きらきら光る

カランコロン

 都内でも有名なフルーツパーラー、女性客に溢れるその店に俺はいた。年齢層は幅広く、大学生らしき人から父親よりも年が上だろう人までいたが、男性客は一人もいないし、高校生以下の客も俺たちの他一人もいない。
 確かに、誕生日プレゼントに何が欲しいかと尋ねたとき、プレゼントはいらないからパフェが食べたい、と言いにくそうに答えたのは印象的だった。
 平気でなんでもいいなんて言いそうだと思っていたのと、一緒にパフェ食べる程度のことで口籠ることが不思議だった。ただ、すぐにその謎は氷解する。連れて行かれたのは都内の有名店、パフェの値段も高校生の誕生日プレゼントにしては高くはないが、一回のデートにしては高い。その中で、どう考えても俺たち、主に俺の存在は浮いていた。店内唯一の男、それも高校生だ。たとえ彼女と一緒でも、店員含めてみんな女なのだから居心地は悪い。

 彼女の意図も読めず、ただ居心地の悪さを感じて、ひとりでも来れただろ、とその苛立ちから少し意地の悪いことを言ってやると、ごめん、と申し訳ないそうに謝られた。自分で言っておきながらそんなことは意図していなくて、軽率だったことを反省し、俺も悪かったと謝った。
 華やかな空間を重苦しい雰囲気が立ち込めたが、それを破ったのは随分と地味な色のパフェだった。

「ねぇ、見て。こんなにたくさんマスカットが詰まっているよ」

 普段からどちらかというと表情の機微が少ないくせに、これまでの雰囲気を全て無視した、彼女にしては随分と上機嫌な声。リエーフ並みの空気の読めなさである。あーそうですね、と適当な相槌を打って彼女の様子を見る。
 彼女は目の前のパフェに夢中で、そのくせスマートフォンで写真を撮るわけでもなく、ぐるりとグラスを回すとすぐに食べ始めた。男子かよ、と呆れながら自分の目の前にある苺のパフェと見比べる。紅い苺がふんだんに使われたパフェは確かに美味しそうだったし、同時に、マスカットの緑ってパッとしないな、と思った。
 ただ、苺のパフェは値段相応においしくて、悪くないなと思ってしまった。

「ここのパフェ、おいしいな」
「うん」

 ただ、それよりも彼女の食べる姿だった。溢れる嬉しさを押し込めるように唇を少しだけ噛みながら、クリームのついたハーフカットのマスカットをフォークで刺す。僅かなそれを口に含むと、目を細めてゆっくりと咀嚼する。飲み込んだ後は少し余韻に浸ってからまたそれの繰り返し。前から物をおいしそうに食べるとは思っていた。ただ、ここまでではなかった。

 見ているだけでたとえ目の前のものか不味くともおいしく思えるような気がした。そのせいだろうか、最初テーブルに来た時は量が多いと感じたパフェも、つるんと胃の中に入ってしまった。

 彼女は食べ終得るのに随分と時間をかけたが、大して気にならなかった。食後の紅茶を飲みながら、彼女は切り出した。

「ちょっと気まずかったよね」
「まァ、でも最近スイーツ男子とか流行りなんでいいんじゃないですか」

 彼女の言葉を肯定はしたもののもうどうでもよかった。パフェはおいしかったし、そうそう来れる店でもなかったし、何よりも彼女がそれを選んだ理由もよくわかったから。

「楽しかったよ、ありがとう」
「かわいい彼女の誕生日ですから」

 まったりと淀んだ空気の屋内から出ると、涼やかな風が駆け抜けた。風が気持ちいいね、とアイボリーのカバンを振り回すように腕を広げ、彼女は笑った。そんな様子を見ていたら、軽くなった財布なんてどうでもいいと思えた。

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