初めて彼女を見たとき、どうにも不愉快で、それをクロに話すと恋なんじゃねぇかと巫山戯た解答が返ってきたので、それ以降その話をクロにするのはやめた。
「まぁ、お前がそう思うんならそうなんじゃないですか」
突拍子もない俺の言葉について、その答えが聞ければ満足だった。
ゲームだって完璧ではなくて、製作者の過失で選んではいけないキャラクターが存在してしまうことがある。彼女は間違いなくそうだった。面白くもなく、優秀でもない、ハズレのキャラクター。
その名前を知らない人はいない。だっていつも職員室前に名前が貼り出されているのだから。すべての科目で上位に食い込み、今回の校内模試で学年一位を獲ったみょうじなまえ。成績は間違いなく優秀、運動もそこそこ、友人がいないわけでもない。
ステータスを見る限り初心者向けに見えるところも性質が悪い。NPCならば気にも留めないだろうが、それをプレイヤーとして選んだとしたら最悪だ。それか現実となれば尚の事。
世界はゲームよりも複雑で、ゲームよりもずっと性質の悪いものなのだから。
朝は生徒指導。髪を何とかしろと叱られ、良くも悪くない小テストが返却される。満点はみょうじなまえさん一人でした、と教師の声。そのときくらいだ。彼女が嬉しそうな顔を隠すのは。俺はわざわざ言う必要があるかと思いながら、ぼんやりと授業を聞く。休み時間になると、俺はゲーム。でもその日だけは充電を忘れて、俺はゲームの電源を切ってクラスを見渡した。
すぐ目の前で、女子たちがテレビの話を盛り上がっている。その中で、歪な笑顔を浮かべるみょうじなまえさん。
______ねぇ、本当はそれ、興味ないんでしょ。
そんなことを訊いてやるほど俺はお人好しじゃない。彼女にとっては俺は石っころと一緒だ。いつだってそんな目をしている。
上っ面だけの友達と紙切れだけしか見えていないみょうじなまえさん。それを自覚しているようには見えないところが性質が悪い。
関わる必要などなく、関わりたくもない。唯一時を同じ空間で過ごすクラスメート。同じ部活ならともかく、部活も性別も違い関わることもないはずだった彼女。
まさか面倒な総合学習で同じ班になるなど、運が悪いにも程がある。机を移動させるのも、自分が移動するのも面倒で、それだけで全ての仕事が終わったような気分になった。こういった科目は常にその日の時間割の最後になるせいか、部活にはみんなほど行きたいわけでもないのだけど、早く部活の時間が訪れないかと思ってしまう。
憂鬱な気分のまま机に伏せっていると、同じ班の男子たちが騒ぎ始めた。少しだけ顔を上げると、みょうじなまえがそれを一瞥しているのが見えた。
まるで、ゴミを見るような目だった。
おそらく、俺も同じような目で見られているのだろう。みょうじなまえは同じ班の女子たちと話し合いながら課題をまとめていく。無駄のない進行に頭は悪くないんだろうなあと当たり前のことを考える。
彼女は最後まで俺たちをいないもののように扱った。課題はほとんど彼女がやったようなものだった。そもそも面倒くさい仕事をやってもらっているのだから、それについては感謝していたし、関わり合いたくもなかったのだからいないものだと扱われることに腹が立つこともなかった。
不満はなかった。ただ、気に入らなかった。
これは彼女の思い描くシナリオ通りだ。ゲームクリエイターの人格には興味はないけれど、無理矢理見せられもすれば気になってしまう。彼女の作るゲームのNPCになるなんて御免だった。
優等生な君と問題児の俺
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