「嘘じゃねぇよ今朝のニュースみてないのかよ!?きっと自首したのだって店主の仕業だって!」
勿論二人のそんな話しを誰も信じてはくれなかった
先日二人と一緒にこの話しに乗り気だったカナとタクヤですら呆れたような顔をみせた
「ミキちゃんもユウタくんもきっと怖かったから聞き間違いしちゃったんじゃない?」
カナが眉をさげ慰めるように笑った
お祓いってだけなら頷いてもらえたかもしれないが
駄菓子屋がお祓いだなんていかにも作り話だ
いかにも作り話だと思われたのは、あの店主の風貌を伝えてしまったのも原因だろう
「店主さんも暗くて見えなかっただけで白髪のおじいさんが着物きてたのがそう見えたんだよ」
とカナが言うともしかしたらそうだったのかもしれないとユウタは自信をなくしたように俯いた
確かに暗かったし
怖いと思うと色々なものが人にみえたりするように
頭の中の想像でそう見えただけなのかもしれない
「ユウタはわかるけどよぉ、ミキまで何言ってんだよいつもは弱虫ユウタとかいってからかうくせによ」
腹を抱えてそう笑うタクヤをミキがノートで叩いた
「私は本当の事言ってるの!」
イテっと叩かれた肩を押さえるタクヤにミキが続けた
「一緒にいなかったくせによく言うわよね!見てもいないくせにえらそうに言わないでよね!」
「別にえらそうじゃないだろ!そんなに言うなら着物の店主さんとやらに合わせてみろよ!昨日会ったんだから二人とも顔見知りだよな?どうせカナの言ったみたいに見間違いでじーちゃんが出てくるんだろうけどな」
にっと意地の悪い笑顔を向けるタクヤに「いいわよ!」とミキが立ち上がると
調度担任が教室のドアをあけそれぞれ席に戻った
ガタガタと椅子をひく音がおさまると今日最後の授業が始まる
皆の教科書が一斉にめくられる音がするなか
ミキは何かノートに書き殴るとそのページを破きそっと丸めると担任が黒板の方を向いたのを確認し
2列向こうのユウタの背中めがけて投げた
びくっと驚くと背中から床に落ちたそれを拾いユウタはキョロキョロとし
やがて目があったミキに「読んで」とジェスチャーされると担任をちらちら気にしながら紙をひろげた
"帰り駄菓子屋行くわよ!"
という大きな書き殴られた字をみるとユウタは「えぇ…」と恐いからいやだという顔を向けたが
キッとしたミキの目に押し戻されそっと紙を引き出しへしまった
黒板の文字をノートに書きうつし出したミキの隣の席からカナが小声で話しかける
「ねぇねぇ、ミキちゃん」
一度目は気づかなかったが二度目でミキはペンを止めカナの方を向いた
「今日あの駄菓子屋さん行くの?」
カナの声にミキは二度頷くと再び黒板の文字をうつしだす
「あのね、私も一緒に行きたいなぁと思って」
え?とカナの方を向くと「お願い!」と両手を合わせていたので
見間違いとか言ってたのにと一瞬考えたがミキはゆっくり一言ずつ息のような声で「い、い、よ」と返した
放課後、下駄箱でミキとユウタはカナと3人でタクヤが来るのを待った
痺れをきらしていると廊下の向こうから友達とさわぎ走りながらタクヤが下駄箱に現れ3人を見ると「なんだよ」と足を止めた
「行くのよ駄菓子屋に!」
下駄箱から出した外履きを床に落とし雑に履くと一緒にいた友達を追いかけようとするタクヤの前にミキが言いながらずいっとでる
「おまえらまだそんな事言ってんかよ。」
はいはいとミキを払い下駄箱を出るタクヤの背中に
「あんたそんな事言って本当は怖いんでしょ」
とミキが腰に手をあてハハンと笑った
この言葉に一番頷きたかったのはユウタだ
正直なとこ恐い思いをした所へは二度と近づきたくない
見間違いだったとしてもだ
「俺はおまえらの嘘がばれたら可哀想だと思ったんだよ!それよりよ、おまえらもこの学校の旧校舎のおばけの噂知ってるだろ?見たってやつがいたんだよ俺は今日はみんなでそれを見に行くんだよ」
