスのなさに文字打つ手はしばしば止まった。
 私は所謂、漫画やゲーム、果ては映画のキャラクターに夢見て恋するしがない夢書きで、恥ずかしながらも二次創作サイトの管理人なんてものをやって十代後半の青春を費やしているわけで。友人に見事にはめられ…いやあれは良い布教であったけれども、そこはそれよ。恋したゲームの中のイケメンに向けて届かぬ思いをつらつらと恥ずかしげもなく書き連ねていたことがいろんな人の目に留まり、なんとまあ読者なんて仰々しい存在が私にもできたところであった。
 読んでくれる人がいるというのはそれ以上に嬉しいことはないもので、最初のうちは舞い上がって連投なんてしていたけれどそんなのは長く続かない。あれよあれよという間に週一更新、月一更新…三カ月に一回と間は開いていった。

そうスランプだ。
私は完全なるスランプに陥っている。

「はー……」

未だに髪を乾かしもせず、文章も書き進められず机にうなだれていると遠くで母が早く寝なさいなんて聞こえた。
確かに眠い。でも、髪乾かさなきゃ。いやいや更新しなきゃ。
こんなくだらない堂々巡りあってたまるか、と遠のく意識に身を委ねてそのままの体勢で目を閉じる。

眠い。うん、明日は明日の私に任せよう。

船をこぎ始める私の睡眠欲はイヤに素直に夢の向こうへ連れて行ってくれた。

・*・*・*・

「んっ…あ?」

唐突に入り込んだ光に顔をしかめつつ、バキバキになった体を伸ばすと靄がかった思考がはっきりと輪郭を帯びていく。
そういや、机で寝ちゃったんだっけ。うっわ髪の毛ゴワゴワ。
まだぼんやりとした視界の中で、物憂げな瞳を秒針が進むたびぱちぱちとさせる猫の壁掛け時計をみやると7:30を丁度指し示していた。

「んんんん????7:30!???!?ちょ、まって出る時間!!!!お母さーん!!!!!」

急に覚醒した脳みそはない脳みそなりに警告信号を出して私に急げと問いかけてくる。
まずいまずいと独り言を言いながら制服に着替えようとハンガーにかけたブレザーを取り出すがどうも違和感があった。

「あ、あれ…??」
「なに!?どうしたの星河!!?こんな急いで…!!」
「こ、これ、えっなに、ど、どうしたの…」

バタバタと私の部屋に急いで入ってきた母は朝ごはんを作っていたのか味噌汁のいい出汁の香りを引き連れてきた。いや、それどころじゃない。私が昨日、明日の為と出しておいた制服と今手元にある制服は違うどころかもはやコスプレというか、ゲームの中の高校の衣装だった。そう、私が夢見ていたあのStarrySkyの星月学園の制服だ。

「も、もしかして遅めのクリスマスプレゼント…だったり??」
「何バカなこと言ってんの、明日から転入する予定の学校の制服でしょう?まあ、大きくとらえれば親からのプレゼントに相違はないけど…」
「あ、あし…?えっ?転入???」
「そうよ、あんたが駄々こねて今行ってる高校より近いし制服可愛いしって転入試験頑張って行けるようになったんじゃない!もう、朝から大きな声出させないで!」

ご飯はあと少しでできるから、早く歯を磨いてらっしゃい。なんて事もなげな言葉を投げて、呆れた様子で母は部屋から出ていった。
こんなこと、夢小説の中だけの話だろう。馬鹿な。しかも、家ごとなんて聞いたことない。
ぼうっとしていても、新品の可愛らしい制服は私の手元から消えてなくならないところをみるとどうやら事実らしかった。

とんでもないことになったな。
そう思いながらも起き抜けの頭は暢気なもので月子ちゃんに会って友達になろうあわよくば親友の座を射止められたらなんて思った。





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