琢磨【中学1年生】

とある大会が近くなった時、俺は顧問の先生に呼ばれた。

「徳永。みんなよりは早いが、今日の練習からみんなと練習混ざってみるか?」
周りの1年の奴らも驚きを隠せなかった。何よりも玉井先輩達の視線が怖かった。
「俺も徳永は練習に参加させてもいいと思います。みんなより声も出してる、雑用も嫌な顔せずやってる。どうだ、俺たちと一緒に参加しないか?」
「いいんですか!?」

部長は笑顔でうなずいてくれた。頭を下げて初めてコートの中へ入った。これが俺の最悪な結末を迎えることになるとは思ってもみなかった。
練習のボールなのにわざと体にぶつけられる。
「ごめーん、変なとこにボールだしちゃったわ」
玉井先輩の取り巻きだと思われる先輩にぶつけられる。謝ってるときも笑っていて、ラケットを持つ手が震えた。
「おい、お前!!1年なんだからもうちょっと取りやすい球出せよ」
「でもさぁ、こんなボール取れないようじゃ大会なんて到底出られないっすよ?」

部長が味方についてくれてもヘラヘラしてる態度。隣のコートで練習中の2年生や、隅で素振りしてる1年生たちも関わらないように見て見ぬふりをする。 それからというものの、わざと体にぶつけられたりもしたがそのボールがなんと取れるようになったのだ。どのコースから出されても反応できるようになり、3年生の練習についていけるようになった。 これはきっと昔からの運動神経がよかったからなのかな。そう思うと運動好きでよかったなと思った。

大会はあっけなく初戦敗退。次の大会が3年生が最後になるそうで、いつも以上に気合いが入っていた。俺にかまってる余裕なんてないくらいに。その間、俺は部長に稽古をつけてもらい、さらに腕を磨いていった。


「これから団体戦のメンバーおよび、個人戦へ出場する選手を発表する」

顧問の先生の言葉に息を飲む。次々と名前が上がる先輩たちは喜んでいるが、3年生の先輩の名前があまり上がらないことに気がついた。2年生の先輩たちは気まずそうにだが、喜んでいた。

「そして徳永、お前は団体戦メンバーの補欠だ」
「え?」
「お前はこの数ヶ月で格段とレベルが上がった。来年はスタメン間違いなしだ。このメンバーなら少なくともベスト4、次の大会に進めるだろう。」
最初は実感が湧かなかったが、じわじわと嬉しさがこみ上げていき、1年生たちと抱き合って喜んでいた。3年生の先輩の目なんか気にせずに。 帰宅後、親に報告すると嬉しそうに喜んでくれてこれから練習で必要なラケットやラケットバッグ、水筒などたくさん買ってくれた。

「これからも頑張れよ」
お父さんも嬉しそうでにっこり笑ってくれた。

次の日、練習に行くといつもより部内の空気が悪いことに気がついた。2年生に挨拶しても無視、3年生に挨拶しても無視。更には
「おはよう!」
「……」

同学年の1年生にまで無視されるようになってしまったのだ。心当たりはただ1つ。俺が団体戦メンバーに選ばれたから。3年生、特に副部長の 玉井先輩を差し置いて。雑用も率先してやってたのに他の1年に横取りされたり、2年生のあたりが強くなったり。何より玉井先輩が

「1年生で1回団体戦のメンバーに選ばれただけで自分用のラケット買ってるの本当に馬鹿だよなぁ。今回きりなのにな」

そう言ってケラケラ笑っていた。とにかく頑張らないと。こんな人たち相手してるだけ無駄だ。そう言い聞かせて練習に集中した。

「朝練はここまで。放課後は運動公園のコートで練習だから遅れんなよ」

部長の合図で朝練が終わり、部室のロッカーにラケットと水筒を置いて鍵をかけて教室へ戻った。
放課後になり、部室をあけると1年生がザワザワしていた。俺が近づいてきたのに気づいた高田がこっち来んな!と慌てていた。その腕を振り払い、見てみると 俺のロッカーが荒らされていた。ラケットのガットがペンチで切られていて、水筒の中身もこぼされていた。仕舞いには自転車のタイヤも刃物で切り裂かれていた。 俺は今日の練習には参加できない。せっかくラケットとかを買ってくれたお母さんとお父さん、本当にごめん。そして…

「俺、部活辞めるわ」

引き留める同学年を振りほどいて、俺は翌日から部活へ行かなくなった。そこからの部活のことは知らない。そして、部活に行かなくなってからは運動は一切しなくなった。


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