調度そのときさきに行った友達がタクヤを呼んだが負けじとミキが続けた
「はいはい本当は怖いから駄菓子屋に行きたくないんだよね〜はっきり言えばいいのに弱虫タクヤ」
別にそこまでしてタクヤに駄菓子屋に来てもらおうとは普段なら絶対思わないが
嘘つきだと思われたままは悔しかったのでどうしても駄菓子屋へ行ってせめて証拠になりそうなあの店主を見てほしかった
店主を見た所で幽霊駄菓子屋だという証拠にはならないだろうが
なんとなくあの風貌なら説得力はある
タクヤはフンと顔を向けると
弱虫と言われたのがよっぽど嫌だったのか
そんなに言うなら行ってやるよ!と渋々3人に足を合わせた
あぁでもないこうでもないと言い合いを続けながら歩きいつの間にか商店街まできた4人はまだぽつぽつと人のいる通りを抜けて行く
「カナも見間違いとかいってたくせになんで一緒にいんだよ」
そう大股で歩くタクヤを見上げるとカナはしばらく「んー」と考えた
「だってなんか本当だったら見てみたいよね」
「本当に変わった見た目の店主さんなんだから。タクヤなんかそれだけでびっくりしちゃうかもねー」
からかうように周りを歩くミキを払おうと「うるせぇよ」と出した手は急に走り出したミキとすれ違った
急ぐ足を駄菓子屋の前で止めるとミキは硝子戸の昨日自分が覗くために拭いた場所から中を見つめた
カーテンは半分あいていてまだだいぶ明るいからか昨日より外からでも店内がしっかり確認出来るが
肝心の店主の姿は見当たらない
が、それは昨夜も一緒だ
また硝子戸をあければどこからか店主は出てくるだろう
そう思い硝子戸に手をかけたがガタッと音をたてただけで開かなかった
元々あきにくい硝子戸だったが今日は揺らしても思い切り横へ押してもびくともしない
焦るミキは何か引っ掛かってしまっているのかと思い視線をあちこちへむけたが何もなかった
かわりに硝子戸の手をかける場所より少し下に銅のような色をした金属に縁取られた穴を見つけた
普段目にする見慣れたものと形が違うため気づかなかったが
それが鍵穴だと気付くとミキは落胆した
どうやら今日は鍵がかかっているようだ
硝子戸に写る「そんな…」と肩を落とす自分の後ろを西陽の中通行人の影が過ぎて行く
そんなミキと硝子戸の間に入るとタクヤは中を覗き硝子戸を揺らすと
「あ〜ぁやっぱ嘘じゃんか。こんなんだったら旧校舎の噂見に行った方がよかったわ」
と鼻で笑いミキを見下ろした
「嘘じゃないって言ってるでしょ!」
ミキの言葉にタクヤは突然硝子戸をガンガン叩き出すと
「助けてください幽霊が出たんですーっ!」
とバカにしたように笑いながら言い再び店内を覗き、誰も出て来ないのを確認すると「ほらな」と笑い「じゃーなー」と帰っていった
むすっとタクヤの方を見つめるミキの隣でそっとユウタが胸を撫で下ろした
もし鍵があいていたらまたあの薄気味悪い店内に入らなければならなかったのだから
「あーぁ、ちょっと見てみたかったなぁ駄菓子屋さん」
そんなユウタの気などしらないカナが残念そうに肩をおとした
ミキはもう一度だけ店内を覗くと「帰ろう」とため息をついた
肩を落とし無言で先を行くミキの背中を追いかけるように歩くユウタは暫くそのまま歩いていたが
沈黙にたえられなくなったのか自分と同じようにミキの背中を見ながら歩くカナに声をかけた
「カナんちの裏の猫さ、見つかった?」
カナはユウタの方を見ると眉をさげ「ううん」と首を横にふった
「それがねぇ全然ダメ。いつも一緒に遊んでた猫だからお友達みたいに思ってたんだけど…野良だし違う所にいっちゃったのかもね」
ため息をつき顔をさげるカナを見てユウタはしまったと思った
他の話しをふればよかったものを自分の振った話しのせいで肩を落とす人が一人増えてしまった
何を話しかければいいものかと考えるうちにいつもそれぞれ別れる分かれ道まで来ていた