ヒナタ

日陰の向こうの日向


 部屋を控えめにノックする音が聞こえた。軽く返事をするとドアがゆっくりと開いた。ドアの隙間から、俺に似た整った顔立ちの俺の片割れの顔が覗いていた。幼い頃は、人見知りでおとなしく目立たなかった。ただ、進学した伊達工業高校が合っていたのか、眉を整え、生来の整った顔立ちもあってか、器量よしになっていた。

「徹、出かけてくる。九時には戻る」
「今から」

 外は真っ暗で、俺たちは夕食を終えて、風呂の順番待ちをしているような時間だった。
 俺の質問になまえは小さく頷いた。

 年の離れた姉家族と両親はちょうど買い物に出ていた。俺たちには妹がいる。喘息持ちで両親に構われていた俺と違い、健康そのものだったなまえは、ずいぶんと妹と仲がよかった。ただ、その妹も入浴中だった。だから、俺に言いにきたのだろう。静かにドアを閉める姿を眺めながら、そんなことを考えた。

 俺は窓を開けた。なにも考えてはいなかった。窓を開けると、俺は机の前に戻った。
 外から、声が聞こえた。

「練習、遅くまであったの」

 聞きなれたその声の何が気になったのか俺は窓の前まで戻ると、窓から家の前を見下ろした。家の前にいたのは、一人の女子高生と一人の男子高校生だった。

 高校生らしいスカートからは、陸上部長距離の、うっすらと筋肉のついたすらりとした脚が伸びていた。女にしてはずいぶんと高い身長も、その脚の長さで帳消しにされる。おとなしく穏やかな性格と整った顔立ち。ただでさえ男が多い工業高校で、恋人ができないはずがない。

 男子高校生はずいぶんと素朴そうに見えた。薄暗くてよく見えないものの、とりわけ顔が整っているようにも見えなかった。黒色のくせ毛で、身長は平均的だった。

「自主練習が長引いてね」

 男子高校生にしてはやや高い声で、声質は明るくさっぱりとしていた。時間を気にしているわけてはないのだろうが、それほど声は大きくなかった。

 俺は小走りで電気を消しに行き、真っ暗になった部屋を移動して窓の前に戻った。窓から身を乗り出して男子高校生を見る。街頭と家の明かりに照らされて顔が見えた。

 俺は目を見開いた。その男子高校生がそれが俺が伊達工で知っている数少ない人間のうちの一人だったからだ。なまえの恋人は、伊達工バレー部のちょうど俺と同じ二年生のセッターだった。

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