琢磨【中学1年生】

いつからだろう、足が速くなったのは。
いつからだろう、跳び箱が跳べるようになったのは。

いつからだろう、運動がこんなに楽しいと思うようになったのは。


「琢磨、おまえ一緒にテニス部入らないか?」
入学式初日、後ろの席の高田がチラシを見せてきた。正直運動できるならどの部活でもいいと思っていた。 俺は二つ返事で放課後に高田と一緒にテニス部のコートへ足を運んだ。先輩たちは俺たちを見るなり、歓迎してくれた。 初日からラケットを握らせてくれた。球を打たせてくれた。 ゴムでできたボールとは言え、当たるととても痛いがラケットを振る感覚は忘れもしない。

「テニス部って言ってもただラケット振るだけじゃできないぞ。基礎体力を作ったり、中学生の大会はほとんどダブルスだからペアとの連携をとったり、大変なことがたくさんある。それでもやるか?」

後日、顧問の先生へ入部届けを提出しに行ったらそう告げられた。俺はなんとしてもやりたい。職員室に響き渡る声で返事をして、放課後にグラウンドへ行った。周りを見ると10名以上はいそうだった

「じゃあ自己紹介してもらおうか。俺は部長で3年の山下だ。こうして新入生が入ってきてくれたことを嬉しく思う」
「弱小校だしねぇ。あ、俺は副部長の玉井。練習これない日も多いけどよろしくなぁ」

次々と挨拶していく中、違和感を感じた。この人達、運動好きじゃないんだ。

「はい!!!!徳永琢磨です。テニスは初めてです。よろしくお願いします!!!」
持ち前の明るさを生かしていつも通りの挨拶をしてもパラパラと聞こえる拍手に顔をこわばらせる。この違和感の正体はすぐに分かることとなる。


「1年の最初の練習は球拾いからだぞ。俺たちもそうしてきたからなぁ。ちなみに逆らったらどうなるか…」

さっそく脅しをかけてきたのは副部長の玉井先輩だった。見た目も怖い先輩だが、言い方もやはり見た目同様怖い。笑ってるように見えて目が笑ってない。 俺はがむしゃらに球拾いをやって、声がけも誰よりも大きな声でやった。練習終わりにボールを集める。決まった数が集まらないと1年生は帰宅ができないそうだ。

「あれ、ボール1つ足りない」
「よく探せよ、初日からこんなんじゃ洒落にならないって…」
他の1年たちもみんなで一丸となって探すがどうしても見つからない。完全下校時間はとっくに過ぎていて、結局最後の1つだけ見つからず21時に帰宅した。


次の日、朝練の為に早く家を出てコートのある校庭へ向かうと部長以外の先輩たちが集まっていた。1年生の中で1番最初に着いたのは俺だったため、急いで先輩の方へ駆け寄る。

「おはようございます!!早いですn」 「おい、これは何だよ?」

先輩が手にしていたのはいくら探しても見つからなかったボールだった。俺は目を見開いてすみません!!片付けます、と言うとそのボールを顔面に投げられた。ゴム製だけあってとても痛かった。

「ちゃんと全部片付けるまで帰るなって言ったよな?」
「ですが探しても見つからなくて…9時まで残ったんです」
周りの先輩はクスクス笑っている。他の1年も異常事態に気付き、俺に駆け寄ってきてくれた。その途端、玉井先輩はまくし立てるように怒鳴り散らしてきた。

「だったら見つかるまで12時回っても探すんだよ!!普通は!!!!!お前達最初はそれくらいしか役目がないんだからな!!」
「何を騒いでいる」
「チッ、真面目な部長様がお見えだよ……早く練習始めようぜ。このことは部長には黙っとけよ」
俺の耳元で囁いた玉井先輩が悪魔にしか見えなかった。高田が助けてやれなくてごめんな、と謝ってくれた。けれどこんなんでへこたれる俺ではない。だったら玉井先輩が言う球拾いをちゃんとやって、素振りもして、雨でコートが使えない日はランニングを頑張って、コートのブラッシングも自分から率先してやって、球が見つかるまで遅くまで残ってやる。何が何でも。

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