「人様の迷惑にならないように、って何様のつもりなんだろう」

 何、突然どうした、とクロに問われる。クロには関係のない話、と答えると、へえ、と適当な相槌。それでいいんだ。

 最初、クロといるのは大変だった。全然喋らないし、何を考えているのかわからなかった。当時はわからなかったけれど、少し鈍いところも、そのくせ本当に知るべきことは言わなくてもわかってくれることも今ならわかる。俺はクロのバレーボールに付き合うようになって、そしてクロはいつの間にか俺に世話を焼くようになった。クロは俺に気を遣うことを苦に思っていないと思うし、俺もクロに付き合うことをそれほど苦に思っていなかった。

 もちろん、ちょっとくらいな嫌なときもあるけれど。

 部活のみんなも、面倒くさいことの方が多いかもしれないけど、俺は嫌いじゃない。

 総合学習も第二週目に入った。相変わらずの調子で話が進む。今回は少しだけ物を言ってみたけれど、静かに流された。ただの予防線だったから、それは別に構わなかった。そもそも俺たちの方がまだいい。彼女と事を進めている女子たちなんて、彼女が取り繕うものだから、実際俺たちと本質的には変わらない扱いを受けていることに気がついていない。

 みょうじなまえさんは誰のことも信用しない。

 担任の教師が前にて出て話し始める。わずかなざわめきの中発せられた言葉は、俺たちのものとは本質的にずれていて。

 ああ、そういうことか、と思う。

「前提が違ったんだよ」

 議論の最初の一文を読み損ねていた。一応読んだのに気がつかなかった、とぼんやりと思う。今までの仕事は白紙に返る。俺の言葉に、女子たちの中身のあるのかないのかわからないみょうじなまえさんへの励ましの言葉。誰かがリーダーというわけでもないのだから、彼女にそんな言葉を言うのはおかしいだろうと俺は思うけれど、彼女はそう思ってはいなかったようだった。
______一応、班員こんなにいるわけだし、みょうじなまえさんが頑張ってきたのは事実だし、そんな世界の終わりみたいな顔しなくてもいいんじゃないの。

 結局、課題は最初から。時間もあるけれど、何もしないのもよくはない。時折意見を言いながら、成り行きを見守る。俺の言葉なんて素直に採用なんてなんてしないのだけど。微笑み時折謝るが、その言葉の節々から、彼女がより一層頑なになっていることがわかった。

 ただ、最後。時間が終わって背を向けたその時に聞こえた言葉に、俺は溜息をついた。たとえ思っていたとしても言わなくても良いのに、と。たとえそれが女子に向けた言葉で、俺たちに聞こえていないと思っていたとしても。

「ああ、男子なんて最初からいないものだと思っているから」

 彼女は俺たちに対する怒りと侮蔑でしか、その感情を消化できない。そして完璧主義者だ。勇者はダメージを受けずに魔王を倒せるわけではないし、勇者一人で魔王に勝てるわけでもない。そもそも現実がゲームよりも簡単であるはずもないのに、彼女はこんなに簡単なことになぜ気がつかないのだろう。

人様の迷惑にならずに生きるなど不可能
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